特級冒険者達
剣の国 冒険者ギルド剣の国本部 会議室
会議室には多くの特級冒険者達が集まっていた。剣の国は、北に未開領域が存在しているため、他の国に比べて、特級冒険者の数が多い。それぞれ、睨み合ったり、我関せずといったり、各々好き勝手していた。
本来会議などすっぽかすものが多いのだが、今回の悪魔達による騒動は、ギルドによる強制招集が掛かっていたため、会議に出ないと、タダ働きになってしまうのだ。
そのため、普段はあまり見ることのない顔もちらほらとあった。
「皆、集まってくれて感謝する。今回の悪魔達への対処ご苦労だった」
剣の国本部のギルドマスタージャデンがそう労う。
元特級冒険者でありながら、比較的常識人という事もあって、ギルドマスターを務めていた。各国にある本部は、ギルドマスター、またはそれに近い立場の者に元特級冒険者がいなければ、現役の特級達を抑え込めないのだ。彼等にとって力こそが正義なのだから。
「いいからとっとと終われ」
「もういいだろ?」
「おい表出ろや」
「上等だ、かかってこいや」
「やあ、お姉さん今夜どう?」
「死ね」
「どうもあの店、化粧品の質が落ちたわね」
わいわいがやがやと、全く収拾がつきそうにないため、ギルドマスターは話を進める。
「祈りの国から、正式に今回の悪魔による騒動の、終了宣言が出された」
「そういや聖女はどうなった?」
「知らん」
「6つも唱えれるとは本当かね?」
「けっ、お高くとまった女だろうさ」
「お前は低すぎる女だ」
「殺すよ」
「一遍見たが、ありゃあすげえ女だった。モノにしてえな」
「なんでもリガの街にいるとか」
「んん?この国の?また変な所にいるな」
「なに、そりゃあ一目見に行こう」
「ああ?リガだあ?」
ほんの一瞬だけ、会議室が静まった。
滅多に会議に来ない筆頭であり、例え会議に出ても死ね、糞、とっとと終われ以外の言葉を発することがないため、珍しかったことと、プライドが高く、戦闘力という点では大陸屈指の彼等でも、その声の人物は危険だと判断していたからだ。
多くの者が注意深く、声を発した人物を見る。
青い髪をした、足を机に置いている、30代前後の目つきの悪い男だった。
この男こそ、現役最強の1人と呼び声の高い、"氷と冬の魔人"、"特級最強"、"こいつがいなかったら、もう少し特級のイメージもよくなる"、"死ねと糞しか言えない糞野郎"などの異名を持つエドガーであった。
この男、とにかく喧嘩っ早く、態度も悪かったため、同じ癖の強い特級冒険者達と対決することもしばしばだったが、その全てに勝利しており、現役最強を裏付けていた。
そのため、力こそが正義の特級達にとって、エドガーはまさに目の上のたんこぶであった。
「ふん、糞野郎でも聖女にはご執心みたいだね。見に行こうパオラ」
「ふん、説教でも受けてくればいいのよ。そうねダレル」
「黙れ糞ガキ共」
エドガー曰く、格付けが済んだ現在でもその言動のため、今でも突っかかる人物はいる。
年若い双子の魔法使いの兄妹、ダレルとパオラもそうであった。
この2人、エドガーが持っていた、最速の特級昇進を追い抜いた現レコードホルダーだが、そのことでエドガーを煽ったため、即座に喧嘩になり敗北した過去があった。
「けっ、双子の言う通り、聖女の尻でも追っかけてな。ああ、私が聖女泣かせてやるよ」
「そうは言うがなマイラ、6つも唱えれるかもしれん女だ。私だって興味がある。ああ、それか、自分と同格かもしれないことに苛立っているのかもしれん」
「死ね」
剣士であるマイラと、槍を持っているレイナルドもまた双子と似たようなものだ。
「ふむ。ちょうどいい、久しぶりに行くか?」
「ああ?ちっ、そうだな」
エドガーの隣にいた男、カークが彼に声を掛ける。
"剣が見えない剣神"、"もう一人の最強"、"なんで勇者じゃないんだ?"、"あいつはあいつで辻切りだから"、と言われる、エドガーと唯一互角に渡り合える男であった。
この二人、かなり昔からコンビを組んでおり、エドガーが唯一対等に接している人物ということもあって、他の特級達からも一目置かれていた。しかし、エドガーとは正反対の性格であり、むやみに喧嘩を売る事もないため、その実力を正確に把握しているものは少なかった。
「ああ?カークも行くのか?お前らにも言っとくが聖女は俺のもんだからな」
「お好きにどうぞ」
女癖が悪いことで有名なブラッドが一同に宣言する。
「げっ、マジでエドガー行くのかよ。聖女見たかったんだが」
「あのガキ達も行くんだろう?巻き込まれたらたまらん」
「そんなにありがたいもんかねえ」
「ちょっと別の化粧品試そう」
「まだ終わらんのか」
「皆、もういいか?それではこの件は終了とする。解散!」
終わりそうにないので、ギルドマスターは無理やり解散を宣言することにした。
◆ ◆ ◆
「おじさん!会議終わりました?」
「師匠お疲れ様です!」
会議が終わり、ギルドのロビーまで来た二人に、エドガーの兄の娘セシルと、カークの弟子フィンが駆け寄ってくる。
「支度しろ。リガの街に行くぞ」
「え?ひょっとして聖女様見に行くんです?おじさん」
「ああ?お前も知ってんのか?」
どうやらエドガーとカーク、世間から少し遅れているらしかった。
「まあ、待て。何か酒でも買っていこう」
「いらねえよ、あの糞野郎に」
「聖女様お酒飲むんですか師匠?」
「いや違う、知人がリガにいてな。まあ、聖女にも興味はあるが」
「へえ、どんな人なんですか?」
「いいから支度しろ。とっとと行くぞ」
「あ、おじさん!」
◆ ◆ ◆
リガの街への道中 夜の野営地にて
日はもうすっかり落ち、夜食も終わらせたフィンは気になっていたことを尋ねた。
「それで師匠。どんな方に会うんですか?」
この師匠が、わざわざお酒まで手土産にして、会いに行く人物だ。
「む、なんというか…。そう、最強の人だ。怪物とか化け物とも言う」
「ええ!?人種なんですよね!?」
セシルも驚いている。
「ああ、私達よりも割と年上の人間種の男だ」
「最強ってどういう意味でです?まさかお二人より強いってことですか?」
「そうだ、エドガーと共に昔から挑んではいるが手も足も出なかった。今でもだ」
フィンは半信半疑だった。師匠の下、色々な経験をしたが、この人物達より強い人間を想像できなかった。
「ええ…」
「カーク勝手なこと言うんじゃねえ。今やったら俺の方がつええ」
セシルは珍しいことだと思った。自分の叔父は、野営中に一度横になったら滅多に話に混ざらない。
「おじさんよりその人強いんですか!?」
セシルも信じられなかった。叔父は自分にとってまさに最強だからだ。
「だから、今やったら俺の方が強いつってんだろ」
つまり、以前に負けてしまった事があるのだ。
「いつその人に会ったんです?」
「ああ?…。そうだな、お前らくらいの頃にはもう会ってたな」
自分と同じ頃って一体いつからの関係なのか。
「雪原で、なんか探してる奴がいると思って、後ろから蹴り飛ばそうとしたら投げられた。頭にきて、色々やったが、俺の6つ唱えた呪文にもぴんぴんしてやがったな。最後は思いっきりぶん投げられて終いだ。糞、嫌なこと思い出させるんじゃねえ。とっとと寝ろ」
「ええ!?」
見ず知らずの人を蹴り飛ばそうとしたことにも驚いたが、叔父を投げた上に6つの呪文に平気だなんて、本当に人間種なんだろうか?
「師匠は!?」
「似たようなものだ。切り掛かったはいいが傷一つなかった」
いよいよフィンにもその人物が人間とは思えなくなってきた。
「さて、エドガーの言う通りそろそろ寝よう」
聞きたいことはまだあったが師匠がそう言うなら、今日はお開きだろう。
それに、その人物に会いに行ってるのだ。直接会えばどんな人物か分かる。
そう思いながら、フィンとセシルは寝る準備を始めた。
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