昔話


北の国


雪原で対峙する男が二人。

若い青い髪の方が、年嵩の方に一方的に攻撃を仕掛けていた。

若いというより、まだ少年と言ってもいいような歳であった。


『この糞野郎がああああああああああ!!!!!』


『はっはっはっ。悪ガキめ、そろそろ帰れ』


攻撃を仕掛けていると言っても、年嵩の男はなんの痛痒も感じていなかったが。


『【凍てつく デカい 氷の 山よ あの糞野郎を ぶっ潰せ】!!死ねやあああああ!!!』

『こらあ!悪ガキ!6つも唱えるんじゃねえ!!』


大陸の常識ではありえない、6つの詠唱をして巨大な氷山を作り出し、男にぶつける。


『ありえねえ!!?なんで死なねえ!?』


『そもそも、殺す気で来んじゃねえ!悪ガキ!』


まともに直撃したはずなのに、氷山が割れだし、無傷の男が現れる。


『【雪切り】!!』


『はっはっ】


腰に差した剣で切り掛かる。


『刺さりもしねえのかよ!!?』


『筋肉が足りんのよ。筋肉が』



胴体を切り裂いたはずなのに、服から覗く男の体には傷一つなかった。

『そら、投げるぞ。受け身取れよ』


『あ?おお!?おおおおおおおおお!!!!??』


前に出していた腕を掴まれ、少年はとてつもなく遠くへ投げ飛ばされる。


『がっ!?いってえ!!?』


『じゃあな悪ガキ!風邪ひくなよ!』


遠くから聞こえてくる男の声。


一族始まって以来の天才、鬼子、麒麟児、冬の化身とまで言われた少年は、たまたま出会って、突っかかった男に遊ばれただけだった。


『くそったれがああああああああ!!!』


『見つけたぞ!!』


『んん?この間の悪ガキじゃないか』


ところ変わって別の雪原。すぐ傍には、男が仕留めた魔物が倒れていた。


『まさかお前、あれから俺の事探してたんか?暇なやっちゃなあ』


『うるせえ!死ね!!【氷河割り】!』


『だから殺そうとするんじゃねえ!悪ガキめ!』


『おおおおおお!!!』


『そら、今度はジャイアントスイングだ!』


『くそがあああああああああ!!』



『最近のエドガー様は、随分と修行に熱心だ』


『左様。あれほどの才能に胡坐をかくことなく、ご自身を鍛えていらっしゃる』


『うむ。妙に鬼気迫って、目は血走っているが、若者はああではなくては。うちの孫にも見習って貰わなければ』



『今日こそてめえをぶっ殺してやる!!』


『悪ガキよ。一応言っておくが、糞とか殺すは挨拶じゃないからな』


『うるせえ!!【氷山斬り】!!』


『んん?腕上げたな』


『ならなんで死なねえ!!?』


『はっはっ。品性が足りんのよ、品性が。そら、高い高いだ。ちゃんと受け身取れよ』


『糞野郎がああああああああ!!?』



『死ねやああああああ!!』


『ついに声も掛けてこなくなったよこの悪ガキは。辻切りかいな』


『おおおおおおお!!!??』


『これぞ巴投げ。一本。ああそれと、俺、この辺の仕事終わったから、そろそろ別のとこ行くかんな』


『ああ!?てめえ勝ち逃げするつもりか!?ふざけんじゃねえ!!』


『勝ち負け以前に殺しにかかって来るんじゃねえ!そおれ肩車』


『があっ!!?』



『エドガー様一体どちらへ!!?』


『武者修行だ!!負けっぱなしで終われるか!!』


『エドガー様!?エドガー様あああああああ!!』



『てめえやるじゃねえか!俺の名前はエドガー!お前は!?』


『カークだが…。一体何の用だ?』



『ああ!?糞野郎じゃねえか!!丁度いい!今日がお前の命日だ!行くぞカーク!』


『この人がエドガーの言っていた糞野郎か。胸を借りよう』


『はん?悪ガキ?』


『【偉大にして 永遠なる 北の 氷河よ あの糞野郎を ぶっ殺せ】』!!


『【斬る】!』


『なんだ、友達が出来たんか。ええこっちゃ。あと、俺の事どんな伝え方してんだよ』


『だから何で死なねえ!!?』


『バカな!?』


『こっちもいきなり切り掛かるとは、悪ガキが増えやがった。そら、受け身取れよ』


『があっ!?』


『ぐうっ!?』



『うーむ。話に聞いてはいたが、まさに"怪物"。世の中は広いな。傷一つ付けられんとは』


『負けっぱなしでいられるか!修行だ!』


『おう!』



『エドガー、やはり冒険者ギルドに加入した方が、路銀を稼げるし、修行相手も向こうが張り出してくれるぞ』


『だな。入るか』



『おい、聞いたか最近入った新人二人。口が悪い奴の』


『ああ、中級悪魔を一瞬でだろ?とんでもない奴が出て来たもんだ』


『ありゃあ、特級になるかもな。口が悪い方はまさにお似合いだ』


『違いない!』



『エドガーさん!カークさん!遺跡の探索と護衛お疲れさまでした!護衛先の学者さんたちも、改めてギルドに、二人がいなかったら命がなかったとお礼の手紙が来てましたよ!』


『まあ、悪くはなかったがな。それより精算』


『ああ、当たりだったな』



『上級悪魔っつうのは結構気合入ってんな。ちょくちょく来ねえかな』


『確かに。非常にいい経験になった』



『おい!あの二人だ!』

『きゃーエドガー様ー!』

『握手してくれ!』

『俺を是非メンバーに!』


『うるせえ!どけ!』


『通して頂きたい』



『やっぱ特級になるみたいだな。内定っぽい。ダントツで最速じゃねえか?』


『ああ、やっぱり。上級悪魔だもんな。最速だろ。まだ、そこらの兄ちゃんみたいな歳だし』



『君達二人が、特級冒険者を受けてくれたことを嬉しく思っている。冒険者ギルド設立以来、最速での特級冒険者だが、その腕を疑うものはいまい』


『ああ、分かった分かった。それより"遺物オークション"いつだよ』



『期待半分だったが、大当たりだったな!』


『ああ、随分といい業物を手に入れることができた』



『ついに特級冒険者になったお二人の受付を出来るなんて!』


『いいからさっさと精算しろ』


『ありがとう』



『見つけたぞ!!』


『ここで会ったが百年目』


『悪ガキ共め、ちょっと見ないうちに背が伸びたな』


『うるせえ死ね!』


『参る!』


『はっはっ。肝心なところが成長してねえ』


『【凍れ凍れ凍れ凍れ凍れ永久氷河凍れ】!!』


『【肉を切り骨を断つ】!!』


『腕の方も成長してるのに何でかなあ…』


『くそがああああ!』


『これでも届かんか!』


『修行先間違ってるぞ。教会で説教聞いてこい。そりゃデコピン』


『があ!?』


『ぐは!?』



『おい!エドガーとカークが砂の国に現れたバカでかい"砂蟲"をぶっ殺したとよ!』


『ええ…。あれ軍隊が出る案件だろ?』


『特級最強の二人ってのもあながち間違いじゃないかもな』


『というか、この前エドガーが何人かボコってただろ。同じ特級をだぜ?』


『もう結構立つが、あいつも変わらねえな』




『今日こそ死ね!』


『積年の恨み!』


『お前ら特級になってたんだな。道理でその性格だ…』


氷よ何も動くこと叶わず!!』


『【斬】!!』


『ハッハアッ!やるようになったな!ちょいと殴るから踏ん張れよ!』


『ぎっ!!?』


『ごっ!?』


『ああ、俺、リガの街に住むことにしたから、遊びたくなったら来ていいぞ』



『はあはあ…。リガの街っつたよな?』


『ああ、はあはあ…確かに言った』


『くそ、待ってろよ!』




『があっ!?』


『がはっ!?』


『ふーむ…。よし、悪ガキ共よ、飲みに行くぞ』


『ああ!?』


『なに?』


『お前らもいい歳だ。酒くらい付き合え』


『おい!何しやがる離せ!足を掴むな!!』


『くそ!びくともせん!』


『はっはっはっはっ』


組織辞典


冒険者ギルド:世界各国に存在する一大組織。基本的に国家の指揮下には入っておらず、人種の生存圏拡大及び維持、または遺跡からの"遺物"の確保等が至上命題。

薬効のある植物や希少鉱石採取、農村に出没する野生の獣への対処から、魔物の対処、果ては国家の存亡にかかわる懸案まで、幅広い案件を扱っている。

一攫千金や、功名の代名詞としても扱われており、ギルドの門を叩く者は多い。

事実、高位の冒険者でも平均的な貴族と財力は匹敵または上回り、特級冒険者にもなると、途方もない金銭が舞い込んでくる。

ーかならず成り上がって見せる!-


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