策謀の結末

祈りの国 ユーゴ


ついに通知のベルが起動し、次の聖女を選んだようだ。通知のベルの適性があった巫女さんの内の1人らしい。後は、明日儀式を行って交代するだけだ。


だが問題が一つ。リリアーナ様の様子が尋常じゃない。護衛で部屋にいると、ずっと自分の事を見てくるのだ。視線が外れない。しかも、何故か時折、母性溢れる表情でお腹を撫でている。ひょっとして赤ちゃんいる?俺の目では異状無いけど。


幸いというか、他の人が来た時は、普段通りのキリっとしつつも優しいリリアーナ様だが、出て行ったらまた元に戻る。大丈夫?ほんとに家に連れ帰っちゃうよ?


一回旦那さまって呼ばれたが、自分のこと呼んでるとは思わなかった。本人は普通に俺の事を呼んだつもりらしく、気が付いてないし。やっぱりお嫁さんに来てくれるの?

結婚しちゃう?やっぱり指輪は着けたままだし。

どうすんべ。


いかん。思考がズレた。

多分、向こうが仕掛けてくるのは、一番結界が弱まる儀式の日、当日だ。


「だんなさま。まもってくれますよね」


やっぱり俺に向いて言ってるよね?


「もちろんです。絶対に守って見せますとも、リリアーナ様」


とっくに腹は括ってある。

万事お任せあれ。



◆   ◆   ◆


「やっぱり、旦那様はカッコイイですね!リリアーナお姉ちゃんのこと、絶対に守って見せるっ

て!」


うん。かっこよかったぁ。


「後は、明日儀式が終わった後、旦那様の家にお嫁さんとして来るだけです!言えそうですか?」


「うん。だいじょうぶだよるーちゃん」


ようやくおよめさんになれるんだ。はやくなりたい。


「そのうち、赤ちゃんだって一杯生まれます!」


だんなさまとわたしのあかちゃん、いっぱいほしいな。おむねがおおきくてよかった。だんなさまと

あかちゃんのぶん、たりるよね。


「そろそろ寝ます?」


「うん」


はやく、あしたにならないかな。

あしたから、まんとじゃなくて、だんなさまとねむれるんだ。そのときいがいは、まんとつけておこう。

たのしみだなぁ。



◆   ◆   ◆

本殿大聖堂 sideリリアーナ


「聖女様、それではよろしいでしょうか?」


「はい、ドナート枢機卿」


大聖堂は厳戒態勢だ。おそらく悪魔が仕掛けれる最後で最大のチャンス。気を引き締めねば。

旦那様も見守ってくれている。

儀式を成功させれば、旦那様の所へお嫁さんとして行ける。


「聖女リリアーナ、前へ」


「はい猊下」


通知のベルが選んだのは、神殿で見かける巫女の女性だった。彼女にベルを渡せば!!?


ここはいったい!!?


『ようこそ、聖女よ』


まさか悪魔!?こ、こんな巨大な悪魔が!!?

ここは枯れた荒野!?


『流石に本殿から"招く"のは骨が折れた』


そんなことが!?


『お前を殺して、"要"を壊し、すぐに神共の加護を消そうと思ったが止めだ』


加護の"要"のことまで知っているなんて!?


『これほどの美しさに魔力、我の女に相応しい。よい胎にもなるだろう。結界が消えるまでゆっくり楽しもうではないか』


「い、いや!?」


しょ、触手がこっちに!

ダ、ダメ!私は旦那様のものなんだから!お腹だって旦那様との赤ちゃんのものなんだから!!

おまえのものなんかじゃない!


「助けて旦那様!!」


「お任せあれ」


『ぐっ!?』


◆   ◆   ◆

sideユーゴ


リリアーナが消えた!?バカな!まさか直接"招ける"のか!?

どうする!?

いや待て、指輪は着けたままだった。婆さんいつも通り信じてるぞ!!

来た!!婆さんあんたやっぱり最高だ!!

行くぞ!!


「助けて旦那様!!」


「お任せあれ」


リリアーナは無事だな!

デカいな!触手だあ?死ね!


『ぐっ!?』


かてえな!!


『……この我に当てるか…。何者か知らんが』

死ね宣告


そいつは勘弁。



体を捻る全てを廻す



法則を超越するルールを無視



地を踏みしめる星を砕く



拳を放つ世界を開放する



ー現れたのは【無】であったー



「ハッ!ハアッ!跡形もねえな!」


いやあ、久々に思いっきり殴ったな!


「だんなさま?」


よし、間違いない。無事だ。すげえ瞳が潤んでるけど。

おっと、また立てそうにないな。

「失礼しますね」

抱っこだ。


「あっ、だっこぉ」


今すごいドキリとしたんだけど。このままウチ来る?

というか顔近づいてない?手だって首に回されてるんだけど。


★  ★  ★

やっぱりだんなさまたすけにきてくれた。

すきすきすき。

あっ、まただっこしてくれた。

このままおいえにいくんだ。

もうおよめさんだよね?

じゃあちゅーもしていいよね。

 しちゃった

おかをがあかくなってる。かわいい。

あかちゃんもほしい。

ふくぬがなきゃ。

あっ、ぎゅっとしてくれた。あったかい。

でもふくぬげない。どうしよう。

わたし、だんなさまのことすきだからいっぱいあかちゃんほしいです。

おかおがもっとあかくなった。

わたしもうおよめさんですよね?

やっぱりそうだ。うなづいてくれた。

じゃあ、あかちゃんもほしいです。

はい、およめさんになってだんなさまとのあかちゃんうみます。

はい、だんなさまとこれからはずっといっしょです。

はい、わたしもあいしています。だんなさま。


◆   ◆   ◆

結婚しちゃった。

こんな美人に迫られて落ちない男っているの?いたら祈りの国の枢機卿に推薦してやるね。前にも言ったような。

大陸的にはOKなんだけど、ジネットとルーになんて言おう。

というか、リリアーナが首に手を回したまま、隙あらばキスしようとしてくる。なんなら、子供も作ろうとする。

あらやだ、すごい積極的ね、奥さん。

奥さんっていうと顔が、にへってした。可愛い。

あ、だめだめ!服脱ごうとしたらダメ!家帰ってからね!!


本殿に直接転移出来るかな?

やっぱ無理かあ。

大通り、抱っこしたまま行く?

OK。俺も腹を括ろう。

皆に俺のお嫁さんだよって、見せびらかしながら本殿に行こうか。

あ、ダメだって!ダメダメ!



◆   ◆   ◆

儀式も、周りの説得もようやく終わった。

これでリリアーナは正式にお嫁さんだ。

必ず幸せにしますのでお義父さん方、その疑いの目を止めるんだ。


報酬はリリアーナの嫁入り道具を購入することで手をうった。成果報酬としては破格だろう。最後の奴とかとんでもなかったぞ。だから許してほしい。

ついでにマントもだ。次の聖女様もあの服は無いだろう。新しいのを受け取ってくれ。前のはリリアーナの物だ。次の聖女を選んだ時に引き継いでくれたまえ。


さて、事はデカかったがそろそろ帰ろうか。


「帰ろうか我が家へ」


ジネットもルーもリリアーナも見ほれる様な笑顔だった。



物品辞典


"要":大聖堂の最も奥深くに存在する、神の1柱の遺体。これを介して、他に存在する神々が大陸へ加護を与えられる。消失すると、神々の加護が人種から失われ、人種の存続そのものに関わる。


ーあれが遺体?金属の柱に丸い物が沢山付いてるだけじゃないか。そもそも、神々は死ぬとどうなるんだ?まさか…物に?ー




悪魔辞典


"山羊の悪魔"ファルカル:"枯れた荒野"に君臨していた山羊の頭部を持つ、山の様に巨大な悪魔。ほぼ並ぶ者が存在せず、まさに魔王と呼ぶに相応しい悪魔であった。

祈りの国に対する攻撃は、神の加護を大陸から消失させた後、大陸へと進出し、現地の魔力を持つ存在を貪ることで、自らが神へと至ろうとしたためである。

存在の密度がまさに人智を超えるほどで、人種では打倒不可能。戦うには最盛期の戦神や闘神、あるいは竜達の長をぶつける必要がある。

その最期は、世界をぶつけられたことによる、魂魄諸共の無であった。

ーもはや抗う術はないー




人物事典


"聖女"リリアーナ:エルフの森と祈りの国は、共に神々の拠点となっていた土地であり、親交が深かった。そこで、大使をしていたリリアーナの家族が、滞在中に起きた交代の儀で、通知のベルがリリアーナを指名。両親はリリアーナを補佐したが、歳を取っていたため、両方とも間もなく亡くなる。以後はハイエルフとしては一人で神殿で務めることになる。そのため、隠していたが、家族を求める欲求が非常に強い。

世に知られていないが、6つの魔法を唱えることができる、魔法使いの例外の1人でもある。

普段は母性に溢れ、美しく優しいが、叱ることもできる女性である。

実は、愛した対象に対してかなり甘えん坊で、思考も幼くなってしまうことがある。


ー旦那様の隣にずっといます。目指せ大家族です!ー




















































































































































貴方が欲しがっていた花を捧げます










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