暗躍3


祈りの国 ユーゴ


善は急げだ。やはり、あのマントを聖女リリアーナに渡そう。指輪は…拗れるかな。黙っておこう。内ポケットに知らない間に入ってたのだ。


「ドナート枢機卿、少しよろしいですか?」


襲撃があって直ぐだ、大分忙しそうではあるが、こっちも急ぎだ。


「おお、ユーゴ殿。先ほどはありがとうございました。やはり、ユーゴ殿を頼ったのは間違いありませんでした」


自分を呼ぶに繰り広げられたであろう、話の内容を聞くのは野暮だろう。


「いえ、お役に立てれば幸いです。本題ですが、やはり聖女様の守りにいささか不安があります。そこでですが、私、このような物を持っていまして、贈呈しようかと」


手元に持っていたマントを広げる。


「な、なんと美しい…。それにこれほどの光の力、ひょっとしてこれを聖女様に?」


「はい、聖女様に着けて頂こうと思って、御許可を取りに来ました。これがあれば、悪魔がどのような手を取ろうと、聖女様を守ってくれることでしょう」


兵の聖女に会いたい気持ちは分かるが、さっき聖女を広場に連れて行くという、失点を犯してしまったのだ、断りにくいだろう。そこを突かせてもらおう。


「分かりました。それほどの物を聖女様に頂けられるとは、祈りの国を代表して感謝いたします」

大丈夫だ。あと30枚くらいはある。


しかし、本当に悪魔の狙いは聖女と通知のベルか?結界の要が破壊されて、祈りの国に、悪魔が出放題になるのも脅威だが…。それだけなら、今の状態はほとんどそれと変わらん。聞くか?いや、教えられる内容ならもう話しているだろう。変に首を突っ込む必要もないか。


はあ、あんだけの悪魔をこちらに送り付けられるのだ。"向こう"の超大物が絡んでるんだろうなあ…。どんな奴だよ…。悪魔と関りはほとんどないぞ俺。悪魔と呼ばれることはあってもな。はは…。さっさと内部犯見つけ出せ!どんな取引したらそんな奴が関わって来るんだよ!


反応を見るのも、あれは無茶苦茶集中しないといけないからなあ。これだけの人数を見るのは無理だ。絶対間違える。


聖女の行くところが大体絞れたそうだ。有力候補は騎士の国の教会だそうだが…。やはり縁も所縁も無いらしい。あの優しい女性がそれでは切ないだろう…。普段世話をしている人も希少な人材らしく、次の聖女のために外せないようだ。そもそも、国を離れなければならないほど神の力を溜め込んでしまったのは、彼女が初めての様だ。勝手が分からんらしい。


リガの街に誘うか?部屋で聞くに、ルーも懐いているみたいだし、エルフの婆さん一家が長い事いるから、まだ馴染めるんじゃないかね。教会もある。婆さんがいつからいるかは、誰も知らんが…提案してみるか。


長く結界を維持して、教会と神へ奉仕したんだ。終わった後くらいは幸せになってもいいだろう。近くにいるなら俺も彼女の助けになれる。

聖女の所へ行こう。



◆   ◆   ◆

くそ!くそ!くそ!!

ようやくリリアーナが俺の物になるはずだったのに!!何なんだあの男!!?

もう時間がない。契約は結界の再展開の阻止だ。最後の手段だったが、俺がリリアーナを"向こう"へ連れていくしかない。そうすれば、結界は再展開どころか、本殿のも消失するだろう。あとは、あいつらが勝手にすればいい。俺はリリアーナとよろしくさせてもらう。


癪だが、あれほど力が強いリリアーナの心を操作するには、あの"魔王"の力が必要だ。協力するしかない。奴の力なら本殿からでも俺を"招ける"はずだ。

絶対に!絶対にリリアーナを手に入れて見せる!あの、どんな目で見られようと気づきもしない、純真な女を汚すのは俺だ!!


◆   ◆   ◆

sideリリアーナ


「リリアーナ様、夫が来ていますが開けていいですか?」


「リリアーナ様?」


「りりあーなおねーちゃーん」


えっ!?


「ルーちゃんどうしました!?」


「3回も呼びましたよリリアーナお姉ちゃん。夫が来たんですが開けていいですか?」

さっき出て行ったばかりのユーゴ様が!?


「ど、どうぞ!」


大声を出してしまった。恥ずかしい。


「失礼しますリリアーナ様。今回の襲撃で、リリアーナ様の守りを固める必要があると判断して、これをどうか送らせてください。ドナート枢機卿からの許可は取っています」


なんて綺麗なマント、それにこの光の力、でも。


「い、いけません。この様なもの受け取るわけには」


これほどのもの、きっと高価なものに違いない。


「いえ、どうかお受け取り下さい。リリアーナ様の身を守るためです」


私を守る…。


「良かったですねリリアーナお姉ちゃん!」


ルーちゃん…。


「わ、分かりました。ありがとうございます。このお礼は必ず」


「いえ、お気になさらず。あー、それとですね…マントの裏側に指輪が入っていまして。この指輪、攻撃への耐性と、危険が迫れば私をその場に転移させる力を持っていまして…。気になるかもしれませんが、どうかそのままにして頂けませんか?」


「この人が守ってくれるんです。何が来ても大丈夫です!」


守って…。


「失礼します。お着けしますね」


あっ。着けて。


「わあ、似合ってますよリリアーナお姉ちゃん!」


暖かい。


「お話し中失礼します。バルナバ枢機卿が来ていますが…。リリアーナ様?」


「はっ、はい!どうぞ入って貰ってください」


バルナバ枢機卿が入ってきた。またあの嫌な視線がするが、気のせいか特に視線が強い…。でも、マントが、このマントが私を守ってくれている。


「おお、なんと美しいマント。よくお似合いですリリアーナ様。


気に入らないように聞こえた。やはり守られて…。


「悪魔の襲撃があり、このバルナバ心配しておりました。」


「はい、ユーゴ様のおかげでこの通り無傷です」


まただ。


「ようございました。ああ、交代後のリリアーナ様の行先が大方絞れたそうで、騎士の国の教会が有力だそうです」


やはり、縁も所縁もない土地へ…。


「そのこともあって、このバルナバお願いがありまして」


お願い?


「何でしょうか?」


「それはですな、俺と来て貰うぞリリアーナ!!」


なっ!?えっ!!??


「本殿からでも転移…いや"招ける"のか…。やっぱ、とんでもない奴が関わってるなこりゃ」


ま、ま、また抱きかかえられて!!??

わ、私!?わたし!!!?

い、いや、それよりバルナバは!?


「あなた!バルナバは?」


「どうも、向こうへリリアーナ様を連れて招かれようとしたみたい。ヤバい奴が絡んでるね。大丈夫ですかリリアーナ様?」


暖かい…。それに力強い……。

あ!?わ、わたしったらなんてはしたない!いつの間に、う、腕を回して!?


「降ろしますね」


「は、はぃ」

あっ…。


「内部犯は勝手に自滅したわけだが。リリアーナ様、私からも交代後のお話がありまして」


「な、何でしょう」


だめだ、心臓がうるさい。ちゃんと聞かなければ。


「よろしければリガの街に来ませんか?教会はありますし、ルーもとても懐いています。それに街にはエルフの家族が長く住んでおりまして、なにか困りごとがあれば相談に乗ってくれるはずです。もちろん自分だって何かあればお助けしますし、貴方の様な優しい人が街に来てくれれば嬉しいです。どうでしょうか?よろしかったら考えてみて下さい」


私が…ユーゴ様のいる所へ……。


「ルーもその方が嬉しいです!なんだったらルー達のお家に来ますか!?リリアーナ様なら大歓迎です」


ユーゴ様のお家に…私が…一緒に暮らす…。


「長く国と教会に奉仕してきたんです。リリアーナ様が幸せを探しても誰も文句は言わないでしょう。考えてみて下さい」


幸せ…私の…幸せ…。



ー隙が出来たら突け 弱ったら仕留めろー

冒険者の格言


種族辞典


エルフ:エルフの出自ははっきりしません。大陸東部、エルフの森に存在する世界樹から生まれ出てたとされる説と、神々が直接作り出したとされる説があります。

彼らは長寿であり、魔力との親和性にも優れているため、成人したエルフは、非常に強力な魔法使いとなっている場合が多いです。

エルフの森から彼らが離れることはあまりありませんが、好奇心の強いエルフは人間種の街で生活することがあります。接することがある場合、彼らの弓の腕前と、魔法の力に驚かされるでしょう。エルフが放つ弓矢は、我々人間種の想像を超えた威力を発揮します。

性格はいたって穏やかで、自然と共に暮らすことを好みます。反面、自然を冒涜するもの、家族へ危害を加える者には激しく攻撃します。

ギネス伯爵夫人著 "大陸の種族"より一部抜粋





ハイエルフ:長い年月の間に経験を積み、位階の上がったエルフが進化して生まれた存在が祖先。エルフを超える魔力、光の魔法に対する高い適正を持つ。個体数は少ないものの、ほぼ全員がエルフの森において、指導的立場にある。聖女リリアーナは、ハイエルフの両親が親交のある祈りの国に、使者として赴いたときに見いだされた。

大陸における、人種の中で種族的に最も位階の高い存在であり、戦闘経験の豊富なハイエルフを打倒するのは、極々少数の例外を除いてほぼ不可能である。

ー高貴な姿という言葉が形にできるなら、彼らがそうに違いないー

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