暗躍

祈りの国 本殿前広場 ユーゴ


さて、さっそくお仕事だ。主は聖女の護衛と、襲撃時の対処で、勇者と交互に睡眠を取りながらだ。

夜が更けると、聖女の私室のある区画は男厳禁。ジネットとルーに任せよう。

どうも、内部犯の疑いを持っているらしい。そうじゃないと、まだ結界が維持されている本殿内で、聖女の私室にまで自分が付くのは、まずありえないだろう。まあ、念には念をという事もあるかもしれんが。


少し、勇者と打ち合わせをしていたので、ジネットとルーは先に行っている。まだ若い勇者だった。自分も昔はああだったかな?昔と言えば、会議室での雰囲気だ!なんだ、普通じゃないかといった雰囲気に溢れていたぞ!どんな説明をしてたんだ!?

案内の人に付いて、聖女の私室に到着する。


「失礼します。ユーゴです。入ってよろしいでしょうか」


「どうぞ」


綺麗な鈴の様な声が答えてくる。


「失礼します。自己紹介が遅れました。ユーゴと言います。よろしくお願いします、リリアーナ様」


「この度はありがとうございます、ユーゴ様。リリアーナです」


「ユーゴとそのままお呼び頂ければ」


「いいえ。守ってくれている方々ですもの。」


断られた。

近くで見て分かったが、随分と神の気を溜め込んでいる。耐えきれなくなる前に交代は分かるが、これ抜けるのか?そういう風に体が変質してたら、多分婆さんでも直すのは無理だ。ハイエルフだから親和性が良すぎたのか?神の結界が再起動したら、祈りの国にいる事もきついんじゃなかろうか。だが、エルフの森にも神々が作った世界樹がある。引退したらどうするんだ?踏み込みすぎかね。


しっかし、その胸でその服はいかんでしょう。伝統なんだろうが何とかならんかったのかね。ギリシャの神がそんな服を着ていたような覚えがあるが、体の線が浮き彫りだ。会議室でも随分肩身が狭そうだったぞ。聖女が付けていても不思議じゃないくらい、綺麗なマントの"遺物"があるが、初対面だしなあ…。だが、緊急事態であることと、性能を考えると周りの説得は容易だろう。そこに、例の指輪を入れとけば、守るには文句なしなんだが。



◆   ◆   ◆

sideリリアーナ


また体に視線を感じたがやはり好色の視線でなく、なんというか、こちらを心配しているような、気を使っているような視線だった。ひょっとしてこの服の事だろうか。恥ずかしさと同時に少し好感を感じた。


「ユーゴ様とジネット様、ルー様はご夫婦なのですよね?どのようにして出会ったのですか?」


世間話を装って気になっていることを質問した。


「えー、それはですね…」


顔が赤くなっている。照れているらしい。



神殿にいると夫婦という者に関わる機会もそうないので気になったが、なんとまあ、随分と劇的な出会いと結婚だったらしい。

ジネット様の方は顔が赤く、ルー様はニコニコしている。

亡くなった父母の事を思い出した。歳を取ってから生まれた娘だったからか、随分と可愛がられた覚えがある。

夫婦か…。交代を済ましたら自分は一体どのような生活を送れば…。


「リリアーナ様。お加減の方は…?」


「あ、いえ。少し考え事を」


また、気を使わせてしまったらしい。今は交代の事を考えねば。


夕食後に、残っているお二人とユーゴ様の話をするが、なかなかお熱い。


「お昼が終わったら、大体旦那様にくっついてお話してます!」


話をして分かったが、二人は姉妹のようで、姉のジネット様は寡黙で、妹のルー様は元気一杯に普段のことなどを話してくる。

対照的な二人であるが、ユーゴ様に対する愛がとても熱い。

話題を少し間違ったかもしれない。


◆   ◆   ◆

sideルー


寝る時間は自分が最初なので、聖女様の部屋から、与えられた部屋に行く。

中に入るとご主人様が既にいた。


「ご主人様!」


思わず抱きしめてしまう。


「んー、ルーの成分補給」


「どんどん補給してください!」

しばらくそうした後、気になったことを聞く。


「ご主人様。聖女様の事を心配してましたけど、どうかしたんですか」


「む、気が付くとは流石だ」


「当然です!ルーは奥さんなんですから!」


「嬉しい事言ってくれてー」


少し強くギュっとしてくれた。


「どうも、聖女様、ハイエルフなせいか、神の気を溜めすぎちゃってるんだよね。そういう風に変質してるから、治せないし、抜ける"遺物"でもあったらいいんだけど…。交代が終わって神の結界が再起動したら、祈りの国に居るのしんどいじゃないかな?故郷のエルフの森も世界樹があるから同じかも。」


「そんなことが…。でも胸にも視線が行ってました」


「うっ。言い訳をさせて欲しい。あの服じゃあただでさえ美人なのに、視線を集めすぎるよ。会議室でもジロジロ見られてたしね。上から着るいい物を持ってるから、どうしようかと悩んでたんだ。ほら、これ」


確かに居心地が悪そうだった。

ご主人様がどこからともなく、純白のマントをとりだした。


「わあ、綺麗」

輝いて見えるほどの綺麗さと、途轍もない光の力を感じる。


「昔行った遺跡にあってね。多分、神々と竜の戦争の頃に作られたもんなんだろうけど、神の気配が感じないから、エルフが作ったんだろうね。それなのにこの光の力だから、作った奴はとんでもない腕だね。どう?聖女様にぴったりじゃない?」


「はい!ぴったりだと思います!」


あの、どこか寂しそうな顔した、聖女様の姿を思い出す。ひょっとしたら、同じなのかもしれない。居場所が無くて二人で生活していたあの頃の自分達と…。

それなら少し動いてみようかな…。

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