顔合わせと今後の予定

祈りの国 本殿会議室 リリアーナ


会議室にはドナート枢機卿以外、全員揃っていた。


(珍しいですね。ドナート枢機卿が一番最後なんて)


今後どうするかの騒めきの中に、自分を見る、特に胸へ好色な視線を幾つも感じながら、リリアーナは謹厳実直を絵に描いたような老人を思い浮かべる。


皆、隠しているつもりだろうが、見られている本人としては、敏感に感じ取ってしまう。そして、普段は、女性だけの区画に多くいるため、視線も相まって、男性だけの会議室ではやはり肩身が狭い。


「ドナート枢機卿はどうしたのでしょうな?」


自分と同じ疑問を持ったのだろう。近くにいた、バルナバ枢機卿が話しかけてくる。


「はい、珍しいですね」


この比較的若い枢機卿が、特に好色な目で見ていることに、気が付いてはいるが、それを隠して返事をする。


(この服もいけないのでしょうね…)


聖女が代々着ている服ではあるが、頭が出る所だけを切られた布を被り、腰を帯で締めているせいで、自分の体の線が丸見えになっているのも、また要因であろう。


その時、会議室の扉が開かれた。


「皆様、お待たせして申し訳ない。」


「失礼します」


ドナート枢機卿のほかに、見知らぬ黒髪黒目の男性と、美しいダークエルフの女性と少女がいた。


「お話しした頼りになる方が、依頼を受けてくださりました。ユーゴ殿と、奥方のお二人になります。奥方達もお強いとのことです」


彼が、ドナート枢機卿とベルトルド総長の、口論の原因となった人物なのだろう。ベルトルド総長の緊張が一気に高まったのがここからでもわかる。


「ご紹介に預かりましたユーゴと申します。皆様よろしくお願いします。こちらは妻のジネットとルーです。特にジネットは特級冒険者と遜色ないと思って頂いて構いません」


あの口論だ、いったいどの様な人物かと思ったが、特に口論の原因となる人物とは思えなかった。


しかし、奥方が2人ともダークエルフなのは驚いた。大陸の価値観として、強い人物が多数の伴侶を得ているのは、それほどおかしい事では無いが、1人でも人間種と結婚するのは稀なのに、2人とは。


一瞬こちらに視線を感じた。やはり胸にも感じたが、好色な視線ではなかったのが不思議であり、何故か少しだけ可笑しく感じた。


「さあ、お三方。どうぞお座りください」


「失礼します」


会議が始まった。


「ユーゴ殿、ジネット殿、ルー殿。こちらの無理を聞いて頂いて、このレナート感謝しております」


「これは、教皇猊下。ありがとうございます」


やはり、そこまで口論するような人物には感じられない。


そもそも、ベルトルド総長自体が気の抜けた様な顔をしていた。


「早速ですが、ユーゴ殿には悪魔が襲って来た時の対処、奥方のお2人は腕が立つという事なので、女性だけしか入れない区画での、聖女様の護衛をお願いしたいのですが」


「分かりました。ジネットとルーもそれでお願いできる?」


「かしこまりました」


「はい」


「おお、ありがとうございます。それでは、全体で警備や他の打ち合わせをしましょう」





◆    ◆    ◆


「それでは打ち合わせを終わりましょう。他に、何か案件がある方はいませんか?……では猊下」


「うむ、では解散しよう。聖女殿とドナート枢機卿、ベルトルド総長は残ってくれ、話さねばならぬ別件がある」


「畏まりました」


皆が会議室を出ていき、ドナート枢機卿が依頼を受けてくれた方達に、案内の人を付けると、私達4人だけになる。


「なんだ、2人があんな口論するのだ、どんなものが出て来るかと思ったがいたって普通ではないか」


「ふふ、そうでございますね」


自分もしきりに同じことを思っていたので、思わず笑ってしまった。


「はっ、最後に会ってから随分と経ちますので…。言っただろうベルトルド、向こうも、もういい大人なのだ。あの様子を見れば力の加減も、そう心配は要らんだろう」


「うーむ。…まあ…な」


しきりに唸り声を上げながら首を傾げる総長を見て、また笑いそうになってしまう。


「ははは。さて、本題なのだが実際に来てくれたから聞くが、どれほど頼れるのだ?それこそ見た目は普通であったが」


「はっ、恐らく正面切っての攻撃には、もうそれほど心配する必要はないかと」


「なに?それほどなのか?」


「はっ。そうだろうベルトルド?」


「はっ。まあ……そうですな」


驚いた。かつての歴戦の勇者2人が、ここまで太鼓判を押すなんて。


「驚いた。それほどの人物がなぜ無名なのだ?」


「はっ。無名…という訳ではないのです。極一部ではありますが名は通っております。しかし、関わったものは皆、恐ろしさから口を噤むのです。万が一、名前を言ったら自分の隣に来るのではないか。そんな怖れ方をされているのです」


「お前たちの様に?」


「はっ。まさにその通りでございます」


冗談めかした猊下の問いに、大真面目な顔でドナート枢機卿が答え、ベルトルド総長も頷いている。


「なんとまあ…。それほど怖れられるとは何をしたのだ?」


「強いのです猊下。ただただ、圧倒的に強いのです」


自分も絶句してしまった。そんなに?


「しかし、奥方の方も嬉しい誤算でした。背の高い方ですが、身のこなしと隙の無さを見るに、特級相当というのは本当の事でしょう。」


「なんとそちらもか」


「はい。リリアーナ様の護衛については悩んでいましたが、大丈夫でしょう。戒律を破るのも止む無しとは思っていましたが、本当に嬉しい誤算でした。」


「そうか。それはよかった」


猊下も頷いていた。2人とも頭を痛めていたのだろう。


「して、正面切っての場合といったな。やはり何かおかしいか?」


「はっ。幾ら高位の悪魔が関与してると考えても、上級悪魔2体と、その他多数を結界が弱まったとはいえ、本殿周りに難無く送り込めるとは思えませぬ…。"門"を除外するとなると、"招かれた"可能性が最も高いかと…。」


「やはりか。ベルトルド、目星は付いているか?」


「申し訳ありません」


「そうか…」


何てこと…


「分かった。聖女殿、とにかく自分の身を第一に考えられよ。」


「はい。分かりました」


神々よ、通知のベルは一体いつ…

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