1978年その1 三毛猫ホームズの推理

書誌データ

1978年4月光文社カッパノベルス

1984年4月角川文庫

1985年3月光文社文庫

2006年3月光文社愛蔵版


 「三毛猫ホームズの推理」赤川次郎の三冊目の本であり、三毛猫ホームズシリーズの一作目。角川文庫と光文社文庫に両方に収録されているが、それぞれ百刷超えているのだから、日本を代表するベストセラー小説と言っていいだろう。

 今でこそ三毛猫ホームズは日本を代表する小説シリーズだが、作品数が多いので後半の作品を読んでからこの「推理」にたどり着いた人もいるかと思われる。そんな人にはあれ?戸惑うと部分も多いのが本作である。

 三毛猫ホームズといえば、もちろん主人公は三毛猫のホームズだが、彼女の元々の飼い主は「推理」で起る事件の被害者の一人である羽衣女子大の学部長・森崎。彼は残念ながら物語の序盤で消えるが印象深いキャラクターで、ホームズの元の飼い主にふさわしい男性である。


 この作品から伝わるのは、赤川次郎のミステリへの本気度である。赤川次郎は日本では希少な「成功したクリスティフォロワー」の一人だという事を強く感じた。

 今作は後の三毛猫ホームズシリーズとは違い、「片山刑事自身の事件」ともいうべき話で、この後良くも悪くも「ドジで女性恐怖症の三枚目刑事」なキャラクター化してしまった片山とは違う、青年刑事としての片山義太郎が殺人事件に挑み、恋をする。

 読書感はユーモアミステリというより青春ミステリに近く、同時代であれば梶龍雄や栗本薫の「ぼくらシリーズ」が近いだろうか。事件そのものは非常に陰惨で、特に女子大生連続殺人は巻き添えを含めると四人の犠牲者が出ていて、作品全体では九人もの死者が出る。

 今作は密室トリックも有名だが、そのトリックを使用するまでの過程を丁寧に書きこんでおり、赤川次郎が本格ミステリを書くのだという強い意志の元にこの作品をコントロールしているのがうかがえる。

 先ほど赤川次郎をクリスティフォロワーと述べたが、「推理」に近いクリスティ作品は「なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」だろう。しかし事件はより悲惨で、それでいてラストには爽やかさが込められている。


 「三毛猫ホームズの推理」は赤川次郎にとって本格ミステリ作家としての第一歩であり、キャラクターの魅力だけに頼らない作品を書けるという実力を見せた一作である。

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