第2話 天才の裏側

まず最初に口を開いたのは、軽そうな男の子。


「名前は加宮 望(カミヤ ノゾム)。17歳です。…よろしく、プリンセス。」


ブロンドの綺麗な髪の毛を揺らしながら深くお辞儀をする彼。

軽そうだけれど、優雅な動き。

「王子」という言葉がこれほどまでに合う人を、初めて見た。


次は、口の悪い茶髪。


「東堂 和希(トウドウ カズキ)。同じく17歳だ。気安くかずくんとか呼ぶんじゃねえぞ。」


……呼ばないわよ、誰も。

思わずまじまじ見つめれば、キッと睨み返された。

……な、なんなの。

そんな中、ショタキャラ(?)の彼。


「僕は唯木 美也(ユイキ ミヤ)っていうんだぁ。美也って呼んでくれたら嬉しいなあっ!よろしくっ!」


やっぱりその綺麗な顔と喋りがミスマッチしている気がする。

髪色はミルクティーブラウンで、フランス人形みたい。

…男の子に「フランス人形」っていうのもどうかと思うけどね。


そして、黒髪の彼。


「俺は佐久島 若桜(サクシマ ワカサ)。16歳。この中では一番下かな。よろしくね。」


爽やかな笑みを浮かべて握手を求める彼。

遠慮がちにその手を握れば、柔らかく包み込んでくれた。

不思議な人。…だけど、嫌じゃない。


「じゃ、最後は隼だね。」


そして、ラスボスとも言えるべき彼。


「水無月 隼(ミナヅキ シュン)。17歳。まあ、生徒会長だから一応は知ってるな?」


「はい。」


全校生徒の憧れの的。

ダークブラウンの髪色に私より10㎝は高い身長。

そして、不思議と人を惹きつけて離さない瞳。

生徒会長にふさわしいと思わせるような人だ。

…実際にどうかは知らないけれど。


「おい、お前も一応自己紹介しろよ。」


和希…じゃなくて、和希先輩が睨みつけながら私を促す。

この人は、自分が思ってる以上に目力強いって気づいてるのかしら。

まあ、それでも名前くらいは言っておかなくちゃダメよね。


「美園 紗耶。16歳。」


「………。」


「………。」


「………。」


一言呟いただけなのに、なぜか異様に静まり返る部屋。

…私、何かまずいことでも言っちゃった?


「なんていうか…シンプルな挨拶、だね。」


若干頬をひきつらせて喋るのは、若桜。

でも、みんなだってそうだったじゃない。


「一言くらい付け加えるだろ、普通は。」


やけに「普通」を強調していう和希。(先輩って付けるのなんかめんどくさい。)

なんか、私が普通じゃないみたいな言い方だけど。

……だって、いろいろ喋って墓穴ほりたくないもの。


「…まあ、いい。それよりも、紗耶。」


「はいっ?」


急に名前で呼ばれて裏返る声。

…この人に名前を言われると、過剰に反応してしまって困る。


「ジーニアス、についてはどうだ?」


…それは、知りたいか、という意味なのだろうか。

もちろん、いろいろ説明してもらいたい。


「ジーニアス」の存在、彼らの存在、なぜ私に惚れたのか。

……全てを、想いのままに。


「…望。」


低く呟いたと思えば、望はおもむろにタブレットを取り出した。

う~ん…。なんか、以外。

彼にタブレットはなんか似合わない。


「ジーニアスというのは、この学園で学力と家柄がTOP5に入った生徒を優遇するシステムです。」


タブレットを見つめながら単純に話す彼。

…そんなシステムあったんだ。初めて知った。


「入試の時にそれが決められ、その中でもトップになった人が、生徒会長になります。…ここまではよろしいですか?」


「…ええ。」


つまり、この学園の秀才が集められた組織ってワケね。


「ジーニアスは同じ授業は受けません。なので、この特別館に入るのです。そして、ここで思い思いの研究や勉強をするのです。…ちなみに、生徒会は存在しません。」


……え!?

今、生徒会は存在しないって言った!?


「嘘よ!だって、生徒会室あるじゃない!」


「あれはねぇ、カムフラージュなんだよ~。」


か、カムフラージュ?


「本当はジーニアスが生徒会のような仕事を担っているのです。でも、表向きはあたかも生徒会がやってるように見せなければなりません。なので、部屋があるのです。」


で、でもそんなまどろっこしい事するより、直接ジーニアスがやってますって言えばいいのに……。


「ったく、ジーニアスは生徒に知られてはいけないシステムなんだよ。」


「どうして?」


「そのほうがカッコいいからに決まってんだろ。」


………。

うん、分かった。大体分かった。

ようは、変人の集まりってことね。

天才の裏は、変人ってことでしょう?

私、なんか変な人達に捕まっちゃった……。


「で?どうする気だ?」


「は?」


どうするって……何が?


「隼くんの~、恋人になるんでしょぉ?」


可愛く首をかしげながら、とんでもないことを言う美也。

ないから!恋人ってありえないから!

だいたい、ジーニアスに入ってもないのに……。


「でもぉ、サーヤちゃんはもうジーニアス入るんだよぉ?」


…………


「……ごめんなさい、よく聞こえなかったわ。」


なんだか、ありえない言葉が聞こえた気がする。

きっと、空耳。幻聴。

だから、だから………。


「だからぁ、ジーニアスに入るんだってばぁ。」


「…………。」


一瞬の静寂。

聞こえてくるのは、それぞれの息をしている音だけ。

そして、ゆっくりと口を開いた。


「なんでいきなりそうなるのよっ!!」


肩を震わせて大声で叫ぶ。

絶対絶対絶対イ・ヤ!!

私は、絶対に入らない!

恋人になんてなりたくない!!

そんな私の思いをもういちど叫ぼうとすれば、


「では、これを『どんな方法』ででも見て良いのですか?」


至極丁寧な言葉で、意地悪な微笑みを浮かべる望。

手には、タブレットと私の生徒カード。


「そ、れは………。」


今日ほどまでに自分の行動を呪った日は無い。

私が落としてさえいなければ…………。


「究極の選択だね。」


「あきらめなよ」という風な微笑みを浮かべるのは若桜。

味方、じゃなかったの?

……ああでも、結局ジーニアスのメンバーですものね。


「…なぜ、私が?」


絞り出した声は、誰にも受け止められずに零れていく。

みんな、ただ黙って私を見るだけ。

私の「秘密」か、彼の「恋人」か。

だったら、もう私が選べるのは……。


「………ジーニアス、入ります。」


消え入りそうな声で言えば、ふわっと頭を撫でられた。

「守る」と言ってくれるように。

視線の先には、天才、だけど変人な集まりばかり。

そして、私に惚れたといってきた生徒会長。


――――6月17日、正午。


切なくて、苦しくて、大切で、幸せな「恋人」生活がスタートしました。



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眠り姫のお相手は・・・ なみ @7GAJYUMARU3

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