システム管理者感謝の日
~ 七月三十一日(金) システム管理者感謝の日 ~
本日の発明品? RAID10・NAS
※
名は体を表す
祭りは続くよどこまでも。
今日も売り上げ絶好調。
こんな田舎町で、厨房が常にフル回転。
その立役者。
今なお絶好調に大当たりをたたき出しているのは。
やらせと疑い始めた客からのクレームも増えてきたが。
その辺は、大声鬼軍曹恵比寿顔女がうまいことさばく。
「ほんとにランダムなんだって! またのチャレンジお待ちしてまーす!」
こんなに客が並んでるのに。
レジが一つで事足りる理由。
一人あたりの注文数が昨日の倍くらいになってるから。
客単価が膨れに膨れて尋常じゃねえ。
今日もあっという間に閉店迎えそうだ。
……でも。
どいつもこいつも倍の注文?
「これ、だめなギャンブラー心理だよな?」
「うははっ! 倍々ゲームになって来てやがる!」
今の客、五千円分くらいのバーガー買ってったけど。
確か昨日二回目で当たり出して。
今日も二回来てるよな?
「俺、ぜってえギャンブルにはまらねえようにしよ……」
「そう言ってるやつに限って泥沼にはまるんだ。ほら、サボってねえで掃除しろ掃除!」
「ん? 掃除って、小太郎さんの担当じゃねえの?」
「あいつは今、数すくねえ特殊技能発揮してるとこだ」
あんま話したことねえけど。
何度か一緒にバイト入った限りじゃ。
言っちゃわりいが、ほんとに掃除以外に使い道ねえ人だったけど。
そんな人の、特殊技能?
「……何できんの、小太郎さん」
「おお、あいつは……」
噂をすれば影。
ぼさぼさ髪で、ひょろっとした風貌の。
小太郎さんが、事務室から顔を出す。
「あ、あ、あの……」
「なんだバカ太郎! もうできたのか?」
「い、い、いえ。これから
「おばさんにそんなの分かんないからコタローに全投げしてるんじゃない。適当でいいわよ」
「ひ、ひ、雛ちゃん!? そんなこと言っちゃダメだよ!」
厨房で八面六臂の雛さんが。
小太郎さんに勝手に返事してるけど。
どうやら外付けディスクの設定してるみてえだな。
でも、ナスってなんだ?
「…………意外だな」
「だろ? ……じゃねえ! いいから掃除しろ!」
「ほ、保坂君。私が掃除するから、レジ代わって……」
「他人と接触がない仕事はすべて俺が貰った」
「ひ、ひどい……」
今度のお客も大量注文。
既に作り置いてる分じゃまかないきれねえから、店長も雛さんも大慌て。
でも、最後にお客を送り出すまで。
次の注文とれねえから。
フロアは暇で暇でしょうがねえ。
俺はふきん片手に。
レジ周りから掃除を始めると。
大声鬼軍曹恵比寿顔おしゃべり女が。
暇にまかせてからかって来た。
「凜々花から聞いたんだけどよ。お前、勉強できるんだってな?」
「それがどうした」
「
「…………名は、体を表す」
「ははっ! てめえにぴったりの言葉だろ?」
そうか、なるほど。
まさか俺が立たされる理由が。
こんなとこにあったなんて。
「言われてみりゃ、雛さんは調理人の雛って感じだな」
「小太郎も小心者だしな!」
「ひでえこと言いやがる」
人の名前をからかうなって教わらなかったのか?
これだから学のねえ女は嫌いだ。
……なんて思ってたら。
意外や、博識な所を披露し始めた。
「お前の『哉』の字、
「矛? ……ああ、戈か」
「そこに『十』って神聖なマークを入れて『口』でお祈りするってぇありがてえ文字だ」
「おお。すげえなあんた」
確かに、『十』は『才』に通じる神聖な刻印って聞いたことあるし。
『口』の字が祈りを模していると言われりゃその気になる。
だが。
思わず感心して目を見開いた俺に。
こいつは、かかったなってばかりに。
途端に嫌味な顔を浮かべて。
「だからお前は、地面に突き立ったまんま見世物になってる客寄せ用の武器って訳だ」
「このやろう!」
一瞬でも感心した俺が間違いだった。
だが、やられっぱなしでいられるもんかっての!
「どうせお前も、勇ましい名前なんだろ?」
「え?」
「自分だって、
「そ、そう……、か?」
俺の反撃。
効果てきめん。
大声鬼軍曹恵比寿顔おしゃべり女が。
目ぇ泳がせて、何か誤魔化そうとしてやがる。
ここはレイズの一手だ!
今日こそてめえを。
無様に泣かせてやる!
「ようし! もしお前の名前が勇ましかったら、今日はてめえが客寄せに立て!」
「ま、待て。そんな約束しねえぞ?」
「いいや、ダメだね!」
「ほんと待てって、基準が分からん。どんなのが勇ましいんだ?」
「妖刀ムラサメとか魔王ブレードとかにっかり青江とか」
「ばかやろう、そんな名前あるわけねえだろ……」
こいつ、語尾が曖昧になってやがる。
やっぱり勇ましい名前にちがいねえ。
今日こそ俺の勝ちだ!
「なんだ、やっぱり武器みてえな名前なんじゃねえか」
「そ、そんなことねえよ。もっとこう……、花みてえな?」
「はっ! お前が花の名前とかだったらお笑いだ!」
「じゃ、じゃあ! もし、は、花の名前だったらどうする気だ?」
下手だなお前は。
動揺を隠しきれてねえ。
ギャンブルに向いてねえぜ?
「おお、俺が客寄せでも何でもしてやる。でも刃物だったらお前が客寄せな?」
「刃物な名前なんてあるわけねえだろ!?」
「いいから約束しやがれよ」
「お、おお……」
へへっ!
ショウダウン!
まあ、刃物みてえな名前なんてことはねえだろうけど。
大勝利は間違いなし!
こいつ、珍しく肩落としてやがるが。
もう手遅れだからな!
さあて、お前の名前。
白状してもらおうじゃねえの。
俺が大声鬼軍曹恵比寿顔おしゃべりギャンブル下手くそ女に。
手札を見せろと詰め寄ろうとしたら。
厨房と事務室から。
同時に答えが飛んで来た。
「おい、カンナ! トルティーヤ使う料理はストップだ!」
「カ、カ、カンナさん! 販売データ、三年分の保管で良かったでしたっけ?」
「…………え?」
今。
なんつったお前ら。
……カンナさん?
あまりのことに呆然としながら。
大声鬼軍曹恵比寿顔おしゃべりギャンブル下手くそ女のことを見上げると。
こいつ。
ころっと。
すげえ嫌味な勝ち誇った顔になって俺のこと見てやがる。
「……お前、カンナさん?」
「カンナ」
「ほんとにカンナ?」
「ほんとにカンナ」
ウソだろ?
そんなのもう。
「うはははははははははははは!!! ほ、ほんとに刃物でやんの!」
「なんだとこのやろう! ……あ。カンナか」
「うはははははははははははは!!!」
「あはははははははははははは!!! ……お前、百人客つれてくるまで帰ってくんな」
……いつもの雷じゃなく。
すげえ静かな怒り顔。
たいそう怒っていらっしゃる?
俺は、否応なく。
足を棒にして、十人程のお客さんを率いて戻ってみれば。
もう店じまいしてやがった。
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