アマチュア無線の日
~七月二十九日(水) アマチュア無線の日~
本日の発明品 接客用AI・AKINOH
※
芸術について独創的なアイデア持ってるって意味だからお前のはなんか違う
駅前の個人経営ハンバーガーショップ。
ワンコ・バーガー。
その二台のレジ。
隣に立っているのは。
……もとい。
隣に、しゃがみ込んでいるのは。
「あ、あの……」
「大丈夫です、そのままご注文下さい。次のお客様はこちらへどうぞー」
レジに置かれた。
得体のしれない古めかしい無線機。
俺の方をチラチラ見ながら。
お客様は、マイクに向かって注文する。
「え、ええと、チリトマトブリトーの3辛をオレンジジュースのMとアップルパイのセットで」
『ザザッ……、ご注文繰り返します。チリトマトブリトーの3辛をセットで。オレンジジュースのMサイズとアップルパイでよろしいですね? 少々お待ち下さい……、ザッ』
そして、無線機から聞こえた返事に。
お客さんは、一瞬ほっとした後。
「うわあああああ!?」
レジの下から急に出て来て。
ドリンク淹れ始める女の子に仰天する。
ワンコ・バーガーがお届けする。
落として上げてから、も一度落とすタイプの。
ちょっとしたサプライズサービス。
叱られるまでの限定品。
どうぞお早めに!
……昨日は結局。
一度も上手に接客できず。
そんな自分の短所を。
自分の長所で克服した。
トレーに注文の品を並べると。
レジを叩いて。
その後。
顔をこれでもかとひきつらせて。
「ごごっ、五百え……、なり、なりましゅっ!」
お金を受け取ると。
そこで限界を迎えたらしく。
レジの下に再び潜って。
『ザザッ……、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております』
……無線を使って。
流暢にお礼を述べた。
「……おい」
こんな方法考え付くとか。
天才とは思うけどさ。
「お前、その五百円ネコババする気か?」
レジに入れる前にしゃがんだ舞浜が。
手に握ったままの五百円。
すぐにレジへ入れないと。
そう思いながら、こいつが慌てて立ち上がったところで。
「ぎゃっ!?」
即避難。
それもそのはず。
次のお客様が目の前にいたからな。
「え、えっと……」
「大丈夫です、そのままご注文下さい。次のお客様はこちらへどうぞー」
ひっきりなしに客が来るとは言え。
まだ忙しくなる前の時間帯。
殺人未遂女は、隣の店を手伝っているらしいんだが。
こっちの店とどういう関係なんだ?
まあ、なんにせよ。
こんなめちゃくちゃ。
あいつが戻って来たら。
雷が落ちるに決まってる。
「じゃあ、あらびきソーセージのマッシュポテトロール二つとジンジャーエール。あとコーラ。どっちもM」
『ザザッ……、ザワークラウトがついた食べっぱなしジャーマンセットがおすすめですがいかがでしょうか?』
「ああ、ならそれで」
『ご注文繰り返します。食べっぱなしジャーマンセットを二つ。お飲み物はジンジャーエールのMサイズとコーラのMサイズですね? 少々お待ち下さい……、ザッ』
そしてレジの下からこそこそ出てきて。
おろおろとドリンク淹れて。
わたわたと、トレーに注文の品と。
手に持ってた五百円玉を並べて。
「おいおい」
レジを叩いて。
その後。
顔をこれでもかとひきつらせながら。
「せっ、千円……、なりっ、なりましゅ!」
お金を受け取ると。
今度はきっちりレジに入れて。
「あ、ありがと……、ござ……」
歴代最長記録をたたき出しながらも。
そこで限界を迎えたらしく。
水平線から海の底へと沈んだんだが。
おまえ。
五百円。
勝手に半額キャンペーン始めんな。
「さすがに叱られるぞ」
「そ、創意工夫……」
「なんか違うだろ」
「じゃあ、
「もっと離れた」
呆れた世間知らずさんのおかげで。
俺だって苦手な、初見の人との会話が。
二日目も始まったばかりだってのに。
もう、全然平気になった。
「……あのー」
ああもう!
なんで俺が毎度説明せにゃならんのだ!
「大丈夫です、そのままご注文下さい。次のお客様はこちらへどうぞー」
「……じゃあ、がっつりワンコ・バーガーセットでサービスポテトメガ盛り。ナゲットをケチャップで、飲み物はお茶。冷たい方」
『ザザッ……、ご注文繰り返します。がっつりワンコ・バーガーセットをおひとつ。ナゲットと、ソースはケチャップで、お飲み物はアイスグリーンティーのMサイズ。サービスポテトメガ盛りですね? 少々お待ち下さい……、ザッ』
そしてレジの下からのっそり出てきて。
おろおろドリンク淹れて。
わたわたと、トレーに注文の品並べて。
たどたどしくレジを叩いて。
その後。
顔をこれでもかとひきつらせながら。
「げ、限界!」
「おいこら」
『あ、ありがとうございました!』
「え? あの……」
『ありがとうございました!』
とうとう。
無料配布キャンペーン始めちまった。
「うはははははははははははは!!!」
ちょうどレジ待ちのお客もはけてたとは言え。
俺の笑い声に、店内にいたお客は一斉に怪訝顔。
すげえおもしれえけど。
これ、面倒そうだな。
あいつに見つかったら。
俺がとばっちり食いそうだ。
そんなところへ。
汗拭いながら戻って来た殺人未遂女。
俺の顔を見るなり。
ニヤニヤし始めた。
「へへへ! とうとうこの日がやって来たな!」
「なんだよ大声女。お客に迷惑だろうが」
「今日は客の入りが今一つだからな! 言いてえこと、分かるか?」
なるほど。
そいつは願ったりかなったり。
「……喜んで」
「おお! せいぜい大勢呼び込んでくれよ!」
真面目に呼び込むかどうかはともかく。
ひとまず、逃げ出せてよかった。
俺は、店先に立って。
じりじり照り付ける太陽を仰ぎ見ながら。
両耳を塞いで。
初めての客寄せをした。
「店内から大声が響く、やかましいハンバーガーショップへようこそー」
……もちろん。
そんな小さな声は。
店の中から響く、怒りに任せたバカでかい声にかき消されて。
誰の耳にも入ってやしなかった。
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