第81話 大博、夏風邪になる

誕生日を祝ってもらっての特に何もないまま通り過ぎての8月5日。

俺は智明からこう聞いた。

何を聞いたかといえば律子の事だ。

相変わらず.....不貞腐れた態度で律子の母親と話していた、というどっかから漏れた情報を聞いたそうだ。


俺は話を聞きながら、そうか、と返事をした。

智明は、まあもう忘れても良いかもなアイツの存在は。

と苦笑気味に電話で話す。

俺は、忘れる訳にはいかないかもだが.....まあそうだな、と返事をする。


決して忘れてはいけない。

俺の親父もそうだが、律子、幸。

そして仲の親父といい.....忘れてはならないだろう。

これまでされた事、してきた事。

それら全部を。


『それはそうとまた旅行行かね?どうせ休みだしな』


「お前はアホか。何処に行くんだよ。俺達は学生で金も無いのに」


『おう。近所だよ。近所の.....そうだな。田舎だし平原とか』


確かに平原は有るが狭いだろあそこ。

俺は苦笑いで智明に聞く。

狭い場所に行ってどうすんだ、と。

智明はこう答えた。


『いや。お前と穂高ちゃんの思い出作りには良いんじゃないか?狭い場所でも』


「.....確かにそうだが」


『んじゃ決まりだな。行くか。来週でも』


「勝手に話を進めるな。.....行くとはまだ言って無いだろ」


あれ?行かねぇの?、的なすっとぼけた感じで話す智明。

俺は、ちょっと待て。人には予定があるって、と話す。

そして立ち上がってカレンダーを見つめる。

だがそんなに予定は無かった。


「分かった。じゃあ行こう」


『うっし。決まりだな』


「.....でもその前に俺は立ち寄りたい場所がある」


『え?何処.....ああ。分かったぜ。すまん忘れていた』


そうだ。

俺の爺ちゃんと婆ちゃんの墓が丁度その辺りに有る。

丁度その平原辺りの墓に眠っているのだ。

とは言っても.....遺骨はあまり無い。

水害で亡くなってから水に融けてしまったのも有るせいで、だ。


『見つかって良かったよな。お前の爺ちゃんと婆ちゃん』


「.....それだけが唯一良かった点だな」


『.....じゃあそこも予定に入れて行くか』


「でもそこ行ったらもう行く場所ないぞ。良いのか」


おうよ、と返事する智明。

俺はため息交じりに、そうか、と返事をした。

それから.....智明との電話を切る。

そして.....空を見上げた。


「.....爺ちゃん。婆ちゃん。その場所に行くから待っててな」


それから俺は前を見てから台所に向かう。

そしてお茶を入れてそのまま飲んだ。

そうしてから.....顎に手を添える。

何だか.....熱っぽい感じがするんだが。


「.....まさか夏風邪か?困ったな」


俺は顎に手を添える。

この前のどんちゃん騒ぎのせいでうつったか?誰かから。

しまったな.....と思いながらソファに腰掛けた。

困ったもんだ。

ラノベを手に取りながら考える。


「.....来週までには治さないとな」


だがその判断が甘かった。

夕方になって眠りこけていたのだが。

ウイルスと戦ってくれているのは分かるが熱が38度になっていた。

これは.....マジに参ったな。



『え!?今から行きます!』


「馬鹿かお前は。今からだったら泊まり込みになるぞ」


『嫌ですよ!大博さんが死ぬかも知れないのに!行かないでどうするんですか!』


「いやだから死なないって」


何度もメッセージをしてきていた穂高にそう答える。

メッセージ音にも気が付かずに眠りこけていた様である。

その為、心配した穂高が電話してきた。

電話先でバタバタと音がする。

横になりながらの電話だが.....だ。


「穂高。お前は甘ちゃんと蜜ちゃんの.....」


『お兄ちゃんが居ます。それに.....もう彼女たちも留守番は何度もしていて大丈夫だと思いますから。今は余計な心配はしないで下さい』


「いや.....そんな事言ってもな.....」


『私を看病してくれた事、忘れましたか?.....だから絶対に行きます。それに私は貴方の彼女ですから』


はっきり言われても頭が回転しない。

俺は何度目かの溜息を吐きながら、分かった、と返事をした。

もうどうしようもないな。これと思いながら、だ。

そして穂高に言う。


「薄暗いし気を付けてな」


『はい。大丈夫ですよ。.....すぐ行きますからね!』


「分かった」


全く情けないな。

女の子に頼るなんて.....俺とした事が。

しかも色々思い出すけど.....嫌な記憶しかないな。


熱出しても親父にぶっ叩かれた事とか。

そうしていると母さんからメッセージがきた。

あまり大きくしたく無いから母さんと穂高にしかこの事は知らせてないが.....大きな事になってしまったな。


(大丈夫?大博)


(大丈夫だよ。母さん)


(御免なさいね。こんな日に仕事が忙しくて)


(大丈夫。なんか今日、穂高が来る事になったから)


その事をちゃんと知らせておかないとな。

すると母さんは、泊っていくのかしら?、とメッセージ。

俺は、ああ、と返事しながらメッセージを見つめる。

そう.....、と母さんはメッセージをくれた。


(今は穂高ちゃんに任せようかな。あの子はいい子だから.....でも穂高ちゃんの都合は大丈夫なのかしら?)


(断ったんだけどね。それを考えて。でも来るからって)


(.....本当に良いお嫁さん候補ね。穂高ちゃん)


(そうだね。母さん)


そんな回答でそして俺はスマホを置いて咳をする。

困ったもんだな.....夏風邪とか。

思いながら居ると。

インターフォンが鳴った。


「穂高か.....」


それからゴホゴホ咳をしながらドアを開ける。

そこにはゼエゼエ言いながらの穂高が居た。

髪の毛が額に張り付いている。

女子の感じが全くない。


とにかく俺の世話の為に、と焦って来た様だ。

汗だくで.....走って来た様である。

俺は、オイオイ、とその様子に困惑する。


「.....大博さん。.....任せて下さいね。看病」


「.....いや、有難いが.....そんなになるまで来るなよ」


「大博さんだって汗だくですよね。.....私が全身を拭いてあげます」


「.....へ?」


早速と言わんばかりに室内に入る穂高。

高熱でクラクラする中。

俺は目をパチクリして見る。


そして秘密の.....二人っきりの看病生活が始まった。

恥ずかしい感じだったが.....もう穂高に頼るしかない。

頭がクラクラする。

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