第79話 遺言書と叔母
「理不尽ねぇ。そんな事って有るのかしら」
「.....ですね。確かに」
「そうだな」
この場にはキャシーさん。
そして俺、信也さん、甘ちゃん、蜜ちゃん、穂高。
その5人が居た。
因みにキャシーさんは電話をするなり店を閉めてくれて。
今、この場には5人しか居ない。
「.....叔母さんは今までずっと.....ほったらかしだったのにね」
「叔母ちゃん酷い」
「.....だね。蜜」
今までずっとほったからかしだった癖に、か。
まるで親父の様だな俺の。
フッと出てきてはフッと消える感じ。
まるで蝋燭に勝手に火が灯ってそれから消える様な感覚だ。
明るさが消える様な、だ。
思いながら顎に手を添えつつ周りを見る。
「.....叔母さんは今までずっと何かを考えていたのか?」
「.....どうかな。頭は良いけどそんな事を考える人かな。俺達の事は多分ほったらかしだったと思うけどね」
「.....本当にそうですかね?」
そんな感じで顎に手を添えて俺が言うと信也さんは俺を目を丸くして見てから。
柔和な笑みを浮かべる。
そして俺にこう言う。
相変わらずだな。君は、と、だ。
俺は?を浮かべる。
「.....人を信じる事を最後まで諦めない。.....取り合えずは叔母さんと話そう。一旦」
「.....え?.....でも.....お兄ちゃん.....」
「このままやっていても解決しない。それに.....周りの人達に迷惑を掛けたくないし.....本心が知りたい」
「.....」
そして信也さんは心配する俺達に頷きながら。
穂高の自宅に連絡をする。
すると直ぐに、はい、と声がした。
信也さんはスピーカーにする。
「叔母さん」
『信也ですか。何をしているのですか』
「.....貴方に聞きたい事があるんですが。.....今回は何で俺達を親族で保護しようとしたのですか」
『.....突然その様な話をするのは何か意図が有るのですか。帰って来なさい。それから話します』
帰りたいですけどそれだけは今知りたいです。
と信也さんは真剣な顔をする。
すると叔母さんとやらは話を再開した。
ため息交じりに、だ。
『親族の皆さんと話してから2年前など七水香織さんが亡くなってからこの計画は動き出していました。そのままこの計画を進めようと思ったのですが貴方達の頑張る様子を見てから計画は凍結していたのです。ですが信也。貴方が死に物狂いで頑張る様、現状を鑑みて私達は貴方達を保護する事を決めたのです。貴方達を死なせたくない。それが私達の願いです』
「.....叔母さん.....」
『決してほったらかしていた訳ではない。見守っていたのです。私は決して悪いようにはしません。貴方達の意思をなるだけ尊重したく思っています。なので帰って来てほしいです』
「.....」
俺は頭に手を添える。
一体、どうしたら良いのか。
つまり不器用だったって事か。
叔母さんとやらは全てを守る為に、だ。
俺は顎に手を再び添えた。
「.....叔母さん。私は.....今の生活がしたいです。お願いです」
『このままの支援では厳しいものがあります。それに効率も違う。お願いと言われて、はいそうですか、と頷く訳にはいきません。貴方達を守る為なのですよ。貴方達は身体面でも子供です。成長期です』
「.....」
参ったな。
思いながら俺は自分のスマホを観る。
また母さんに連絡する必要があるのか?
でもそうしないとマズいよな。
思いながら.....頭を掻く。
そうしていると信也さんは、俺だけ帰ろう、と立ち上がった。
その様子に俺達は驚きながらその姿を見る。
俺を見てから笑みを浮かべる信也さん。
「大博に励みを貰った。だから.....俺は叔母さんの所に行く。それに話し合いをしないと解決しない問題だと思うから」
「.....でもお兄ちゃん.....!」
「戦場に出る訳じゃ無いんだから戻って来れるよ。大丈夫。俺が代表なら.....少しは話に融通が利く筈だ」
キャシーさんと俺と穂高達は心配げに見る。
こんな混乱には終止符を打たないとな。誰かが、と信也さんは眉を顰める。
俺は顎にまた手を添える。
本当にこれで良いのか?、という思いが.....俺の胸を突く。
「.....信也お兄ちゃん.....」
「まあ上手く叔母さんを説得してくるからな」
「私も関わりたいけど家族間の問題よねぇ」
「.....ですね.....」
キャシーさんはかなり不安そうな顔をしている。
俺は.....その表情を目だけ動かして見ながら。
溜息を吐いた。
信也さんだけを犠牲にするのは何だか気が引けるが.....。
俺が行っても説得出来ない。
「じゃあ行って来る」
「.....お兄ちゃん気を付けてね」
「信也お兄ちゃん.....」
「大丈夫だって。そんな不安そうな顔をすんなよ」
それから信也さんは行ってしまった。
そして.....俺達は改めて考える.....というか。
信也さんからの反応を待った。
時間掛かるかもしれないとキャシーさんがスイッチを取り出して。
甘ちゃんと蜜ちゃんと遊んでくれた。
「.....大博さん。ごめんなさい。こんな目に遭わせてしまって.....」
「俺は気にならないけど.....信也さんが心配だな」
「.....はい.....」
穂高は不安そうな顔をする。
このまま上手くいかなかったらどうなるのか、とか考えてしまう。
考えながら俺は目の前を鼻息を出しながら見つめる。
甘ちゃんと蜜ちゃんが楽しく遊ぶ姿が俺達にとって最大の幸せだった。
それ以外は.....。
「.....叔母さんは昔から優しかったです。でも.....時には厳しかったです。そんな人がどうしてと思ったんですけど.....でも昔から計画していた事を知って複雑です」
「.....確かにな。裏切られる気持ちがあるとキツイよな。分かる。俺が.....昔そうだったからな」
「.....!」
「.....親父がそうだったからな。昔は」
親父をこれでも信頼していた。
だからこれは虐待と思って無かったのだ。
その為に.....信じていたが。
母親に手を出し始めてから状況が変わった。
でも.....今回はきっと説得とかが出来る筈だ。
「.....マイナスプラスで言えば今の状況はプラスだと思う。俺の状況とはえらく違いがあるからな。.....きっと説得出来ると思うぞ。穂高」
「.....大博さんが言うなら.....そうですね。確かにです。信じます。.....お兄ちゃんを」
「.....だな」
そうしていると。
穂高に電話が掛かってきた。
俺達はビクッとなりながらも直ぐに電話に出る。
そして、もしもし!、と穂高は少しだけ声を高くして言う。
『もしもし。穂高か』
「お兄ちゃん!どうなったの!?」
『.....叔母さんはかなり考えてくれていた。俺達の幸せを、だ。だけど.....親父が遺言書を残していたみたいなんだ。一応は納得してくれたよ。遺言書だけじゃ裁判も必要だという感じだったけど』
「え?何処に有ったの.....?」
今の仏壇の所の引き出しだ。
そしてこう書かれていた。
と信也さんは説明してくる。
万が一俺が死んでそして信也と穂高、甘と蜜が残された場合。
俺はこう望む。
今の幸せを精一杯維持してほしいと。
幸せを見守っていてほしい。
と、だ。
と信也さんは説明した。
俺達は驚愕しながら顔を見合わせる。
そもそも遺書が遺されているとは思わなかった。
俺はホッとする。
「.....お父さん.....」
「.....これで勝ちだな。俺達の。法律に詳しくないけど.....確か母さんは遺書が残っていれば話が別だと言っていた。かなり有効だって聞いたしな。全部が全部じゃないけど」
「.....はい.....」
穂高は静かに涙を拭う。
それから.....電話を見つめた。
本当に何処までも.....良い親父さんだな。
俺にも欲しかったよそういう親父が。
信也さんが話を続けた。
『だけど叔母さんは望んでいる。俺達が.....このままではマズい事を。だから本当の幸せを望んでいるよ』
「.....分かる。でも私は.....」
『その事を伝えたよ。必死に。そしたら.....叔父さんは納得してくれて叔母さんを説得してくれた。.....私達は一旦、身を引こうって。このままで見守っていこうって。これからは叔母さんと叔父さんが半分でも支えてくれるって』
「.....」
穂高は.....涙を流す。
そして俯いた。
取り敢えずは.....これで一旦は解決か。
俺は考えながら。
信也さんに話し掛ける。
「信也さん。有難う御座います」
『何がだ?』
「.....穂高を救ってくれて。嬉しいです」
『.....俺は家族を守っただけだ。だから大丈夫だよ。感謝は俺からもだ。お前が.....背中を押してくれたからな。法律とか全く分からないけど』
俺は、そうですか.....、と笑みを浮かべる。
それから信也さんは、じゃあ戻るから、と言って電話を切った。
俺はその事に穂高を見る。
そしてみんなを見た。
「.....一応でも良かったわね」
「.....そうですね。キャシーさん」
「.....正直、力なら貸せるけどこういうのは貸せないから。だから安心したわ。穂高も信也も.....ね」
「.....キャシーさん有難う御座います」
良いのよ。穂高。
と目をバチンとウインクするキャシーさん。
相変わらず力が籠っているな。
俺は苦笑いを浮かべながら.....信也さんの帰宅を待った。
取り敢えずは.....一時解決かな。
☆
穂高と信也さん、そして甘ちゃんと蜜ちゃんは無事に家に帰宅した。
叔母さんと叔父さんが迎えてくれたそうだ。
俺も家に帰宅し、取り敢えずと思いながら天井を見上げる。
一応、遺言書が有ったのでそれで話が進みそうだ。
だから今は休戦という事になる。
親族が揉めるのなら無理だったけど.....理解してくれた。
「貴方は本当に無茶に突っ込むわね」
「.....俺は無茶に突っ込む癖が有るから」
「.....死なないでね」
「.....死なないよ。母さん」
母さんは俺の頭を撫でる。
俺は絶対に死ぬ訳にはいかない。
考えながら.....目の前を見据える。
それから.....唇を少しだけ噛む。
「.....大博」
「.....何?母さん」
「あともう少しね。誕生日まで」
「.....だね。母さん。有難う」
俺は母さんに頭を下げる。
そしてお礼を言いながら、ふう、とため息を吐いた。
さて.....どうなるか、だが。
俺の誕生日を柔和に迎えれればいいが。
穂高と一緒じゃ無かったら誕生日とか無意味だしな.....。
「.....母さん」
「何かしら」
「.....有難う。何時も。そして俺をここまで育ててくれて」
「.....貴方は良い子に育ったわ。色々有ったけどね。父親から.....」
母さんは眉を顰める。
そうだね、と俺は苦笑する。
それから.....お茶を飲んだ。
時間は過ぎる。
そして.....今も過ぎる。
俺はついていけるだろうかこのスピードに。
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