第78話 私達は貴方達の為に

夏休みに入った。

成績表はかなり良い感じだったが智明は相変わらずの様だ。

勉強も勉強だが今だけは休憩したいものだ。

思いながら.....おしゃれした穂高と一緒に歩く。

今現在、あの噴水の有る公園に向かっている。


「そういえばお誕生日が近いですね。大博さんの」


「.....ああ。覚えててくれたのか。7月31日だけど.....」


「当たり前ですよ。恋人の誕生日ぐらい覚えるのは鉄則です」


「.....そうか」


確かにそうだよな。

思いながら俺は顎に手を添える。

そして公園にやって来た。

夏休みだろうけど子供がいっぱいはしゃいでいる中で穂高はニコッとしながらバスケットを俺に見せてくる。


「.....今日は沢山作りました」


「.....そうか。有難うな。穂高。.....でも近場だしそんなに張り切らなくても良いんだぞ」


「だってせっかくの近場デートですから。張り切るのは当たり前です。近場でも長距離でも関係無いですよ」


「.....そ、そうか」


俺は少しだけ赤くなりながら頬を掻く。

愛情もたっぷり込めています、と穂高は笑みを浮かべて柔和に俺を見てくる。

俺は、そうだろうな。お前の事だから、と返答する。

そして噴水の傍に腰掛ける俺達。

それから麦わら帽子を脱ぎながら日差しを感じている穂高を見る。


「.....でも本当に夏になっちゃいましたね。あっという間でした」


「.....俺達が出会って.....というか再会してな。あっという間だった」


「色々有りましたね」


「.....そうだな」


夏になるまで。

相当な事があった。

例えば俺の親父とか、律子とか。


それとか.....仲の親父とか。

何だか目まぐるしく動いている気がするが。

だけど世界は何時も通りだ。


まるでそうだな。

俺達の周りにとっては地球の時の地軸が15度以上に傾いたような速度で回っていた気がする。

穂高は少しだけ苦笑いを浮かべた顔をする。


「.....でも今が幸せすぎて。.....何も起こらないでほしいですけどね」


「この先、どんな事があってもお前が居るから大丈夫だろ」


「.....アハハ。有難うです。大博さん.....」


流石に俺達はもう傷付き過ぎた。

確かにこれ以上何か起こるとは思えないが.....って言うか。

起こってほしくない。

思いながら空を見上げる。

空は何時も通りそこに有った。


「.....さて、それはさておきお弁当食べましょう」


「だな。そうだな」


その時だ。

穂高の携帯に電話があった。

俺はビックリしながら、穂高電話だぞ、と言う。

穂高は、そうですね、と良いながら直ぐに画面を観る穂高。

え?自宅から掛かってきてますね、と呟いた。


「自宅から?.....どういう事だ?」


「もしかしたら遊びに行った甘か蜜かもです」


と言いながら席を外して電話に出る穂高。

はい、と言いながら.....その顔が深刻な色に染まっていった。

俺は?を浮かべて直ぐに違和感を感じ、穂高に寄る。

穂高は青ざめていた。

そして涙を浮かべて俺を見てくる。


「.....も、大博さん.....大変です」


「何だ?!どうした!」


「.....親族が.....母と父の親族が私の家に来ていると.....鍵を開けていると.....」


「.....は!?」


額に手を添える穂高。

いや、ちょっと待て意味が分からない。

ちょっと待て。

問題は解決したんじゃないのか?

一体.....何をしに来たんだよ!?


「住宅侵入にならないのか!?」


「ならないでしょう。だって.....親族の.....いや、そのよく分からないですけど.....」


「.....そんな滅茶苦茶な.....」


「.....何をしに来たんでしょうか.....不安が.....」


穂高は不安故かカタカタと震える。

俺はその姿を見ながら直ぐに穂高の頭に手を添える。

そして、大丈夫、と言い聞かせた。

だがいきなりなんで.....なんだ?


「.....甘と蜜と.....お兄ちゃんに知らせないと.....!」


「待て。信也さんはもういっているんじゃないのか?連絡が。甘ちゃんと蜜ちゃんがマズいだろ」


「.....そうですね。.....本当に何をしに来たのか.....」


穂高は電話をし始めた。

遊びに行っている友達の家に、だという。

俺はその様子をジッと見つめる。

そうしていると穂高は電話をし終えた。


そして甘ちゃんと蜜ちゃんを俺達に合流させる事になり。

取り合えずは、と対応をしていた。

すると.....信也さんから電話が掛かってくる。

直ぐに穂高は電話に出た。


『大丈夫か。穂高』


「.....どうしてかな?お兄ちゃん」


『あまり分からないが.....考えられるは多分.....俺達を引き取りに来たんだ。バラバラになるぞ多分』


「.....そんなの嫌だ。私は甘と蜜の成長とお兄ちゃんと一緒の暮らしが良い」


それは分かるよ。

俺もそうだからな。

でもわがままは通用しないかもな。


子供を.....一人育てるだけでも相当な金が掛かる。

そして負担も考えられるから。

と信也さんはマイク越しに唇を噛む様に俺達に話す。


「.....我がままって.....私達、何も悪い事をしてない.....」


『残念だが大人はそんなもんだ。本当に姑息な真似を使う。思わせぶりで本当は引き取りたかったんだろうな』


「.....嫌だ.....離れ離れなんて!」


『だから俺も工場を早退して今帰ってる。何とかする。取り敢えずは落ち合わないか。家じゃない.....そうだな。キャシーさんの所とか』


俺は信也さんに、すいません信也さん。大博です、と話し掛けた。

大博か?一緒だったんだな、と安心した声が聞こえる。

はい、と答えながら直ぐに、俺も付き合って良いですか?、と話す。

信也さんは、構わないが.....面倒な事になるぞ、と信也さんは警告する。


『しかし大博。迷惑ばかりだな。お前には』


「いえ.....俺の彼女で貴方は御幸の彼氏です。全員助けます」


『そいつは有難いな。でも.....無理はさせないからな。お前の事が心配だから』


「.....俺は大丈夫です」


そうか.....でも有難うな、と笑みを浮かべる様な声を発する信也さん。

穂高が、じゃあキャシーさんの所で、と言いながら電話を切る。

すると.....また電話が掛かってきた。

今度は穂高の家だ。


『穂高さん。逃げずにきちんと帰って来て下さい。お話が有りますので』


「.....叔母さん.....」


『これは貴方達の未来がかかっていますからね。話し合いをしないといけません』


「.....でも.....」


貴方の意見は聞きません。

子供の我がままは通用しません。

とバッサリ切り捨てる叔母さんとやら。

俺は眉を顰めて意見を言おうとしたのを穂高が止める。

そして穂高は深呼吸をした。


「.....私は.....話し合いは嫌です」


『.....何ですって?』


「.....私達は.....一緒が良いんです。だから.....嫌です!!!!!」


『わがままは通用しませんと言いましたよね。帰って来なさい!』


嫌ですって言ってます。

そんな事を.....言うなら私達は家出します!

と電話を切った。

そして電源も落とす。

それから俺に.....不安そうな目をした。


「.....どうしたら良いんでしょうか。私」


「.....取り敢えずキャシーさんの所に向かおう。そして考えるしかない。今は.....」


「.....大口叩いて.....私、馬鹿ですかね?大博さんの真似をしたんですが.....強気で出たいって.....」


「穂高.....」


でも私は嫌なものは嫌です。

離れ離れ.....って言うか。

親族達の家は遠いですから、離れ離れになります、絶対に。


そして貴方から離れるのが一番嫌です。

と携帯を胸に添える穂高。

俺は.....その姿に、だな、と返事をする。


「.....ああ。俺も協力するからな。絶対に。何処まで介入出来るか分からないけど」


「.....有難う。大博さん」


「.....」


正直.....勝てるとは思えない巨大な敵だと思う。

だけど.....今まで俺達はずっとずっと乗り越えてきた。

だから絶対に大丈夫だ。

勝てる筈だ。

俺達の意見を.....通したい。


「みんなに協力を仰ごう。取り敢えずは」


「.....大博さん.....」


「.....このまま負けっぱなしで.....しかもホームランも打てないならごめんだ」


絶対に勝てる。

俺達は.....だ。

そして穂高を俺の誕生日に安心して過ごさせたい。

思いながら俺は拳を握って電話を掛ける。

その人物は母さんだ。


「.....もしもし。母さん」


『どうしたの?大博。母さん仕事中.....』


「大変な事に.....っていうか。穂高が大変なんだ。助けて欲しい」


『.....?.....それはとても重要な事よね』


穂高が居なくなるかも知れない。

と俺は説明を必死にする。

すると母さんは、分かったわ。ちょっと待ちなさい。

と電話を保留にして.....3分後。

また電話に出た。


『何があったの』


「事情があって穂高の家族がバラバラになりそうだ。穂高の親族に今の生活状況のままで勝てる方法を教えてほしい。無いかもしれないけど」


『.....全く。滅茶苦茶ね。.....でもその。遺言書があれば.....本格的に話が変わるのだけど。今回は話し合いが大切だと思う。でもそれは子供だけの話ね。児童養護施設などの話もあったりするけどその点は違うわね。そして今は条件が違うわ。.....でも信也さんは今は養う強さは無い。だから親族が手を出したのね。今回は流石に家庭裁判所が出てくるかも知れないわ。親権を認める為にね。私達がどうこう出来る問題じゃ無いと.....思うけど.....』


「.....やっぱりか.....」


だよな。

裁判沙汰で.....しかも俺達に選択の余裕は無いよな。

だけど.....そうなると一つに限られてくる。

遺言書を探そう。

思いながら俺は穂高を見る。


「.....遺言書って有るか?穂高。お父さんの」


「.....分からないけど.....有るかも知れないです。それがどうしたんですか?」


「.....それによっては話が変わるそうだ」


「.....そうなんですね.....」


ただし拒否権が発動出来るか。

それが問題だが.....。

と思いながら穂高を見る。

穂高は不安そうに俺にしがみ付いて来る。


「.....大博さんから離れたく無いです」


「.....分かる。俺もお前が居なくなったら.....死ぬしかない」


「.....探しましょう。絶対に見つけます」


「.....だな。やらないよりかはやった方が良いよな」


じゃあどうやって家に戻るか.....。

思いながら顎に手を添えていると。

甘ちゃんと蜜ちゃんが来た。

そして俺達は.....移動を開始する。

取り敢えずは、と。

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