第77話 穂高の親族の決断

穂高の家に泊まってから俺達は夜中を迎えている。

智明の提案で季節的に暑いので怖い話の話会をする事になった。

この話が苦手だとする甘ちゃんと蜜ちゃんは先に寝て信也さんは疲れて寝ている。

その中で開催される。


その日の午後10時。

目の前に蝋燭を立てて電気を消す智明。

パジャマ姿の穂高が俺の手を不安そうに握って来た。

そして智明は眉を顰めて真剣な顔をする。

人差し指をまるで本当の話し手の様な感じで立てる。


「.....さて。先ずは俺の話だが。実はな。これはこの前あった話なんだが.....」


「「「ごくり」」」


「この前歩いた場所の話なんだがな。とある商店街に迷い込んだのよ。俺、んでな.....その商店街はとても明るかったんだが.....その場所には商店が無かったんだ」


「.....おう」


そしてな、歩いて行くと.....段々と光が無くなっていったのよ。

まるで影が俺を覆いつくす様にな。

何故だろうと思いながら歩くと.....かつーんかつーんと遠くから音がしてな.....。

と智明はニヤッとしながら話す。

俺達は眉を顰めながら智明を見る。


「.....その影は段々とデカくなってきてな。俺の身長の数倍の大きさだったんだ」


「.....」


「そんでな.....俺は何の音かと思いながら.....背後を振り返ると.....そこに!!!!!」


そんな感じで声を少しだけ荒げる智明。

穂高が少しだけヒッと言いながら涙交じりで俺に縋って来る。

俺はその穂高を受け止めながら.....話を聞く。

そんな事があったのか.....。

と思ったが次の言葉で一気に.....空気が変わった。


「そこには.....深く化粧したオネエが立っていたんだ.....」


「.....オイ。全然怖くないじゃないか」


何を言い出すかと思えばそれは無い。

っていうか満さんかキャシーさんだろそれ。

思いながら俺はジト目で智明を見る。


穂高は苦笑しながら。

鞠さんは顔を引き攣らせている。

智明は青ざめる。


「いや、俺にとっては滅茶苦茶な恐怖だっての。勘弁してくれよ」


「いや.....滅茶苦茶な恐怖って.....確かにお前は恐怖かも知れないが」


「アハハ。智明さんらしいです」


「智明.....何を言っているの」


全くな。

思いながら俺は周りを見渡す。

次は誰がやる?、的な感じで、だ。

すると鞠さんが手を挙げた。


私がやります、と、だ。

俺達は、じゃあ鞠さんで.....、という感じになる。

そして.....鞠さんは蝋燭を近くに持って来て話し始めた。

ニコッとしながら、だ。



「滅茶苦茶怖かったな.....」


「確かにな.....」


鞠さんの語りが上手過ぎた。

余りの怖さに俺達は唖然としていた。

穂高が涙を流して泣いている。

鞠さんが慌てている。

これ以上はマズいか、と思いながら俺は顎に手を添えた。


「よ、よし。これはこれで中断すっか」


「ああ。そうだな。結構怖かったし.....十分だろ」


智明の意見に賛同しながら。

俺達は時刻を見た。

時刻は23時を回っている。

俺は、寝るか、と声を掛ける。


「.....大博さん」


「.....どうした。穂高」


「一緒に寝て下さい」


「.....マジで言ってる?それ」


当たり前です。

私を1人残して寝ないで下さい。

と穂高は涙目で俺を見つめてくる。

やらかしたなこれは。

俺は思いながら穂高を思いっきり抱き締める。


「大丈夫だ。穂高。もう何もしないから」


「私が参加するって言ったのに.....すいません」


「御免なさい。大丈夫?本当にゴメンね。穂高さん」


「大丈夫です」


智明も心配そうに見つめてくる。

俺は穂高を抱き締めながら。

そのまま頭を撫でてやる。

怖かったな。ごめんな穂高、と言いながら、だ。

穂高は、大丈夫です、と少しだけ笑みを浮かべた。



「大博さん」


「.....」


「大博さん。起きて.....」


「.....?.....どうしたんだ。穂高」


穂高を見て時計を見た。

夜中の2時ぐらいか?

俺は穂高に起こされた。

穂高は.....赤面でモジモジしている。

その、何かを我慢している様な。


「.....おトイレに.....付いて来て下さい.....」


「.....マジで?」


「は、はい。このままでは漏らしそうです.....」


「そりゃいかん。今直ぐにでも行かないと」


俺は慌てる。

そして俺は穂高の手を取って立ち上がらせた。

それからトイレに向かう。

穂高はトイレに入って.....ドアを閉めなかった。

ちょ。


「ほ、穂高!?」


「.....だって.....怖いです.....」


「だからと言ってオープンにして良い訳じゃ無いぞ!閉めてくれよ」


「.....じゃあトイレに入って下さい」


無茶苦茶なご注文です。

俺は赤面しながら.....穂高を見る。

穂高はもう限界の様だった。

そして.....俺を見てくる。


「耳を塞いで下さい.....」


「.....は、はい.....」


俺は直ぐに耳を塞ぐ。

そして.....穂高はトイレをし始めた。

それから数分してから立ち上がった様な穂高。

俺にしがみ付いて来る。


「.....か、帰りましょう」


「そ、そうだな。うん」


そして互いに布団に辿り着き。

それから横になった、穂高と俺。

だが穂高は.....とても怖い様だった。

身体が震えている。

俺はまた抱き締めた。


「.....穂高。御免な。本当に」


「.....私が悪いですから。大丈夫です。ごめんなさい」


「.....」


「.....どうしたんですか?大博さん」


穂高。安心するのにキスするか?、と俺は提案する。

すると穂高は少しだけ明るくなった。

そして.....目を閉じる穂高。

それから俺達はキスを交わした。


穂高は俺の胸にこつんと頭を添える。

その髪をゆっくり撫でた。

良い香りがする。

やっぱり.....大博さんは優しいですね。

とニコッとした穂高。


「大博さん。離れないで下さいね」


「.....当たり前だろ。何を言ってんだ」


「.....私は.....本当に貴方とキスをするのが幸せですから」


「.....そうか」


その。もし良かったら。

私達の昔話をしませんか?

と俺の胸に縋りながら笑顔を見せる穂高。

俺は、お前が寝れるまで話してやるよ、と笑みを浮かべた。


「.....有難う。大博さん」


「幾らでも話してやるよ。お前が安心するなら」


「.....はい。嬉しいです」


そして俺は昔の話を始めた。

とは言っても.....悪い記憶しか無いので取り合えず。

良い記憶を掘り出しながら.....話す。


本当に悪い記憶に繋がらない様に、だ。

穂高は笑みを見せたり。

顔を顰めたりした。

俺は.....その姿を見るだけで.....とても幸せだ。

思いながら.....俺は穂高を見る。



「うおーーーーー!!!!!赤点回避ィ!!!!!」


智明がいきなり教室内で獣の様に絶叫する。

いや、煩い。

馬鹿なのかコイツは。

赤点回避したのか?!、的な感じで周りの奴らが寄って行く。


そうだ!赤点回避だぜ!と笑顔を見せる智明。

俺に遠くからピースサインを見せた。

数学40点、英語36点だが。

まあ取り敢えずは良いか。


「良かったな。智明」


「おう!アハハ」


「良かったですね。智明さん」


「おう。有難うな!御幸ちゃん」


それなりにニコニコしている智明。

全く.....いや、本当に良かったぜ。

死の物狂いで勉強して、だ。

あまりにやり過ぎて世界が変わるかと思ったぞ。

俺は溜息混じりに智明を見る。


「有難うな。兄弟」


「.....おう。そうだな」


「本当に鞠にも.....感謝だな」


「.....そうだな。当たり前だがお前マジに感謝しろ。特に鞠さんには」


俺は盛大に溜息を吐きながら苦笑い。

そして智明を見てから外を見た。

これで安心して夏休みに突入だな。

思いながら.....鼻息を吐いた。


「でもこれはマジに感謝だ。.....兄弟。アッハッハ」


「赤点スレスレだけどな。取り敢えずは頑張ったな。智明」


「だね。アハハ」


御幸と俺と智明は笑う。

それから.....成績通知表を受け取ってそのまま夏休みに入った。

そんなある日の事。

丁度、俺が誕生日を迎えたある日。


穂高、甘ちゃん、蜜ちゃんがこの街から居なくなる可能性が高まった。


遠くの街に引っ越す可能性が高くなったのだ。

より正確に言えば親父、母親が亡くなった時の親族の判断で.....穂高と甘ちゃん蜜ちゃん。


やはりこのまま信也さんだけに任せるのは如何なものか、とバラバラに引っ越す事になる可能性が高まったのだ。

俺は.....ただ衝撃と。

そして.....ただならぬ不安を感じる。

また新たな.....全てが始まろうとしていた。


穂高は.....俺は。


新たな脅威が迫ろうとしていた。

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