第74話 仲の親父の言葉

仲と良和さんの親父。

つまり俺達を散々に妨害していた奴が刺された。

カッターで刺された為か重傷では無いらしい。

因みに刺した奴は病院スタッフに取り押さえられ現行犯逮捕された。

ニュースであったがその刺した奴はこう話しているという。


『俺達を上から目線で指図したのが気に食わない』


と、だ。

多分.....幸の仲間だろうけど。

夜、俺はその言葉のニュースのテロップを見ながら.....顎に手を添える。

そうしていると母親がやって来た。

そして俺を見てくる。


「大丈夫?」


「.....うん。大丈夫だよ。母さん」


「.....でも大変な事になったわね。まさかこんな事になるなんて」


「そうだね。俺も予想してなかった」


良和さんからのメッセージとしては。

親父さんは沈黙を保っている、という話だ。

俺はその事に目の前を見る。

そして思い耽る。


「散々貴方達にも迷惑を掛けているのだからね.....」


「そうだね。確かにね。.....でもそれとこれは別だと思う」


「.....貴方は偉いわね。私は恨みしか無いけど」


「.....俺だって恨みたいけどね。でも恨むだけが全てじゃないって俺の仲間達が気付かせてくれたんだ」


そして立ち上がる。

母さんは俺を柔和に見てきていた。

俺はその姿に穏やかに向く。

それから、風呂に入って来るね、と答える。


「.....大博」


「.....?.....どうしたの?母さん」


「何かあったら必ず言いなさいね。貴方の.....全てに踏み込める訳じゃ無いけど」


「.....そうだね。母さん。有難う」


俺は笑みを浮かべる。

それから.....俺は風呂に入った。

その風呂の中でも考える。

何でこんなに思うのかな.....、ってぐらいに。



「.....」


夜中。

俺はメッセージを打っていた。

その相手は穂高だ。

穂高も心配してメッセージをくれた。

なので大丈夫、と送る。


(大博さんだから大丈夫だとは思いますけどね)


(ああ。有難うな)


(でも.....こんな展開になるなんて思ってませんでした)


(.....正直衝撃だ。俺もな)


穂高は、ですね、と神妙な顔をする様なメッセージをくれる。

俺はそのメッセージに、穂高こそ大丈夫か、とメッセージを飛ばした。

すると、私は大丈夫です、とメッセージをくれる。

俺は、そうか、と返事をした。


(何か変わるのでしょうか)


(.....分からん。何か変わるのかね)


(何か動きそうな気はします。でも.....それは何か分からないですけど)


(反省とか?)


分からないですけど.....きっと変わると思います。

と穂高は顎に手を添える様なメッセージをくれた。

俺は、まあ確かにな、とメッセージを飛ばす。

すると.....そのタイミングで電話が掛かってきた。


「仲.....?」


何と相手は仲だった。

しかしこれは本当に仲か?

俺は眉を顰めて思いながら電話を取る。

そして耳にスマホを添える。

するとこう聞こえてきた。


『もしもし。大博?』


「おう.....え?仲か?」


『うん。私だよ。.....今親父の手から携帯が離れたからその携帯を使って話してるんだけど.....』


「.....すまないが直球で聞くぞ。親父はどうなったんだ?お前の」


俺はその様に聞く。

すると仲は沈黙し、この様に回答した。

そうだね.....親父は完璧に何か沈黙しているね、と。

俺はその言葉に複雑な顔をする。

沈黙か。


『正直言って.....親父は何か思い耽っている様な感じだけどね。全く分からない。何を考えているんだか』


「.....お前は今回の件で何か変わると思っていたりするのか」


『ん?何かが変わるって?どういう意味かな』


「.....いや。穂高と一緒に話していたんだ。もしかしたらこの件でお前の親父さんが何か変わったりするのかなって」


そうだね.....うーん。

これをきっかけにして何かが変わったりはしないと思うけどね。

あの人だから、と仲は答えた。

俺は、まあそうか、と言う。

そして目の前の窓から外を見つめる。


『親父は相変わらずだと思うね。何も変わらない。それが親父だから。あの人の脳みそは分からない』


「.....だな。変な事を聞いてすまん」


『君はもしかして何か考えているのかい?うちの親父の件で。悩んでいるとか?』


「.....ああ。まあ正直言ってな。まあ.....何も変わらないとは思ったけどな」


そうだね、うん。

君の思った通りの回答は得られないと思うよ、と仲は苦笑する様な感じで話す。

俺はその言葉に、だろうな、と答えた。


そしてカーテンをめくったりしたりする。

何かしないと不安だ。

それから仲に言う。


「お前の親父に一応、お見舞いと言っておくよ」


『有難うね。でもお見舞いされる程.....良い人じゃ無いけどね。散々な目に遭ったし』


「.....まあそう言うな。良い人じゃ無いとは思うけど.....仮にもお前の親父なんだから」


俺はまた苦笑いを浮かべる。

すると仲は突然思い出した様に、ハッとした様に言葉を発した。

ごめんごめん、それだけどちょっと忘れていたよ。

と、だ。

俺は?を浮かべて電話を握る手を握り返す。


『完全に忘れていたけど電話した理由だけど.....お見舞いとかは必要無いって話。.....親父は敵対している人のそんなもの望んでない様だからね。それに君は一応、此方に来ようとか思っているんじゃないかって思ってね』


「ん?必要無いのか?」


『君が今までしてきた事を考えるとね。君は本当に本当に優しいから有り得そうだったから先に言っておこうと思って。絶対に君はきっと、傷と今とは関係ない、とか言い出しながらやって来ると思うから』


「.....何もかもを見透かされているな。お前には。全く」


へ?当たり前でしょう。

何年間一緒だと思っているのかな?と言ってくる仲。

俺は頬を掻きながらその言葉に、だな、と返事をする。

そうしていると、アハハ、と言いながら仲は更に話してきた。


『でもとにかく.....あんな奴に必要無いからね。それから.....一応、私達の事も心配しないでね』


「分かった。お前が言うなら」


『アハハ。まあその件を宜しく。じゃあ電話切るね』


「ああ。有難うな。仲。感謝してる」


それから電話は静かにそのまま切れた。

糸電話の糸が切れる様に、だ。

だがそれと同時にまた電話が掛かってくる。


人物は良和さんだった。

俺は?を浮かべて目を丸くしながら直ぐに、はい、と電話に出る。

すると良和さんの声が聞こえた。


『もしもし。やっと繋がった。大博。今大丈夫か』


「はい。どうしたんですか?遅くなってすいません」


『.....介護しているんだけど.....ってのはどうでも良いけどな。なんつうか言い辛いんだが親父がお前と話したいそうだ。.....時間良いか。病院だからあまり話せないけどな。巡回も有るし、先ず此処は病院だしな』


「.....え?親父さんって.....」


良和さんは、その親父だ、と返事しながら。

ほら、と投げやりな感じで誰かに電話を渡す。

それから直ぐに受け取った様にゴソッと音がして電話の主が出る。

俺は.....息を飲む様に言葉を発する。


もしもし、と。

すると数秒間、時が止まった様に間があってから声が聞こえた。

若干にか細い声で、だ。


『もしもし。大博君かね』


「.....はい。大博ですが」


『.....時間も無いから単刀直入に話すが君の事は正直言ってまだ許した訳ではない。そして.....今も妬ましい事には変わりは無い。仲の成長を阻害している事に.....変わりは無いのだ』


「.....そうですか」


俺は電話を耳に当てたまま暗い窓の目の前をジッと見据える。

そして顎に手を添える。

相変わらずの俺達への批判節でも出るかと思ったが予想外の言葉があった。

それは.....反省の様な言葉で、だ。

まるで地球の回転が変わる様な感じで、である。


『だが私は多少だが間違ったのだろうな。道を』


「.....え?」


『恨むべきを間違っていたのかも知れない。私は』


「.....」


正直、仲が不安だったんだ。

何故かと言えば仲はあの状態だろう。

私にとっては最愛の娘で.....守りたかったのだ。

だけどそれが間違っていたのだろう。

それを.....思った。


と答えた。

俺は驚愕しながら暗い外を見る。

そして.....、そうですか、と返事をした。


『.....嫌がらせをして悪かった。私は.....もう何もしない。老体は身を隠す事にする』


「.....」


『それから大博君』


「.....何でしょう」


仲と一緒ならついでで良い。

もし良かったら仲を守ってほしい、と仲の親父は言った。

俺は目を丸くしながらもその言葉に、そのつもりです、と答える。

そして電話先が変わった様に良和さんが出る。

複雑な顔の様な感じで話す。


『親父は反省している様だ。だからと言って許されないけどな。少しだけでも歩みだせそうな気はする』


「.....ですね」


『悪かったな。俺の親父が』


「.....いえ。俺達が間違った事をしてなかっただけ.....それが分かって嬉しいです」


また今度会おうな。

巡回も来るし、じゃあ切るからな、と電話が切れた。

俺はその言葉に電話を手でぶらんとさせる。

それから椅子に腰掛けて盛大に息を吐く。

何かが変わるのだろうか。


そう。

例えば行けない上の天井のガラスが割られる様に。

そして信号が赤から青に変わり渡れる様に。


そんな感じだろう。

ようやっと変わった気がする。

何がが、だ。

やっとここから一歩が踏み出せそうな気がする。

俺達は.....解放されたのだ。


「.....仲.....」


守りたかったんだな。

あの人も。

間違っては無かったんだ。

俺は.....見る目を、だ。


「.....勉強すっか」


来週は智明の再試験だ。

取り敢えずはあのアホに分からない所を教えれる様にそれぐらい.....学力を付けたい所ではある。

悩みはかなり薄くなった。

これなら.....集中出来そうだな。

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