最終章 花束を添える時

1、最後の駆け引き

第73話 仲と良和の父親、刺される

野崎エリー。

彼女の事は詳しくは知らないがせっかく仲が良くなったのに。

このままシナリオ通り自殺をさせる訳にはいかない。

そう思い俺は駆け出していた。


「何でこんな事に.....」


何をエリーちゃんは悩んでいるのだろうか。

そして何故.....彼女を自殺へと追い込んだのか。

俺は.....かつてを思い出す。


死に損ねた俺を、だ。

親父に虐待されていたあの時。

俺も死にたかった。

ただひたすら.....だ。

だから俺はエリーの気持ちが良く分かる。


そうしていると目の前にエリーちゃんが走っているのが見えた。

俺は大声を発する。

オイ!エリー!!!!!、とだ。

エリーちゃんと呼ぶ暇は無かった。

そんなエリーは俺に振り向いて驚愕しながら走って行く。


「クソッ!」


小柄の為か足が猛烈に速い。

そう思って追い付けるか?と?店内を走っていると目の前に良和さんが現れた。

良和さんに俺は、良和さん!、と叫ぶ。

すると良和さんは驚愕しながら俺を見た。


「その子を止めて下さい!」


「え?.....お、おう!」


そして良和さんがエリーちゃんを止めた。

エリーちゃんは、離して!、と暴れる。

俺は追いついてからエリーちゃんを見つめる。

エリーちゃんは涙を流して暴れていた。


「ど、どうしたんだ?大博」


「.....この子、死のうとしています」


「.....え!!!!?」


良和さんは眉を顰めながらエリーちゃんを見つめる。

それから涙を流すエリーちゃんに俺は向いた。

エリーちゃんは俺を見つめて、離して、と呟く。

そんな訳にはいかない。

通行人が何事かと俺達を見ている。


「取り合えず場所を移そう。大博」


「.....はい」


「.....」


エリーちゃんは衰弱している様に見える。

俺は.....その姿を複雑に見ながら。

取り合えず近くの喫茶店に入った。

良和さんが、3人、と店員に言いながら席に腰掛ける。


俺は座ってからエリーちゃんを早速見た。

エリーちゃんは俺を睨む様に見つめてくる。

初めて見た表情だった。

良和さんも見つめる。


「何で私を止めたの」


「.....お前は死にたかったんだろ。じゃあ止めるだろ普通」


「.....だから止めるの。私が死んでも.....誰も困らないのに」


「.....お前.....」


そんな感じでいると良和さんが、何が有ったか教えてくれないか、と俺に向いた。

俺は良和さんに、この子は自殺しようとこの場所に来たんです。

それが.....分かったんです、と説明した。


またエリーちゃんを見つめる俺。

エリーちゃんは俯いてから何も言わない。

良和さんは腕を組みながらエリーちゃんを見つめる。


「.....死ぬのは良くねぇな。自殺したら周りがとにかく悲しむぞ」


「.....私が居なくなっても困らない」


「じゃあ反対に考えよう。エリーちゃんが死んだら.....御幸ちゃんはどうなるんだ」


「.....」


御幸は私が居なくなっても困らない。

周りに友達は沢山居るから。

と、卑屈な事ばかりを言うエリーちゃん。


俺はその言葉に流石に平手打ちをしたくなったが。

その前に平手打ちをする。

誰がって.....御幸だった。


「.....本当にそんな事を思っているの」


「.....御幸.....」


「貴方は周りの人達がそう思っていると思っているの!?本当に!!!!!」


「.....」


御幸は喫茶店に駆け込んで来た様だ。

店員もそうだが俺と良和さんも驚愕している。

いきなりやって来た様だった。

そして平手打ちの痛みを感じながらの感じのエリーちゃんはそっぽを向く。

何でみんな私を止めるの、と、だ。


「.....正直、お前がどんな目に遭ったかは知らない。定かじゃない。そして.....お前がそれほど悩んでいるのも分からない。だけどな。周りの事を考えてくれ。お前が死んだらみんな悲しむ。間違いなくお前はお前しか居ないんだから」


「最近不良になった兄に虐待されていて.....Vチューバーになった。薬の効果の様に。だけど.....私の自殺衝動が消えなかった。だから死のうとしたのに。止める必要無いのに」


「エリーちゃん.....」


俺はバァンと周りに響かない様に机を叩く。

そしてエリーちゃんを見つめた。

エリーちゃんは驚きながら俺を見る。

そして.....眉を顰めた。


「.....お前な。屁理屈ばかり言うな」


「?」


「.....俺だって死にたかったんだぞ。首まで吊った。なのに死ねなかったんだぞ」


エリーちゃんに首元を見せる。

そこには痣が消えずに残っている。

これは首を吊った衝撃の傷だ。

エリーちゃんは、え?、という感じで青ざめて固まる。

そして.....俺は手首も見せた。


「カッターで切った傷だ。リスカの跡だ。お前だけが同じ気持ちで悩んでいると思うなよ。俺だって真面目に虐待で死にたかったんだ」


「え.....じゃあ貴方も.....」


「.....そうだ。お前が逃げたい気持ちは十分に分かる。だけど逃げるのは負けだ。負けなんだ。知ってほしい。それを」


「.....」


涙を流すエリーちゃん。

そして御幸も後からやって来た智明も。

良和さんも驚愕する。

この傷は誰にも見せるつもりは無かったんだが。

思いつつ椅子に腰掛ける。


「逃げるな。エリーちゃん。俺は.....俺達はお前を助けてやるよ」


「.....」


「.....大博が言う様に俺も御幸ちゃんも良和さんもみんな味方だよ」


「.....信じていいの」


エリーちゃんは呟く。

涙を拭いながら、である。

その姿を見ながらみんな顔を見合わせて頷く。

それに悩んでいるんだよ、俺達も。

とエリーちゃんに話した。


「え?」


「.....今俺達も巨大な敵と戦っている。だから.....話してくれて嬉しかった。それに俺には色々つてが有るしな。お前を必ず救ってやる」


「.....何でそんなに救ってくれるの」


「簡単だよ。悩んでいる人に手を指し伸ばすのは当たり前だと思うから」


御幸がその様に言いながら手を指し伸ばす。

エリーちゃんは涙を拭う。

そして.....頷いた。


それから笑みを浮かべる。

有難う.....、と小さく呟きながら、だ。

死ななくて良いんだね私は、とも言いながら、だ。


「.....さて、そうなるとどうなる?」


「.....まあその兄貴ってのが問題だよな」


「みんなに頼るか?」


「それが一番だろうな。良和さん」


オウ、

と返事する良和さん。

それから俺達は顔を見合わせて頷き合う。


そして最後にエリーちゃんを見る。

そんなエリーちゃんは、みんな.....、的な感じになっていた。

俺達は顔を見合わせて柔和になる。


「.....取り敢えずは.....呼んでもらっていい?お兄さんを」


「でも私の兄は.....」


「呼ばないと何も始まらない。こちらは手を出したりしないから」


「.....はい。分かりました」


そしてエリーちゃんは頷いて。

立ち上がってから喫茶店の外で電話を掛け始めた。

その結果、来るという形にはなり。

エリーちゃんの兄と対峙する事になった。



結構ガタイの良い兄ちゃんが来てから。

俺と智明と御幸と良和さんが対峙してから話し合った。

その結果、取り敢えずは兄はエリーちゃんの事に納得してくれて(とは言え良和さんが半分威圧した)。

何とか仲を柔和に取り持つ事に成功した。

デパートの外でエリーちゃんが頭を下げる。


「.....兄を説得してくれて有難う御座いました」


「.....これでエリーちゃんの兄が反省したとは思えないけどな。俺達の件も有るし。今までの件も」


「.....でも本当にみんな有難う」


御幸の涙目に慌てる俺達。

大丈夫だって良いって、と笑みを浮かべる。

そんなエリーちゃんは御幸と一緒に手を繋いでから俺達を見てくる。

本当に有難うね、はーくん、と俺を見つめてくる。

俺は何もしてない。


「良和さん抜きじゃ話にならなかっただろうな」


「だね。アハハ」


じゃあ帰るか、と俺達は歩き出す。

その際に.....良和さんに電話が掛かってきた。

それを受ける良和さん。

もしもし?と言いながら.....見開く良和さん。

え?


「.....どうしたのかな?」


「分からないな.....」


そんな感じで話し合っていると。

良和さんがポツリと呟いた。

何だか親父が病院で若い男にカッターで刺された、と眉を顰めて、だ。

って、え!!!!?

と俺達は見開いて愕然とした。


「それって本当っすか!?」


「ああ.....今、総合病院に運ばれたらしい。.....すまんが先に帰るな。有難うな」


「は、はい」


そして大股の足で駆け出して行く良和さん。

まさかだ。

そんな結末になるとは思ってなく。

俺達は顔を見合わせながら.....ただただ呆然とするしかなかった。

そんな事になるとは.....!?

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