第72話 野崎エリーがこの場所で遊んでいる理由
良和さんが決意した。
何を決意したかというと俺達の為。
そして全ての未来の為に親父さんと話すという決意だ。
俺は.....正直言ってその事には不安しかない。
ただ絶望しか無い気がする。
何を仕掛けてくるかも分からない人なのだ。
相手は、だ。
でもあの人。
つまり良和さんの親父さんも、もしかしたら自分を救ってほしいのかもしれないと。
ただ周りに救済を求める為に暴れている為に仕掛けているのかもしれないと。
ただ甘い考えかも知れないけどそんな感じで思い始めた。
本気でドラ◯エのラスボスのゾーマなのかも知れない。
そんな感じなのかもしれない。
だけど.....もしかしたら裏に行けばただ救いの手を差し伸ばしてほしい人間なのかもしれないと思い始めた。
何にせよ.....良和さんの親父さんがやった傷はエグい。
十分に反省してもらわないければいけない。
例え救える人でも、だ。
やった事は消せない。
何故なら.....良和さんもみんな傷が付きまくっている。
だから反省が十分に必要だ。
だけどそれは今は後の方だ。
今やるべきは.....反省とかでは無い。
ただ話し合いだと思う。
そして.....その後にしかるべき対処をするべきだ。
それが多分もう残された道だ。
良和さんだけで本気で大丈夫なのだろうか?
仲も多分参加するだろうけど。
俺は.....心底から不安でしか無い。
思いながら俺は.....心の何処かでは不安で居ながら楽しんでいる様な感じだった。
そうしていると歩いている御幸が心配そうに見てくる。
顔を複雑にしながら、だ。
「はーくん。大丈夫?」
「.....ああ。大丈夫と言える。しかもそれが言えるって事は大丈夫って事だ」
「.....もしかして良和さんの事?」
「.....隠しきれないな。.....それだよ。.....御免なせっかく楽しんでいるのに」
全然構わないよ。
だってはーくんだもん、と笑顔を見せる御幸。
本当に良い奴だよな、コイツ。
と思いながら俺も柔和になっていると。
智明が肩に手を回してきた。
「大丈夫だ。俺達が付いてるぜ?兄弟。ハッハッハ」
「お前は相変わらずだな。智明」
「ったりめーよ。だって俺が元気じゃ無かったらお前はどうなっている事やら」
だろ?、とニカッとする智明。
俺は、まあな、と少しだけ安心した様に返事をした。
それから.....俺は前を見据える。
目の前には雑貨などを売っているお店の類が.....あれ?
「アラァ?智明ちゃんじゃ無いノォ」
「.....」
「.....智明。固まってんぞ。あからさまに」
青ざめて首を振る智明。
何故か満さん。
通称、オネエの男性が雑貨を出店していた。
俺達は顔を見合わせてから近寄って見る。
並べられているのは全てドレッシングの様だ。
御幸が目を丸くして満さんを見る。
「どうしたんですか?満さん」
「私ねぇ。健康食品のドレッシングを売ってるのよ。オホホホホ。今日だけね。ホホホ。それはそうと貴方達は?」
「俺達は水着を買いに来ました」
「.....という事は智明ちゃんもかしら?」
艶かしい目を向ける満さん。
首をブンブン横に青ざめながら振る智明。
その否定はまさに拒絶と言える。
ATフィールドでもあればその.....うん。
弾き返しそうな勢いである。
プログレッシブルナイフを弾き返したカヲルくんみたいに、だ。
俺はクスクスと笑う。
「.....残念ね。オホホ」
「.....」
「.....智明。大丈夫か」
「.....おう」
十分に愛されているなコイツ。
別の意味で、だ。
俺は苦笑いを浮かべながら居ると。
そうそう売れ残りだけど.....ドレッシング食べてよ、と満さんが全員に袋にドレッシングを入れながら渡してウインクした。
「乙女特製よ。とっても美味しいわよ。オホホホホ」
「ウインクが相変わらず力強いですね.....」
「バッチコイよ。オホホホホ」
智明は青ざめながら俺に、は。早く行こうぜ、と訴えかける。
コイツマジに.....ヤバイかもな。
俺は苦笑しながら.....満さんに向いた。
それから頭を下げる。
「満さん。有難うです」
「オホホホホ。気にしないの。私は仕事が有るから。智明も参加するかしら?」
「け、結構です。.....ahaha」
「.....あら残念。ホホホ」
重症だなこれ。
ゾワッとしている。
俺はさらに苦笑しながら頭を下げてから。
そのままみんなに向く。
じゃあ行こうか、と、だ。
「大博クン」
「.....はい?」
満さんが寄って来た。
それから俺の耳に耳打ちをしてくる。
あの金髪の子、少し気に掛けてあげた方が良いかも知れないわ。
と、だ。
え?どういう意味だ?、と思いながら満さんを見つめる。
「.....あの子は少し悩んでいる様に見えるわよ。大博クンのお友達でしょ?.....気を配った方が良いかも知れないわ」
「.....マジすか。分かりました」
「.....ええ。じゃあ仕事に戻るわね。オホホホホ」
そして満面の笑顔で仕事にドスドスと音が鳴りそうな感じで戻って行く満さん。
俺達に力強い手を振ってくれた。
にしても.....悩んでいる?
こんなに笑顔なのにか.....?
そんな馬鹿な事が?
「はーくん。どうしたの?」
「.....なんでも無い。ただ気にしすぎかもな」
「え?」
御幸は???を浮かべて俺を見てくる。
俺はその中で改めてエリーを見る。
エリーちゃんがニコニコしている中で視線を落とすと。
少しだけビクッとなってしまった。
「.....!?」
リスカ。
略さずに言うとリストカットだ。
つまり.....手首に若干の傷がある様な。
そんな傷の見え方をしていた。
エリーちゃんはハッとして慌ててその古傷を袖で隠す。
そういえば.....思ったけど何故ゴスロリの服をこんな真夏に着ている?
それは考えてなかった。
俺は眉を顰めながらエリーちゃんに向く。
「.....エリーちゃん。今とか悩み.....無い?」
「.....私は大丈夫ですよ。何時も楽しいですけどな。アハハ」
「.....だったら良いが」
よく考えたらこんなに何時も顔をニコニコしているのも不自然だよな。
何があっても.....その、ニコニコしているし。
それはいくら何でもおかしいんじゃ無いか。
俺は.....眉を顰めながら前を見つめた。
だが俺達はまだ気が付いてなかった。
実は.....エリーちゃんは何の為にこの場所に来たのか。
それは.....己がこの場所で自殺を計画している為だったという事に。
人生でこれで最後にしようとしているという事に、だ。
遊んでいるんじゃなくて死に場所を探していたのだ。
☆
「楽しいな。ハッハッハ。色々見れるしよ」
「だな。それは確かに」
雑貨屋を巡りながら色々と見ていた。
そして可愛い物、格好いい物。
そんな物まで見ていた。
だけどその中で。
俺は.....エリーちゃんの事が気掛かりだった。
「エリーちゃん。楽しいか」
「はい。とっても楽しいです」
「.....そうか」
エリーちゃんは.....ニコニコしている。
そして柔和な顔を浮かべる。
俺は.....その笑顔が本当に楽しいのか.....何だか不安になってきた。
その為、俺は背中でスマホを打った。
それから送信する。
「.....」
御幸と智明は直ぐに気付き、俺に顔を向けてくる。
これは本当か、的な顔を、だ。
俺は頷く。
そしてエリーちゃんを見た。
エリーちゃんは首を傾げていたが。
「ちょっとトイレに行って来ますね」
「.....ああ」
「エリー。一緒に行こう。私も行くよ」
「.....え?.....あ、じゃあ御幸も一緒に」
そしてトイレに向かった御幸とエリーちゃんを見送ると。
智明が直ぐに寄って来た。
これってマジか?、と言ってくる。
俺は頷いた。
「彼女はゴスロリの服を着ているがあれは多分.....隠す為だ。リスカの痕跡を」
「.....マジかよ。あんなにいい子が.....なんで」
「.....人には悩みが沢山有るって事だろう。そういう事だ」
「でも.....それが分かったなら何かしてやれるかもな」
やめた方が良いかも知れない。
俺は智明に忠告する。
智明は、え?、と言葉を発した。
そして俺は昔を思い出す。
自殺をしたかったあの頃を。
「.....人ってへんに気を遣われると.....逆に進む可能性もある。今の状態で.....見守ろう。取り敢えずは」
「.....そんなもんか?」
「.....俺がそうだった」
「.....そうか」
すると御幸が慌てて走って来た。
その顔が.....青ざめている。
まるで怪物でも見た様な感じで、だ。
俺達は顔を見合わせて御幸に直ぐに向いた。
それからどうした?!、と聞く。
「エリーちゃんが.....居なくなった.....」
「え.....」
足が竦む様な感覚になった。
俺と智明と御幸は顔を見合わせて頷き合う。
それから智明は走り出した。
居てもたっても居られない感じで、だ。
「兄弟!!!!!探すぞ!!!!!マジでマズイかも知れないぞ!」
「分かった!お前あっちな!俺こっちだ!御幸は向こう側を!」
「うん!!!!!」
こんなにいきなりとは。
アドレス交換でもしておくべきだった!
こんな直ぐに異変になるとは思ってなかった!
くそう!
思いつつ俺は脇目も振らずに店内を猛ダッシュで駆け出す。
店内は走っちゃいけないかもしれないが.....そんな事を気にしている場合じゃ無い。
大変だ、本気で。
下手すりゃ本気で死ぬかもしれない。
そんな事にならないでくれ、と思いながら。
俺は走る。
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