第70話 Vチューバー(エリ)、こと野崎エリー

この世界ってのは上手く回らないと前も言ったかもしれない。

だけど本当に上手く回らない。

俺に電話して来た.....仲の親父はこう話した。

私には心が無い、と。

これだけ嫌がらせ行為をされてきたが.....俺は何だか複雑な心境だった。


「.....また親父が君に接触したんだね」


「.....お前も大変だな」


「私はお兄ちゃんと一緒に外に出ているからね。今は大丈夫」


「.....だと良いけどな」


穂高と一緒に帰って来てからの翌日の日曜日の事。

俺はバイト途中で休憩中の仲と話していた。

仲は複雑な顔で制服姿で縁石に座りながら俺を見てくる。

親父は.....可哀想っちゃ可哀そうなんだけどね、と言葉を発した。


「.....私にはもう止められないかも知れない。警察に一度は捕まった方が良いとは思う。だけど.....捕まってほしくないという気持ちも有るんだよね。家族だから」


「.....妬ましいのか分からないんだよな。それはよく分かる。俺もそうだったからな。.....親父には最初は期待していたから」


「君は経験者だから詳しく知っているよね。.....本当に.....御免ね。うちの親父が」


「.....お前のせいじゃない。お前の親父のせいだとは思う。だけど.....お前の親父ももしかしたら被害者なのかもしれないな」


君は心優しいね。

やはり私が見込んだだけある。

だけど君は優しすぎる点も有るから飲み込まれない様にね。

と俺に向いて来る。

それは確かにな、と思う。


「蛇は卵を丸ごと飲み込むよね。そんな感じに.....飲み込まれない様にね。そもそも作り話も有るかも知れないし」


「.....それは確かにな」


「お兄ちゃんも私も半分は嘘だと思っているから。だから.....気を付けてね」


「.....ああ」


そうしていると店長がやって来て、仲さん入れる?、と聞いた。

はい、と答えてそれから立ち上がって俺を見てくる仲。

じゃあ戻るからね。またメッセージ頂戴、と笑みを浮かべる。

俺はその姿に柔和になりながら見送る。

そしてそのまま仲は店の中に戻って行った。


「.....仲も頑張っているんだよな。.....俺も頑張らないとな」


7月になったのだから.....本気で頑張らないと。

思いつつ縁石に腰掛けている腰を動かして歩き出す。

そして真っ直ぐに前を見た。


通行人が行き違いになる。

そうだよな、みんな頑張っているんだ。

俺も頑張らないでどうする。


「さて.....どう動くか、だな」


考えながら真正面を見てそれから通行人を避けながら歩いた。

そしてスマホを見つめる。

スマホにはメッセージは無いが.....誰かにメッセージを、と思ったのだが。

何故か知らないが滝水からメッセージが来た。

俺は?を浮かべてメッセージを開く。


(どうしたんだ)


(波瀬さん。最近はラノベとか読んでますか)


(読んでるぞ。どうした)


(またお勧めのラノベがあります。読んでみませんか)


何なら貸しに行きますが、と滝水はメッセージをくれた。

俺は、いや。それは迷惑だから。

買いに行くわ、とメッセージを飛ばす。

すると滝水から、分かりました、と返事が来た。


「.....よし」


これで予定が出来たな。

後は.....穂高とかにメッセージを、と思っていると。

目の前に御幸が誰かと一緒に歩いているのに気が付いた。

俺は、御幸!、と声を掛ける。

すると振り返って俺を見てきた。


「あ。はーくん」


「よお。どうしたんだ」


「今から買い物だよ。.....あ。この人は初めましてだよね。野崎エリーちゃんだよ」


金髪のハーフっぽい女の子が俺を一瞥して律儀に頭を下げた。

顔立ちもかなり可愛く、ゴスロリの様な服を着ている。

日本語通じるのだろうか。

俺は思いつつ御幸を見つめる。

そして聞いた。


「.....初めまして。俺は波瀬大博.....というかハーフか?」


「ハーフだね。私のお友達なんだけど.....可愛いよね」


「へえ.....確かにお人形の様だ。何処で知り合ったんだ」


「.....こっちにやって来た時かな。エリーちゃんが。私が住んでいる場所の横に越してきてから仲が良くなったの。エリーちゃんって海外で生まれたんだって。それでお父さんの都合で日本に帰って来たって」


そいつはまた。

俺はエリーちゃんという名の子を見る。

エリーちゃんはニコッと笑みを浮かべる。

そして俺を見てきた。


「.....優しそうな人ですね」


「.....お、おう。そうか」


「もー。色目使ったら駄目だよ。穂高ちゃんに怒られるよ」


「そ、そうだな」


アニメの声に近いボイスをしているが。

かなり.....驚きだ。

と思っていると背後から、あれってエリじゃね?、と人込みが出来始め.....え?

俺と御幸は目をパチクリする。

エリーは、あらら、と言いながら周りを見る。


「.....私はエリじゃ無いですよ」


「え?でも.....」


「.....行こう。御幸。そして波瀬君」


「「え?」」


通行人が顔を見合わせる中。

俺達はそのままエリーに手を引かれてその場を去った。

ちょ、ちょっと待て。


どうなっているのだ!?

そして.....そのまま路地裏まで走ってから。

エリーちゃんが俺と御幸を見てきた。


「.....実は私は.....Vチューバーなの」


「.....え?.....マジで?」


「え!?初耳だけど!?」


いやいや御幸まで知らなかったのかよ。

っていうか、それってかなり驚愕なんだが。

思いながら俺はエリーちゃんを見つめる。

色々と頭が混乱している。


「.....まさかその.....そんなに有名じゃないし居るとは思って無かった.....」


「.....声も可愛いし.....容姿端麗だな。成程な。だけど驚愕だ」


「.....でもその、はーくん。Vちゅーばーって何?」


「Vチューバーを知らないのか?えっとな。女の子の様な仮の容姿で.....YouT○beで歌ったり踊ったりするんだよ」


そうだよ、と御幸を見るエリー。

さっきのファンどもは確かエリって言ってたな。

俺は.....考えながらエリーを見る。

そしてそのまま聞いた。


「エリーちゃん。Vチューバーってどんな容姿なんだ?」


「.....金髪の女の子で顔立ちも幼い感じの可愛い女の子です」


「.....それはちょっとバレるかもな.....」


ほぼ今の容姿そのままじゃないか。

俺は苦笑いを浮かべながら御幸を見る。

御幸は、じゃあ有名な人なんだ?、とすんなり受け入れていた。

反発するかと思ったんだが。


「.....御幸。抵抗ないのか?」


「ある訳ないよ~。エリーちゃんはエリーちゃんだもん」


「.....そうか。お前らしいな」


にこやかにする俺。

エリーちゃんは目を丸くして.....御幸を見る。

そして.....こう聞いた。

今まで会った人と違う、と呟きながら、だ。


「.....御幸.....嫌いにならないの?私の事」


「.....私はそんな人じゃ無いよ。エリーちゃんが友達だと思っているよ」


「.....」


嬉しそうにはにかむエリーちゃん。

多分.....Vチューバーが気持ちが悪い、とか言われていたんだろうな。

世間の扱いって冷たいし。

と思いながら顎に手を添えていると。

エリーちゃんが俺に向いた。


「波瀬くんも嫌いになったりしない?」


「.....当たり前だろ。個性だからな。嫌いになったりしない」


「.....優しいね。みんな」


俺の仲間もみんな受け入れると思う。

思いながら3人で居ると目の前の通路奥から声がした。

もしやエリちゃんじゃね?.....ってあれ?兄弟?、と。

よく見ると短パン姿の手をポケットに突っ込んだ智明だった。


「何やってんだよ.....って!!!!!まさかお前!!!!!」


「お前は何か勘違いしてないか?智明」


「女をこんな場所に連れ込んで.....貴様裏切ったな!!!!!」


煩い。

その様に考えながら智明を見る。

智明は地面で、ぁあー!!!!!、とゴロゴロ動く。

いやいや.....と思っていると。

目をパチクリしていたエリーちゃんが笑い始めた。


「クスクス.....あはは」


面白い人ですね、と言いながら、だ。

俺と御幸は顔を見合わせる。

それから、だな、と苦笑した。

そして一緒に笑う。


「可笑しくないぞ!笑い事じゃねー」


「いや、お前の行動がおかしいんだよ。アハハ」


「うーん。畜生.....兄弟まで笑うとは.....」


智明は言いながら頭を抱える。

その笑っている中で、そういえば、御幸が聞いた。

何故この場所に智明さんが?と聞く。

その事に智明が、ん?ああ。そうだな、と言う。

そして立ち上がった。


「何だか表が騒がしくてな。それで」


「.....それでこの場所を当てたってか。お前キモイ.....」


「な!?失礼だな!カンだっての!」


額に手を添える俺。

それから.....ジト目で、本当か?、と智明を見る。

智明は、本当だっての、と説明した。

俺はその姿にため息交じりに苦笑しながら、分かった、と返事をする。


「でもその、それは良いんだが逃げているのか?ファンから」


「.....逃げ切ったから大丈夫だ」


「ああ。そうなのか。あ、俺、エリちゃんのサインが欲しい.....」


コイツ.....何を言い出すかと思えば。

と思ったらエリーちゃんが、良いですよ大丈夫です、とニコニコしながらメモ用紙にサインした。


そしてメモ用紙を智明に渡す。

おおマジか!、と目を潤ませる智明。

そんなにファンなのか?


「.....いやー。まさか中の人。エリちゃんに貰えるとは思わなかった。有難う。エリちゃん」


「私の本名はエリーです。智明さん」


「え?.....おおマジか!可愛い名前!」


有難う御座います。

智明さんも格好良いですよ、とエリーちゃんはニコッとする。

そんな事は無いと思うんだが.....エリーちゃんは褒め上手だな.....。

俺は思いながらも見つめていると。

御幸が、この後どうします?、と言葉を発した。


「.....そういや何処に行く予定だったんだっけ?」


「買い物だよ。はーくん。アハハ。忘れん坊だね」


「.....じゃあ俺は別の所に用事が有るから。そこに行くわ。わかれ.....」


「オイ兄弟。まさかと思うがエリーちゃんとこのまま別れるんじゃないだろうな」


いや.....俺は用事があるっての。

何を言ってんだよコイツ。

お前で行って来い。そこまで言うなら、と言う。

俺!?俺だけじゃ女ばかりで恥ずかしい!と目線を彷徨わせてキョどる智明。

キンモー☆


「あのな智明。昔から言ってるがお前には鞠さんが居るからな。忘れるなよ」


「.....言われんでも分かる。ハハハ」


気持ちは鞠以外に向かないさ、と格好良く笑みを浮かべる智明。

そうだな。

鞠さんにボコボコにされるぞ下手すると。

思いつつ俺は溜息を吐いた。


それはそうと頼むよー兄弟ー、的な.....視線を向けてくる智明。

まるで子供が俺に縋って来るように目を輝かせている。

キモイなオイ.....。

仕方が無いなこうなったら。

滝水にメッセージを送ってから.....うん。


「.....御幸。良いか。俺達も行って」


「良いよ。全然構わないよ。いっぱい居た方が楽しいよね。アハハ」


「.....エリーちゃんも?」


「良いですよ。全然大丈夫です!」


俺は智明を最後に一瞥してから。

盛大に溜息を吐いて嬉しそうな智明と共に歩きだす。

そして女子2人と男子2人の怪しい買い物が始まった。

こんな宣言するとか、何か起こるのか?、的な感じだが.....本当に何か起きそうだ。

穂高にメッセージを送るつもりは無かったがこうなったら送らないとな.....。

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