第68話 肩書=鬼の信也

ところで智明のアホはこの場所で何をしているのだ。

俺は思いながらメッセージを飛ばす。

すると智明からそこそこの予想から外れた返事が来た。

俺もその鞠との海の家でバイト兼のデートなんだが、と、だ。

一気に眉を顰める。


「何.....」


(オイ.....本当かそれ)


(ああ。.....取り合えず.....互いに見て見ぬふりをしようぜ)


俺は、だな、と答える。

そして俺はそっと.....スマホを閉じる。

すると向こうの方から穂高が帰って来た。

何処に行っていたのだろうか、突然立ち上がって。


「はい。大博さん」


「.....これは何だ?」


「コーラです。アハハ。喉乾きましたから」


「そうなのか?.....わざわざすまん。払うよ」


ううん。要らないです。

と満面の笑顔で俺を見てくる。

それから俺の横に腰掛けた。

そして俺の手を握る。


「私が買いたかったから買ったんです。だからお金は要らないです」


「だがお前は.....」


「分かります。でも良いですから。ね?」


「.....そうか。分かった。有難うな」


そして俺はコーラを吸い上げる。

カラカラになった喉に泡のパンチが来る。

こんなにコーラって美味しかったんだな、と思える。

すると穂高が何かを取り出した。


「それからこれ.....貝殻ですけど.....凄くないですか?」


「.....?.....そうだな。巻貝だっけかこれ」


「そうですね。綺麗な巻貝です」


これは大博さんにあげます。

で、こっちは.....私の分です。

と二つ取り出す。

俺は、そうか、と微笑む。

それから貝を受け取る。


「お互いのお守りにしましょう」


「.....そうだな。良いかも知れない」


「でもいつかこれが婚約指輪になったら良いですね。これを加工したりして」


「.....ちょっと早くないか?.....でもそうでもないか」


でも確かに早いかもです。

とクスクスと手を口元に当てて笑う穂高。

それから俺に寄り添ってきた。

でも早く貴方と結婚したいぐらいです、と呟く。


「.....だな。それは確かにな」


「.....でもお互いに夢を見つけてからにしましょうね。一歩一歩、落ち着いて、です。経済的にも何もかも」


「そうだな。うん」


そして俺に対してニコッとした穂高。

俺はその姿をにこやかに見ながら目の前を見ていると.....信也さんの姿が見えた。

そして御幸の姿も、だ。

水着ではない為、海水浴ではない様だが.....何か幸せそうに岩に座っている。

穂高が目を丸くした。


「お兄ちゃん.....?」


「御幸も。どうしたんだ?」


俺達には一切、知らされてない。

もしかして御幸達もデートという事か?

俺は目をパチクリしながら見つめる。

そして御幸と信也さんは手を繋ぎ合った。

此処にはパラソルのせいで気付いてない様だ。


「お兄ちゃんも御幸さんも.....幸せそうですね」


「だな。また今度.....どっか行きたいな」


「それは確かにですね。アハハ」


そして見ていると信也さんが岩から落ちた。

海水に、だ。

俺達は慌てて立ち上がるが。


信也さんも御幸も笑顔で笑ってごまかしていた。

俺と穂高はその姿を見つつ。

互いに笑み合った。


「.....お兄ちゃん.....御幸さんを幸せにしてくれますかね?」


「.....俺があの人の弟なら答えはイエスだな。絶対に幸せにしてくれるよ」


「アハハ。ですかね」


「ああ。俺はそう思っている」


でも.....本当に偶然にしては凄いですよね。

この場所に.....お兄ちゃんと御幸さんって、と穂高は目を丸くする様な反応をする。

俺は、まあ確かにな、と返事を返した。

そして見つめる。


「.....御幸さんも私もみんな.....悩みを抱えていますよね」


「.....ああ。そうだな」


「.....みんな幸せになりたいですね」


「確かに」


その為にはどうしたら良いんでしょうね。

と穂高は俺を見てくる。

そんな穂高の問いに顎に手を添える。

そして.....今は分からないな、と答えた。

それから穂高を見る。


「穂高。答えはきっとこの先に有る。だから.....ゆっくり歩んで行こう」


「.....!.....ですかね?」


「俺達に出来る事はそれしか無いと思う。な?」


「.....ですね。大博さん」


それから見ていると。

俺たちの元に誰か来た。

というのも金髪の.....兵六玉っぽいの。

俺は?を浮かべて目を鋭くする。


「.....よお。兄ちゃん。美人さん連れてんな?ええ?.....俺の兄貴分をムショに入れたりしていいご身分だな?ああ?」


不良だな。

3人ぐらい居る。

またこんな奴らか。


その、俺の兄貴分、ってのはきっと.....と思いながら穂高を守る。

すると.....向こうから声がした。

信也さんの声だ。


「何をしているんだ。君達。.....え?あれ。大博じゃないか」


「信也さん。すいません。邪魔する気は無かったんですが」


水滴を落としながらの信也さん。

すると金髪の野郎どもが、アア?、と威嚇しながら信也さんを見た。

そしてビックリした様に見開く。

驚愕の顔付きになる。


「.....信也?.....それってまさか.....鬼の信也!?」


「.....?そういう呼び方は.....超久々に聞いたぞ。何だよお前ら?」


「え?え?」


穂高は何か思い出した様にハッとした。

俺は訳が分からず目をパチクリする。

鬼の信也?


え、何だよそれ?

すると不良達はそのままヒソヒソと話をしてそのまま、ご、ごめんなさい!!!!!、と逃げて行った。

信也さんは、ハァと息を吐いて全くな、と服の水を絞る。

これに対して穂高が真剣な顔で言う。


「お兄ちゃん。まさか」


「.....ああ。俺の高校時代の不良どもだな。俺が番長していた頃の」


「え?」


俺は困惑の声しか出ない。

背後からやって来た御幸も、だ。

俺達の様子に信也さんは苦笑する。

そして.....穂高を見て頷きながら説明してくれた。


「実はな。俺.....一時的だったけど不良の番長だったんだ」


「.....え?マジすか?」


「ああ。本当だ。話す必要も無いかと思って話さなかったし、今はヒョロガリになっちまったみっともない人間だしな」


「それって.....」


御幸の呟きに。

信也さんは苦笑いを浮かべた。

この街じゃ有名な番長だったよ。

少なくともある日、高校に乗り込んできた角材持った奴に負けた時以外は、と。

懐かしく思う様に溜息を吐く。


それでか。

あの時、御幸を.....守れたのは。

仲のお兄さんから守った告白の日の事だ。

結構.....威勢が良かったしな。

この体格からは想像が出来ない。


「信也さんって.....不良だったんですね」


「幻滅した?御幸ちゃん」


「.....いいえ。優しい信也さんですから。全然幻滅しないです」


そうか、なら良いけど。

と信也さんは頬を掻いた。

俺はその姿を見ながら穂高を見る。

何で教えてくれなかったんだ、と、だ。


「教える必要も無いと思いました。それ以外にも話すなって。だからです」


「.....成程な」


でもちょっと待てよ?

これはかなり保険になるんじゃ無いか?

御幸の兄の件で、だ。

思いながら信也さんを見る。

信也さんは頷いた。


「この先、惚れた女も守れないで何が男だ、って感じで守るよ。大博」


「.....信也さん.....」


「.....もう安心だな。俺居なくても」


改めて心から嬉しく思った。

だってそうだ。

御幸の事、ずっと不安だったから。

暗い部屋で考えるぐらいに、だ。

だから安心した。


「さて.....デートの邪魔しちゃ悪いな。行こうか。御幸ちゃん。じゃあ。大博。穂高」


「はい。.....あ。また今度だね。はーくん」


「.....ああ。じゃあな」


そのまま御幸と信也さんは手を繋いで去って行った。

まさか不良の番長だったとはな。

だから何だか.....威勢が良かったんだ。

思いながら穂高を見る。


穂高は?を浮かべて俺を見る。

あんな感じで俺も守りたいな、穂高を。

格好良く、だ。


「大博さん。大博さんはそのままが格好良いですよ」


「.....そ、そうか?.....いやいや、心を読むなよ」


「アハハ」


そして暫くそのまま、またデートしてから。

俺は智明に、先帰るから、とタイプして打ち。

海岸を後にしてから.....お墓へ向かった。

電車に乗って、だ。

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