第63話 私達は共通の痛みを抱えている

仲が良かった姉妹が居る。

いや違うか。

今も仲は良いのだが.....厄介な仲になっているといえる姉妹が居る。


親が教育方針を捻じ曲げずその姉妹は危機に晒され。

そして姉の方が妹の為に逃げた。

そんな姉妹が、だ。

俺は.....そんな姉妹が再び再会して見守っていた。

そしてそれから姉妹の実家に帰って来たのだが。


この事は親が悪いと思う。

だけど親は絶対に教育方針を曲げない様なタイプの人の様だ。

だから智明に説得されたとは言えかなり無理が有ると思う。

そんな.....両親を説得するなんざ、だ。

俺は顎に手を添えて行く末を見守っている。


「今まで何処で何をしていたのですか。まるで浮浪人の様に」


「.....それ言わなくちゃいけないかな?私は私なりに生きていたよ」


「.....」


相反しているな.....やっぱり。

簡単に言えば混ぜ合わせたら危険的な感じで、だ。

洗剤を混ぜた様な感じだな.....。

危険な本当にマズイ様なガスが充満している。

俺と智明達は観察するように見続ける。


「貴方は何処までも愚かですね。昔から変わらない。こんな子達まで巻き込んで。.....大人のやる事じゃ無いです」


「この子達は私を助けたいって来てくれたの。というかそういう言い方は無いんじゃないかな。それに大人のやり方じゃ無いってのはお母さんもだよね。鞠と私を常に比べている人から言われたく無いなぁ。うん。人には個性が有るからね」


「口答えもする様になりましたね。貴方」


「.....うーん。そうかな」


参ったなこりゃ。

バチバチと火花が散る中。

鞠さんが胸に手を添えて母親の方を見た。

そして必死めいて言う。

その言葉を、だ。


「お母さん。私は.....お姉ちゃんをこの場所に連れて帰りたいんです。お姉ちゃん.....は本当に頑張っているから.....!」


「頑張っている?確かにそれは認めましょう。その気持ちは伝わってきます。だけど全てを捨てたのは其方ですから。私達の願いをかき消した。それとこれとは話が別です。今更なんですか」


母親も父親も眉を顰める。

そんな.....、と鞠さんは俯く。

その様子に、うん。交渉決裂だね、とニコッとして立ち上がった羽衣さん。

それから歩き出すのを母親が止める。

待ちなさい、と、だ。


「話はまだ終わってません。座りなさい」


「私にとっては話は終わったからね。じゃあ帰ろう。みんな」


「お姉ちゃん!!!!!」


鞠さんが叫ぶ。

そして帰ろうとするその姿の間に俺が言葉を発して入った。

ちょっと待って下さい、と、だ。

みんなが俺を見てくる。

それから母親に向く。


「はい。.....何でしょう」


「.....俺.....あ、いや。私は波瀬大博っていいます。その.....羽衣さんなんですけど.....彼女は鞠さんを守る為にこの家を飛び出した。だけど今、本当に本当にずっと妹を守る為に必死に生きているんです。上から目線、すいません。.....でもその、彼女を是非ともに認めてやってくれませんか」


「.....それは先程も言いましたが認めています。ですがこの家を勝手に飛び出したのは事実。それは許されざる事です」


「羽衣さんも鞠さんも俺は大切だと思っています。だから.....他人事じゃ無い。それに.....俺は家を飛び出す様な、実家を捨てる痛みを誰よりも知っているんです。戻るのも根性が要ります。羽衣さんは意を決して戻って来たんです」


母親は?を浮かべて俺を見てくる。

そう。

かつて、俺が母親と共に家を飛び出した時の事だ。

馴染みの実家を捨てたのだ。


こっちの状況とは多少は違うかも知れないが、同じ様に何もかもを捨てて飛び出したのは事実だ。

だから.....俺は痛みが分かる。

苦しみが分かる。

だが母親はこの言葉をバッサリ切り捨てた。


「貴方がどういう状況でどういう苦しみを知っているか知りませんがそれは貴方の場合でしょう。場合の私達から全てを捨てて逃げて戻って来た羽衣を許す訳にはいきません。私達は羽衣の為に動いていたのに」


「.....」


駄目か。

思いながら唇を噛んでいると。

穂高が声を発した。


「あの」


今度は穂高が手を挙げた。

それから.....ニコッとする穂高。

俺は穂高を見る。

みんな注目する中で穂高は、えっと、と言葉を発した。


「私、羨ましいなって思います」


この言葉に母親は目を丸くする。

それから直ぐに元の表情に戻ってから。

聞き返した。


「?.....何がですか」


「.....私は.....親が両親ともに亡くなってしまったから.....親がこんなに厳しいのは羨ましいです。こうやって言い合えるのもです。貴方様のお気持ちがどうかは知りません。でも.....どんな形であれ家族の時間は大切にしてほしいです。時間ってのは限られていると思っています。えっと.....まあ簡単に言えば一個人の見解ですが.....羽衣さんも鞠さんも改めて大切にしてくれたら嬉しいなって」


「.....」


こんな女が言うのも何ですが、と苦笑い。

母親は目線だけを穂高に向けている。

それから.....母親が聞いた。

ご両親はどうなされたのですか、と。

穂高は頬を掻きながら.....悲しげに答える。


「癌で亡くなりました」


「.....」


「.....穂高ちゃん.....」


羽衣さんが呟く。

その次に仲が手を挙げた。

それから.....笑みを浮かべる。

そしてちょっとだけ俯きながら話した。


「私の場合は親父との仲が悪いです。でもその限られた中でも家族との時間は大切にしたいなって思ってます。時間は確かに限られていると思います。今は.....お兄ちゃんの所で事情があってお世話になっていますが」


「.....」


母親は顎に手を添える。

その次に御幸が手を上げる。

そして少しだけ控えめに意見を述べた。


私は.....素行不良でお兄ちゃんが捕まりました、と。

だからそうですね.....羨ましいです。私も。

こんな感じでも.....家族がみんな揃ったのは良い事なんじゃ無いかなって思います、と苦笑いを浮かべながら話す。


「正直、羨ましいです。こんなに言い合えるの」


「.....御幸さん.....」


鞠さんが涙を浮かべる。

その中で母親は.....顎に手を添えていた。

父親も.....目線だけずらしている。

俺は.....その中で。

止めと思いながら.....言葉を発した。


「俺達はみんな傷を負ってます。でも.....その中でも共通して思うんです。家族の時間は大切だって事が、です。だから今有る事を大切にしてほしいです。せっかく揃っているんですから」


「.....」


「俺、鞠さんと羽衣さん、あなた方に仲良くなってほしいです」


「.....」


溜息を吐いた母親。

それから立ち上がって何処かへ向かう。

駄目だったか?と思ったが。

鈴木さんを連れて来た。


「もう良いです。分かりました。好きにしなさい。この家に居ようが居まいが」


「.....お母さん!!!!!」


「.....言っておきますが私は認めた訳では有りません。考えがごく僅かに変わっただけです」


「.....」


羽衣さんは目を丸くする。

そして苦笑いを浮かべつつ俺たちを見てきた。

小さくガッツポーズをしている俺達を、だ。

そして羽衣さんは呟く。


「君達は凄いね。絆が」


「.....当たり前の事です」


「.....いや。あの母親を仮にも説得したのは凄いと思う。尊敬に値するよ」


「有難う御座います」


すると今度は父親が立ち上がった。

身構える俺達。

すると.....羽衣さんに向く父親。

そんな父親の顔に少しだけ笑みが浮かんだ。

俺達は驚愕する。


「良い友達を持ったな。羽衣」


「.....お父さん.....」


「.....」


それだけ言って去って行く。

鞠さんは涙を流した。

そして俺の手を握って、有難う、と呟いた。

俺は盛大に溜息を吐きながら、ああ良かった、と思う。


「お前すげぇな。兄弟」


「お前が言わなかったら来なかったよこの場所に」


「流石は俺の見込んだ男だぜ!アッハッハ。やると思ったぜ。お前なら」


「.....」


見込んだ男、ね。

そして俺達は何とか説得する事に成功し。

そのまま俺達はお手伝いさんのお世話になりお菓子を貰った。

それから鞠さんと羽衣さんを残して。

家に帰宅した。

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