第62話 逃げに値する

鞠さんと羽衣さんは簡単に言えば仲が良くないとかじゃない。

ただし、あまり.....何と言うか。

何が言いたいのかと言うと、仲が決して悪い訳では無いが鞠さんは怒っているのだ。

自らを残して去って行った自分の姉に対して、だ。

俺はその様子を見ながら.....顎に手を添える。


「何処で何をしていたの。アメリカにも行かなかった。私は.....悲しかったのに.....!」


「私はね。無理だったんだ。鞠を守る為にはこれしかないって思ったから」


「でも.....私も連れて行ってほしかったよ。何で?何でよ.....」


「.....鞠。大人の事情があったんだよ。無理なものは無理だから。わがままは駄目」


でも私は.....。

と鞠さんが話す。

その間に智明が口を挟む。

まあ一旦落ち着きましょうや、と、だ。

俺はその智明を見る。


「.....俺としては喧嘩しても仕方が無いと思うかなって。俺は姉貴が居ないから分からないけど.....。でも言い争ってもしゃーないってのは分かるかなって」


「.....智明くん.....」


「智明.....」


馬鹿だから何も分からないけどそれだけは分かる。

鞠、羽衣さん。

言い争うのは止めましょう。

とニカッとした智明。

穂高も、そうですよ、と笑顔を見せた。


「俺もそれには同意する。.....鞠さん」


「はい」


「御免な。色々と隠していて」


「お姉ちゃんの意思に沿っているからそれは良いです。でも.....お姉ちゃんが今まで私にずっと内緒だったのは許せません」


そりゃそうだろうな。

俺は顎に手を添えてから思う。

それから.....羽衣さんを見る。

羽衣さんは苦笑していた。


「.....でも大きくなったよね。鞠」


「.....お姉ちゃんは変わって無いけど」


「私は成長期なんて通り過ぎたから。アハハ」


躱しまくる羽衣さん。

上手く話をずらそうとしている。

そして苦笑いを浮かべる、羽衣さん。


その様子に鞠さんは少しだけ目線を逸らしていたが必死めいて言葉を発した。

そのうち帰ってくる?帰るよね?と、だ。

だけどこれに対しては、それは無理だね、と答えた羽衣さん。

そして.....複雑な顔を見せる。


「.....私の居場所はあそこには無いからね。そして均衡が崩れるから」


「.....お姉ちゃん.....でもお母さんとお父さんを説得すれば.....」


「鞠。説得しても親は親だから駄目だと思うよ。変わらないと思う」


特にあの人達はね、と笑みを浮かべた。

その中で、私は.....お姉ちゃんに帰って来てほしい。

と胸に手を添える鞠さん。

俺は.....その姿に少しだけ思い出していた。


何というか俺にも帰って来てほしい人は居る。

爺ちゃんとか婆ちゃんとか。

そういう人達に、だ。

でも鞠さんの場合は帰れる。

目の前に羽衣さんが居るんだから。


「羽衣さん」


「何?」


「.....鞠さんの言う通り、帰ってみたらどうでしょう。一回だけでも。動かないと何も変わらないと思いますから.....」


「.....そう言ってくれるのは有難いかも。でも.....本当に均衡が崩れるからね。今が丁度良い感じなんだ。だからね」


鞠さんの親には会った事は無い。

だけど.....と思いながら見ていると。

智明が声を発した。

そうだな。じゃあ俺達が向かったらどうかな?、と。

何を、無理だろ。


「俺達が説得するんだよ。鞠の両親を」


「アホなのか馬鹿なのか.....お前は。そんなの無理に決まっているだろ。家族間の問題だぞ」


「俺達はガキだから?そんな事無いって。兄弟。.....説得しなければ変わらない事だってある筈だよ」


「.....いや、だから」


すると羽衣さんが智明を見る。

そして.....君は強いね、と苦笑いを浮かべた。

でも無理だと思うよ、とも、だ。

昔から信念を捻じ曲げない人達だったからね、と。


「.....でも私達ならきっとやれますよ」


「.....穂高?」


「そうやって今まで全てを乗り越えたんですよ?大博さん。がむしゃらだったかも知れません。でも.....乗り越えた事は事実ですから」


「.....いや.....でも」


みんなを呼びましょう。

と穂高は意気込む。

だけど迷惑じゃ無いか?それって。

と思いながら目線だけで穂高を見る。


「つーか、何だか随分弱気だな。兄弟。でも.....やれると思うぞ。今回は。律子の件じゃ無いんだから。そしてお前の親父の件でも無い」


「.....仕方が無いな。そこまで言うなら」


「そうですよ。大博さん。きっと大丈夫ですって」


すると鞠さんが頭を下げた。

俺達に対して、だ。

そして満面の笑顔になる。

それから涙を目じりに浮かべた。


「有難う。みんな」


「構わない。全然大丈夫だぞ。鞠」


その様子を見ていた羽衣さんは盛大に溜息を吐く。

それから、やれやれ、と言いながら何回目かも分からない苦笑いを浮かべる。

そして.....呟いた。

小さく、だ。


「あの時、君達が居たら.....良かったのにね」


と、だ。

俺はその言葉を聞きながら.....俯いた。

本当に悔しかったんだろうな、羽衣さんは。

思いつつ俺達は。

結論から言って鞠さんの家に行く事になった。



次の週の水曜日が休日だった為、その日にみんなが集まる。

この場には鞠さん、羽衣さん、滝水、仲、御幸、穂高、俺、智明達が集まった。

俺は鞠さんの家を見上げる。


やはりデカかったか、と思いながら。

なんつうか失礼ながらバイ○ハザード1に出た様な洋館だわこれ。

凄まじいというか。

御幸が驚愕に言葉を発する。


「デカいですね」


「そうだね。うん。デカいと思う。.....自慢じゃ無いけどね」


「んじゃ、早速入るか。ハハハ」


「お前は能天気すぎるだろ。何で笑ってんだ」


そんな事無いぜ兄弟。

俺はその事を聞きながら呼び鈴を鳴らす。

因みにこの事は事前に連絡してある。

俺は真っ直ぐに門の先を見る。


すると.....お手伝いさんの様な感じの人が出て来た。

女性の歳を取った人だ。

白髪交じりで俺達を見つめてくる。


「はい。.....おや!羽衣お嬢様!」


「ご無沙汰してます。鈴木さん」


「これはこれは。お待ちしておりました。ささ、皆様もどうぞ!」


俺達は控えめの顔をする羽衣さんを見ながら。

顔を見合わせつつ家の中に入った。

日本庭園を真似た様な広い庭を通ってから、だ。

そしてやって来た。

それから大きな玄関を開けると。


「.....シャンデリアとか.....初めて見た気がする.....」


「デカいな、やっぱり」


「すげぇなオイ」


穂高と俺と智明が会話しながら。

みんな驚きながら。

その中で鈴木さんは俺達を、ささ此方で御座います、と案内した。

俺達は返事をしながら歩いて行く。


そしてそのまま二階が見える様な広いリビングに入る。

それから.....目の前を見る。

そこに.....誰か居た。

羽衣さんが眉を顰める。


「.....お父さん.....」


「お母さん.....」


10人掛けの机の方。

丁度、古びた大時計の有る側の方。

二人の老夫婦らしき人達が座って居た。

伯爵とまでは行かないかも知れないがそれなりに.....格好の良い人達だ。

男性は白髪交じりの黒髪をオールバックで固め。


そして女性の方は厳しげな目を此方に向け、ボブヘアーの様な髪をしている。

俺は.....その人達を見る。

これまでもだったが今も厳しい戦いになりそうだった。

俺は顎に手を添えそして考える。


「鞠。その子達だな」


「はい。お父さん」


「.....」


「そんな険しい顔しないで。お母さん」


するに決まっているでしょう。

何故、貴方が戻って来たの羽衣、と呟いた女性。

羽衣さんはこれまでで一番真剣な顔をする。

そして言葉を発した。


「別に逃げていたわけじゃ無いけどね」


「.....申し訳無いですが私達から見たら逃げたに値します。貴方は.....何もかもを捨ててしまった」


「.....」


羽衣さんは押し黙る。

何と言うか。

どうしようか、と思いながら。

俺が考え込んだ。

そして.....真っ直ぐに見る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る