第61話 鞠と羽衣と.....智明、大博、穂高と
本当にあっという間だった。
葬儀ってこんなにも早く終わるんだなって思うぐらいに、だ。
穂高の親父さんが亡くなってから全ての行事が端的に進んでいった。
葬儀と火葬してからの骨拾いなどを行ってから俺達は家に帰って来る。
そして家で窓から空を見上げた。
葬儀は順調に本当に進んでいき。
それからも仮にも順調だった。
だが少し後に問題が発生してしまったのだ。
どういう問題かというと。
簡単に言えば家族の問題だ。
火葬場から出て来た時の事だ。
穂高の両親が仮にも二人、亡くなってしまい。
残された兄妹の幸せは本当にこのままで良いのか?、という疎遠になっていた遠い親戚の人達が改めて話し合いをしていたのである。
生活保護などを受けている観点からやはり引き取った方が良いのではないか、と。
今まではずっと控えて何も話さなかったが、いい機会だという事で、だ。
だがここで信也さんが強く言い放った。
俺が1人で守ってみせます、と。
だが生活保護の身だろう君は、とはなった。
無理が有るぞ、とも。
親族はそれなりに威圧を信也さんに掛ける。
それが親族のやり方か、って思ったが。
信也さんは案の定、押し黙ってしまった。
その間に入って良いのかどうか知らないが俺の母親が介入し。
母親の知り合いの専門家とかも介入した。
それから話し合いが行われ。
戸籍に残る等もしっかり話し合われた。
更に家庭裁判所の判断が必要だ、等など。
まあ知っている事だとは思うけど、だ。
でも最終的にこうなった。
「彼女達と彼はよくやっていますから。今は優しく見守る事にしましょう」
という事に、だ。
それもあり取り合えずその引き取り問題は親族の納得で一時的な保留となり。
一応に環境は現状維持となり。
その中で俺は心から安心すると同時に.....穂高を守る気持ちが更に強くなった。
これからは俺もサポートしてやる、と思いつつ、だ。
俺は意を決した。
そんなこんなが有り、季節は廻り。
5月、6月が過ぎてそのまま時期は7月になった。
制服も半そでになったある日の事、だ。
もう直ぐ期末考査が有る試験勉強をしている日の事である。
☆
「やっぱりお前の家がガチのマジで涼しくて快適だよな。流石だ」
「やっぱりって何だ。いい加減にしろよお前いきなり来やがって。ここはお前の休憩所ではないんだぞ。まるでドラク○の街の宿みたいに使いやがってよ。使うなら金払えよ?」
「すいません大博さん」
「御免なさい」
いや、鞠さんと穂高は良いんだが。
そもそもこの言葉は鞠さんと穂高に向けたものではない。
心優しい2人なら大丈夫だ。
それに智明のアホみたく思って無いしな。
だが智明の馬鹿はここを何と勘違いしている。
いや.....あのな.....。
制服がワイシャツの様になった暑い日の事。
智明と俺、鞠さんと穂高とその4人が俺の家に集まっていた。
智明がみんな忙しいので誘ってもこの人数になったらしいが。
というかみんな誘う気だったのかこの野郎。
その中で智明が欠伸をする。
俺はジト目で智明を見る。
「しかしなぁ。期末考査とか相当に面倒にも程が有るんだが」
「.....まあそんな面倒な事を乗り越えていくのが男ってもんだしな」
「いや。それが男なら俺は余裕で捨てるぜ。嫌だ」
「何を言ってんだ。割とマジに男を捨てるんなら悲しむだろうし最後にキャシーさんとか満さんのお世話になったらどうだ?また風呂入るとか」
え?と一言。
それから一気に青ざめる智明。
いや、それだったら男で良いや。
あ、いや良くねぇか?
性別不明で良いや、両生類とか。
と、しどろもどろする智明。
ハハハ、ザマァないな。
俺は眉をひそめながら智明を見る。
そうしていると結論から言って智明は、まあやるしかないよな、と納得しながらノートに向いた。
大欠伸をしながら、だ。
俺は溜息を吐く。
それから、面倒だな、とやり始めた智明。
俺はその様子に、じゃあ飲み物を持って来るわ、と立ち上がる。
穂高も、私も手伝います、と立ち上がった。
俺は穂高を見る。
「ああ、有難うな。穂高」
「いえいえ。大丈夫ですよ。大博さん」
「それじゃ手伝ってくれ。運ぶの」
「分かりました」
そして俺達はゆっくりジュースを淹れる。
その際に.....穂高に向いた。
穂高はニコッとする。
そして、どうしたんですか?、と可愛らしく聞いてきた。
俺は少しだけ神妙な顔になる。
そしてコップを置きながら聞いた。
「.....その、お前は大丈夫か?」
「.....えっと.....お父さんの件ですか?」
「ああ。亡くなってから2か月ぐらい経つけど.....」
俺は.....静かに穂高を見つめる。
穂高は俺に控えめに微笑みを浮かべた。
それから窓から外を見る。
真っ直ぐな瞳で、だ。
何かを決意した様に見える。
「正直言ってまだ全然寂しいです。でも.....お父さんもお母さんもみんな空から見守ってくれていると考えたら.....寂しさが少し和らいだんです。.....またお墓に行こうかなって」
「.....ハハ.....強いな。お前は」
「強くないです。私は.....全く強くないですよ」
穂高は涙を浮かべながら苦笑いを浮かべる。
俺は静かに見つめた。
だが穂高は直ぐにハッとして涙を拭う。
そして、じゃあ運びましょう、と穂高は柔和になって口角を上げる。
その言葉に見開きながらも、そうだな、と返事をした。
それからゆっくり運んでいく。
すると鞠さんが俺達を見てきた。
「あれ?何を話していたんですか?」
「穂高の親父さんの話だよ。御免な」
「.....ああ。おやっさんの話か。懐かしいな」
「そうです」
しかし.....穂高の親父さんが亡くなってからもう2か月も経つんだな。
と智明は少しだけ複雑な顔をした。
両親を失った事が無いから良く分からないけどこんな感じで両親を失うとか相当なもんだよな、と智明は俺達を見てくる。
穂高は、そうですね、と悲しげに答えた。
それから胸に手を添える。
「でもだから今ある時間を大切に使うべきだと思うんです。私。時間って永遠じゃ無いんだなって改めて思ったんです」
「.....時間を有意義に?.....穂高ちゃんは強いな」
「だって.....お別れは本当に突然の可能性も有りますから。私みたいにお父さんとのお別れが、です。だから.....」
「.....お前が言うと本当に大きいな。穂高」
えっと.....そうですかね、と苦笑する穂高。
そして俯く。
そんな穂高を見ながら俺は、そうだな。穂高みたいに両親を失った訳では無い、と智明みたく考えてみる。
それから.....、と考えていると。
いきなり、インターフォンが鳴った。
俺は見開く。
「?.....誰だろう」
と思い、インターフォンの画面を見ると。
そこには.....羽衣さんが立って居た。
俺はビックリしながらつい、鞠さんを見てしまう。
鞠さんは?を浮かべた。
それから智明が俺を見てくる。
「どうしたんだ?兄弟」
「.....いや.....」
思いながら俺は外にタジタジしながらも出る。
それから目の前の羽衣さんに挨拶した。
羽衣さんはニコニコしながら立って居る。
そして蓋の閉まっている鍋を見せてきてそれから微笑んだ。
俺は?を浮かべる。
「また作り過ぎちゃって。.....食べてくれないかな」
「あ.....有難う御座います」
そんな感じで、早くしないと、と思いながら会話していると。
背後から、お姉ちゃん.....、と声がした。
鞠さんの声だ。
しまった、と思いつつ俺は見開く。
直ぐに鞠さんを見る。
羽衣さんは目を丸くしながら呟いた。
何で、と言いながら、だ。
「.....どうして.....鞠が?」
「それはこっちの台詞なんだけど。通夜もそうだけど.....この近所に住んでいるって何で言わなかったの?信じられない」
「.....それは.....えっとね.....」
私、ずっとお姉ちゃんの事、気に掛けていたのに。
と鞠さんは拳を握りしめた。
そして羽衣さんを見る。
羽衣さんは少し悩んでいた。
そしてはにかむ様に顔を上げる。
「.....鞠。その.....言えなかったんだよ。御免ね」
「.....だからってお姉ちゃん.....こんなの無いよ。探していたのに」
そんな険しい感じの中。
穂高が、ま。まあ中に入りましょう一旦。と声を発した。
それから.....羽衣さんと鞠さんの間に手で押さえながら入る。
取り繕った感じだがそれでも笑顔で、だ。
「取り合えず中に入って話しませんか。お茶しましょう」
「.....しかし.....」
鞠さんが歯を食いしばりながら目線をずらす。
俺は、やはり無理か、と思いながら目線だけで鞠さんを見る。
だがその中で羽衣さんが顔を上げた。
そして笑顔を見せる。
「.....うん。一旦.....落ち着こうか。みんな」
そのまま鞠さんと共に俺達は室内に入る。
そしてソファに腰掛ける羽衣さん。
俺はそんな羽衣さんと鞠さんを見る。
でもその、パチパチした空気だな。
「私は.....ずっとずっと.....探していたのに。お姉ちゃんを」
「.....鞠.....」
「.....」
空気がピリピリだ。
智明も俺も穂高も悩む。
俺は顎に手を添える。
さて.....これはどうすっかな.....。
まさかこの様に再会するとは思わなかったから、だ。
これはどうしたものか.....。
解決法が見つからない気がする。
考えないといけない。
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