5、これから先の未来

第60話 穂高と大博、試練の時

その日。

俺達はケーキを買って本当に幸せな気持ちであった。

だけど、穂高が受け取った総合病院の電話で一気に青ざめる事になる。

何があったか。


それは.....とても悲しい出来事だった。

俺は.....ショックを受けるしかなく。

穂高も.....試練の時を迎えた。


先ず、この世界は俺は簡単に言えば.....救いようが無いと思っていた。

だけど周りの奴らに.....そうだな。

穂高に心から支えられて足を引き摺りながら這い上がってきて。

でもそれでも昔みたいに俺は自死で死のうと思わなかった。

それは周りのサポートが有ったからだろう。


その中で。

俺もそうだが周りが本当に度重なる出来事を経験してきた。

だけど今、これまでよりも1番の正念場を迎えていた。


穂高の親父さんがケーキを買った日、いきなり病状が悪化したという。

呼吸器を付けるぐらいに、だ。

まるでみんなが集まれるその日を選んだかの様に、である。

俺達はケーキを置いたまま直ぐに駆け出した。


「.....」


それは本当にいきなりの話だった。

他愛無い話をしていてケーキを買っていって、それから.....甘ちゃんと蜜ちゃんと食べている最中。

突然病院から危篤状態の緊急の連絡があったのだ。


それから俺達は猛ダッシュと普段使わないタクシーで総合病院にやって来た。

穂高と甘ちゃん蜜ちゃんだけにしようと思い、俺は部屋を出てから。

ただひたすらに俯く。


目の前に置かれている椅子に腰掛けていた。

瞬きも忘れる様に.....俺は奇跡を祈る。

元気だと聞いたのにそれなのにいきなりこんな事って無いと思う。


本当にいきなりだった。

なんでこうなってしまうのだ.....。

俺なのか?原因は.....?、と思っていると。

俺を呼ぶ声がした。


「大博!」


「.....あ.....信也さん」


「すまない、穂高は?!」


「.....病室です。行ってやって下さい」


死神なのかもな。俺、と考えて言いながら。

空な眼差しで信也さんを見る。

そんな信也さんは、有難う、と俺に頭を思いっきり下げてから病室に入る。

病室内からは、お父さん、お父さん!、と呼ぶ声がした。

俺は何も出来ずに.....俯いたまま手を交差する。


「頼むぜマジで.....神様。俺は.....お前を居ないと思っていた。.....だけど今は居るって信じてるよ。みんなに触れ合って、だ。だから.....奇跡の一個ぐらい起こしてくれよ」


マジに何なんだ。

なんで神は何時もこんな真似をする。

穂高から俺から何もかもを奪っていくんだ?


勘弁してくれよ。

思いつつ俺は頭をガシガシ掻いた。

こんなだから嫌いなんだよ神様ってやつが。


「.....」


憔悴しきった目で目の前を見る。

病室に慌ただしく看護師やら医者やらが行ったり来たりしている。

恐らくはマジに.....危篤状態だ。

俺は唇を静かに噛む。

そして再び俯いた。


「.....役に立たない俺に奇跡の一個ぐらい.....起こしても良いんじゃないだろうか」


必死に祈る。

悪魔でも何でもいい。

哲郎さんを助けてくれるなら、だ。

しかしこんなに祈ったのは受験以来か。


そして.....親父から初めて逃れた時以来か。

思いながら病室のドアを見ていると。

穂高が出て来た。


「大博さん。お父さんが呼んでます.....貴方を」


「.....何だって?」


その場に居られないという感じで俺は立ち上がる。

それからドタドタと音でもなりそうな感じで病室に入る。

そこには.....か細い腕とやせ細った顔で俺をニコッとして見てきている.....穂高の親父さんの哲郎さんが居た。

俺は直ぐに駆け寄る。

そしてジッと見た。


「やあ。来てくれたんだね」


「はい。俺は穂高の為なら何でもしますから」


「.....そうか。.....えっとね。君に最後に伝えたい事が有るんだ」


「.....!.....なんでしょう」


君はやっぱり初めに出会った頃と同じだな。

その勇気ある瞳。

そんな君に最後のお願いをしたいんだが、と哲郎さんは俺の手を握ってくる。


甘ちゃんと蜜ちゃんが号泣しながら縋っている。

その姿を見ながら、だ。

俺はその手を赤子を撫でる様に優しく握り返す。

そして腰を曲げた。


「.....穂高を.....最後まで守ってやってくれ。君にしか出来ないと思う。この事は」


「.....当たり前の事です。俺、本当に穂高やみんなに出会って本当に良かったです。.....哲郎さん」


「.....ハハハ。君は俺が思った通りの人間だな。本当に心優しい青年だ。穂高は幸せ者だなあ.....私は最後にの穂高の孫が見たかった」


「.....そんな死ぬ様な事を言わないで下さいよ。死なないですって」


ハハハ。

御免な、大博くん。

でもな、私は自分でも分かる。

本当に持たない。

でもこれは死ぬって事じゃ無いんだ。


輪廻転生って知っているかい?

用語であるんだけど.....と哲郎さんは涙を浮かべる。

俺も堪らず涙が一筋流れた。

知っています、と頷きながら答える。


「.....そうか。生まれ変わりだよ。私は.....穂高の孫として生まれ変わるんだ。だから.....それまではお別れだな。.....な。みんな」


「親父!!!!!」


「お父さん.....!」


みんな涙を流す。

俺も歯を食いしばりながら涙を流す。

こんなに.....涙が出たのは母さんが親父に殴られた時以来だ。

俺は普段は絶対に泣かないのにな。

なのに.....。


ガラッ


「兄弟!みんなを呼んできた!!!!!」


「.....智明.....」


そしてゾロゾロとみんなが入って来る。

息を切らした智明と共に、だ。

鞠さん、御幸、仲、智明、滝水などなど。


仲とか滝水は仕事を切り上げてきた様な制服姿だった。

俺は涙を拭ながら智明を見つめる。

有難うな、と呟きながら。

智明は真剣な顔で俺を見てくる。


「死ぬかも知れないと言われたら.....やっぱり連れて来たくなってな」


「ああ.....有難うな」


この人達は?と哲郎さんは呟く。

穂高が号泣しながら.....鼻をすすりながら答える。

私の.....友人に先輩達だよ、と、だ。


すると哲郎さんは見開きながら柔和な顔になって答える。

そうか、穂高にはこんなに花が咲く様に.....色んな人が居るんだな、と。

本当に心から安心した、と。


「.....私は.....思う幸せだったと思う。でも残されるみんなが不安だった。だけど穂高。安心したよ。こんなにもお前を支えてくれる人たちが居るんだな」


「お父さん.....」


それから空を仰ぐ様に天井を見る哲郎さん。

そして.....涙を流した。

悲しいなぁ、と呟きながら、だ。

天寿を全うして生きたかった、と。

これはマジにマズイ気がする。


「パパ!そんな事言わないで!」


「お父さん!」


「.....御免な。甘、蜜。保高。そして.....信也。でも私は幸せだった。最後にみんな見れて.....幸せ.....だ」


そしてニコッとして涙を一筋流して。

ゆっくり目を閉じた哲郎さん。

その手に一切の力が無くなった。


俺はゆっくり涙を流しながら手を戻す。

え.....ちょっと待て。

亡くなってしまった.....のか.....?


側で見守っていた医者が直ぐに手を取る。

そしてピーと音を立てて0になっている人工呼吸器を見ながら首を振った。

悲しげな顔で、だ。


「.....14時12分.....ご臨終です」


「「「「「お父さん!!!!!」」」」」


ただ.....俺は立ち尽くす。

ショックであった。

そして神様なんて居ない。

改めて思ってしまった。


奇跡の1つも起こさないから、だ。

俺は.....涙を流しながら顔を覆う。

みんなも号泣していた。


「.....こんな事って有るんだな.....ついさっきまで元気って聞いたのに.....」


「.....そうだな。智明.....」


「こんな悪化するなんて神なんて居ないよな.....ガチで。割とマジに恨んでる」


「.....ああ.....だな」


この後、穂高の遠い親戚がやって来た。

それから.....その人が喪主を務め。

葬儀が始まろうとしていた。

当然だが俺もみんなも参加する事になり。

総勢で30名近く集まり。


華やかな.....葬儀になりそうであった。

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