第59話 付き合い始めた記念日

人は救いようがない奴らばかりだと思っていた事が良くある。

だけどその中でも俺は.....母さんによく助けられた。

だから今の俺が居る。


そんな事をふと思い出しながらテレビゲームで遊ぶ。

疲れたので後ろのテーブル席に腰掛けていた。

俺は顎に手を添える。


何でそう思ったかというと.....母さんに抱き締められたからだろうな。

きっとそうだと思う。

そうしていると智明が、だー。疲れた、とか言いながら俺の顔を伺ってきた。

そして柔和な感じを見せる。


「兄弟。大丈夫か」


「.....見て分かる通りだ。何とも言えない」


「そうか。死んでないから大丈ブイだな」


「あのな.....お前は高低差が激しすぎる」


うんうん。成程、高低差ね。

確かに俺はアルプス山脈の様に.....高低差が有るぜ?

でもそれは悪い事じゃ無いぜ!と満面な顔でニカッとする智明。

ハハハ.....相変わらずのアホ面で良かった。

苦笑いで思いつつ俺は智明を見る。


目の前ではキャシーさんと満さんが、何よアンタ!、と言いながら喧嘩していた。

喧嘩するほど仲が良い、かな。

因みにこれは何の喧嘩かといえばゲームの勝者の件で、だ。

俺は智明と共に苦笑いを浮かべつつ見る。

本当に何時までも決まらなさそうだ。


そうしているとドアがゆっくり開いた。

それからヒョコッと女の子が顔を見せる。

俺は見開いた。


「今日は」


「.....あらま。穂高ちゃんじゃ無いの。どうしたのかしら?」


「本当ね」


満さんとキャシーさんは顔を見合わせる。

俺は?を浮かべながら穂高を見る。

穂高はニコッとしながら立って居る。


清楚な自分で作ったと思われる服を着ており俺達に手を振った。

たまたま通り掛かったら大博さんと智明さんを見掛けたので、と話す。

俺は穂高の元へ向かう。


「何処か買い物か」


「はい。この通り特売の食べ物を狙ってきました」


「ああ.....成程な。でも重くないか?」


「私のお仕事ですから。全然大丈夫です」


穂高はニコッと笑顔を見せる。

俺は少しだけ赤くなりながら、そうか、と返事をする。

するとキャシーさんがリモコンを持ってやって来た。

満さんも、だ。


「貴方も遊ぶかしら?」


「.....あ、私.....ちょっと忙しいので声掛けだけ」


「.....キャシーさん。俺、穂高の荷物を届けてきます」


この言葉に対してキャシーさんが、あらそう?、と目を丸くする。

そうしていると智明が

ちょっと待て!!!!!

そうなると俺は残るのか!!!!?と絶叫した。

俺は、だったらお前も脱出したら良いじゃねーか、と声を掛けたが。

満さんが行かせまいとガードした。


「智明ちゃんは残って私達の相手をしなさい。暇でしょう」


「いや、その。キャシーさん。それは無いっすよ.....」


「智明クンは残るのよ。私達が暇人になるじゃない」


「きょ、兄弟!!!!!助けてくれぇ!!!!!」


いやその、助けてやりたい気持ちは有る。

だけど.....その。

かなり身長差が20センチも違うし無理だと思うんだ。

俺はガチムチの男に飲み込まれていく智明を見送ってから顔を引き攣らせている穂高と共に外に出る。


智明、ご愁傷さまだ。

後で助けてやるから、と思いつつ、だ。

穂高が店内を振り返って見てから慌てる。


「た、助けてあげなくて良いんですかね!?」


「無理だ。あの人達に逆らえない。あんなガチムチには勝てない」


「.....そ、そうですか。でもちょっと可哀想.....」


「大丈夫だ。アイツなら乗り越えられるだろう」


然しそれを置いても諸行無常だな。

どっかの斬鉄剣でも使っている人が言いそうだけど。

と思いながら俺は店内に手を合わせた。

それから、じゃあ行くか、と穂高に笑みを浮かべる。


「智明さん.....生きて帰って来てほしいですね」


「そうだな。大丈夫だ」


それから歩き出す。

そうしていると穂高が俺に向いてはにかんだ。

こうして歩くのも久々ですね、と、だ。

俺は頷く。


「そうだな。久々だな」


「何だかとっても嬉しいです。大博さんと一緒って」


「.....俺もお前と一緒で嬉しいよ」


「.....ですね」


そういえば忘れていましたけど今日で.....付き合ってから1か月ですね。

と穂高はニコニコする。

俺は、それもそうだな、とゆっくり笑みを浮かべる。

今日は5月20日だ。

確かに付き合ってから1か月になる。


「何かお祝いしたいです」


「それはそうだが.....お金は掛けられないぞ。お前の身もある」


「でも今日ぐらいは.....」


「そうだな。確かに」


俺は辺りを見渡す。

それで.....ケーキ屋を見つけた。

その中に.....ん?

あれは.....仲じゃないか?


「仲が居る.....」


「え?何処ですか?」


「いや、ケーキ屋の中だな」


「え!?」


俺達は直ぐにケーキ屋に向かう。

そして店内に入ると仲が挨拶をしてきた。

それから俺達を見て目を丸くする。

どうしたんだい?と、だ。


「お前こそどうしたんだ。働くなんて」


「それは酷い言い方だね。まるで私がスネップの様な」


「いや、そう思っていたから」


俺達は店内を見渡しながら仲に話す。

仲は溜息交じりで俺達を見つめてくる。

そうだね、と顎に手を添えた。


「.....簡単に言ってしまうとね。お兄ちゃんを見ていて社会見習いをしたいと思ったんだ。だから働き始めたんだ。今日から短期間だけどね」


「.....お前.....」


「仲さん.....凄い」


仲は笑みを浮かべる。

随分と変わったよ、私は君を見ていて。

だって君が私を助けてくれた。

君のお陰でこうして外に出るのも苦痛じゃなくなったんだ。

俺は見開きながら、そうか、と笑みを浮かべる。


「.....君は本当に神様のような存在だ。だから.....君には幸せになってほしいものだ」


「.....お前を好きだったしな」


「そうだ」


互いに見つめ合い。

そしてクスクス笑った。

その様子を穂高が優しく見つめてくる。

すると仲は、ところでケーキ屋に来たという事は何か買ってくれるのかな?、と仲はニヤニヤする。

俺と穂高は、あ。それもそうだな、と返事した。


「じゃあホールケーキくれ」


「え!?大博さん!?」


穂高が目を丸くして俺に慌てて声を掛けてくる。

俺はそんな穂高に笑みを浮かべて仲を見た。

パティシエ仲はニコッとする。


「ホールケーキ?それは.....20センチフルーツのかい?」


「そうだな。それくれ」


「大博さん.....お金.....払います」


「穂高。俺からの感謝の気持ちなんだ。金は要らない。それに.....みんなで食べたいしな」


仲はその様子を見てから笑顔になりつつ。

ショーケースに入っているホールケーキを出した。

2500円か。

ちょっと痛い出費だが.....祝いだしな。

甘ちゃんと蜜ちゃんにも。

勿論、穂高にも食べさせたい。


「大博さん。あまり無理はしないで下さいね」


「勿論。これは無理じゃないさ」


そんな会話をしていると。

仲が、そうだ。店長と掛け合ってみるねぇ、と遠くに行ってしまった。

店長と掛け合う?と思っていると。

戻って来た。


「1800円で大丈夫だって」


「は!?お前.....!?」


「あはは。大博。君には何時も世話になっているからね」


「仲さん.....」


俺は目をパチクリしていた。

全くな.....、と思いつつ。

俺は苦笑いを浮かべながら仲に頭を下げた。

有難うな、と言いながら、だ。


「構わないよ。アハハ」


「仲。この借りは今度返すからな」


「.....そんな事。気にしなくて良いんだよ。大博。君には本当に借りばかりだから。私こそ.....有難うね」


「仲さん。本当に感謝です」


全然大丈夫。

アハハ、とニコニコする仲。

俺は.....その姿にもう一度頭を下げた。

本当に感謝しか無い。


「.....その代わり大博。大きな約束だ」


「?」


「穂高を絶対に泣かせちゃ駄目だよ。絶対に」


「.....当たり前だろお前」


そんな分かり切った事。

俺は苦笑しながら仲を見る。

仲は、宜しい、と言いながら微笑む。

それから仲と拳をぶつけ合う。

その様子を仲はジッと見てくれていた。



仲とは随分となる。

本当に.....昔から助けられているのだ。

俺はその事を思いながら.....紙のパッケージに入ったケーキを見た。

これで穂高もそうだが甘ちゃんと蜜ちゃんが喜ぶだろう。


「仲さん.....頑張っていますね」


「.....アイツの家も相当に大変なのにな」


「.....ですね。えっと、お父様といい.....です。私のお父さんみたいなら良いのにです」


「ああ.....それはそうと元気そうだってな。親父さん」


はい。

一応.....容体は安定していますよ。

と笑顔で俺を見てくる穂高。

俺は.....少しだけ眉を顰める。


「.....でも日々衰弱しています。気を付けないといけないかもです」


「.....長生きする事を祈ってる。俺も」


「そういうさりげない優しさが大博さんらしいですね」


「当たり前だろお前。大切な彼女の親だぞ」


ですね、と柔和な感じを見せる穂高。

俺はその様子を見つつ空を見る。

正直言って.....この先がどうなっていくのかまだ.....不透明だな。


だけど俺達なら乗り越えられるかも知れない。

もうこれ以上.....いや。

そうはいかないだろうけど何も起こってほしくないな。

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