第58話 智明、捕縛される

比べるという事を俺は好まない。

何も生み出さないのだ。

だから嫌いだ。

俺は思いながら画面を見る。

一応、羽衣さんとアドレスを交換したのだ。


(今日は有難う御座いました。色々とお話をお聞かせ下さり、感謝致します)


(うん。大丈夫です。こちらこそ.....色々とお話をお聞かせ下さり、感謝しかないです。楽しかったですよ)


「.....」


俺の話を聞かせたのだ。

何というか俺だけが話を聞くのも如何なものかって思ったから。

だから話を聞いてもらった。


ただ俺の.....過去の話を、だ。

そうしたら心配して俺を羽衣さんは見てくれた。

優しい人だな、って思う。


なのにそんな1番やら2番やら。

基準を付ける意味が分からないんだが.....何を考えているのだ?

鞠さんの親御さんは。


「.....順番って何なんだろうな。優先って何なんだろうな.....」


考えても俺はそんなに理解出来る人じゃ無い。

半分も分からないといえる。

鞠さんの苦しみも羽衣さんの苦しみを、だ。


いやもしかしたら半分も理解していないかも知れない。

そして3分の1でも理解出来ない気がする。

俺は一体どうすれば良いのだろうか。


「.....理解も殆ど及ばない俺の頭はどうしたら良いのだろうか」


コンコン


「.....ん?」


母さんからのノックが有った。

何かあったのだろうか、と思いながら、どうしたの母さん、と声を掛ける。

そうしているとドアが開いた。

静かに風呂上がりの母さんが入って来てから俺に笑みを浮かべる。

今日は忙しかったわね、と声を掛けてきた。


「大丈夫?」


「.....うん。まあ大丈夫だよ。.....ただちょっと悩んでいるだけ」


「悩んでいるって何を?」


「.....友達の事だね」


そして少しだけ俯く。

すると母さんがやって来て俺を背後から抱き締めた。

それから俺にゆっくり笑みを浮かべる。

俺は?を浮かべて見る。


「悩み過ぎたら駄目だからね。貴方は悩み過ぎる点が有るから。それに危ない目にも遭っているでしょ。危ない目は二度と御免だからね」


「.....そうだね。母さん。御免なさい。もう二度と危ない目には遭わないって誓うよ」


「悩み過ぎるのも良くないから気を付ける事。貴方は優しいから私は本当に困っているからね。友達だけの件なら解決してあげても良いかもだけど.....深くは足を突っ込まない事。良いわね。じゃないと貴方を失うかもしれないから怖いわ」


「.....だね」


母さんは俺が宝物と思っている。

それはそうだろうな。

宝物以外に思う親は先ず居ない。

これ以上は突っ込まないべきである。

友達だけなら、か。


被害に遭わない様に解決したいもんだ。

そして.....もう二度と危険な目に遭ってはならない。

このまま見守るのがベストだろう。

俺はあくまで未成年なのだ。

だからこれ以上、大人の都合に巻き込まれる訳にはいかない。


俺は前に有る母親の手に手を添えた。

それから俺は母親を見る。

にこやかに、だ。


「大丈夫。母さん。危ない目にはもう遭わないから」


「約束よ。貴方を失ったら私は悲しいから」


「死ぬって事だよね」


「そうよ。分かる?」


分かる、と俺は頷きながら返事をする。

そして俺はジッと母さんを見た。

鞠さんと羽衣さん、か。

こんな親だったら良かったのにな。

二人の母親と父親が、だ。


「母さん。例えばの話なんだけど」


「何?」


「.....子供同士を比べる親ってどう思う?最悪だよね」


「.....たとえ話にしてはかなり大きいわね。.....でもそうね。子供を比べるのは最低だと思うわ。.....でもこの世はそうはいかないわ。色々な成長をした親が居るものよ」


でもね、それでいても子供の優劣を決めるのは親じゃ無いと思うわ。

この世には発達障害を持った子も居る。

そして得意不得意を持った子も居るから.....決めるのは駄目ね。

勉強が出来るのが全てじゃないから。

と母さんは俺を撫でてくる。


「貴方みたいな子も居るしね。あはは」


「.....母さん.....」


「私、貴方がもし学校に行かなくても促さないわよ。だって.....貴方は貴方だから」


「.....母さんには勝てないな」


当たり前でしょ。

私は貴方より20年近く先に生きていっているのよ。

親に勝てる訳ないわ。

それは自然の法則ね、と母さんは笑顔を見せる。

俺はその姿を見ながら、だね、と返事をした。


「.....母さんみたいな人ばかりだったら良いのにな。この世界が」


「確かにね。私みたいな人ばかりだったら色々と成り立ったかもね」


でもそうもいかない事も有るわ。

と少しだけ悲しげな顔をする母さん。

確かにな。

俺は.....現に親父に遭遇しているから。

だから悪親も居ると思っている。


「だから大博も気を付けるのよ。絶対に」


「.....そうだね。母さん」


「悪は.....消しようがないわ。本気で気を付ける事。あまり関わり過ぎると痛い目を見るから」


「分かった。有難う母さん」


俺は母さんに笑みを浮かべる。

それから暫く母さんと話していたが。

俺は何だか心が安定した。

本当に母さんは安定剤だな、と思う。


暫くは様子見だ。

というか家族間の問題だから。

足を踏み越めないしな。



お隣さんは今日もはつらつと仕事に向かっていた。

俺はそれを見届けながら外に出る。

日曜日で休みなのに仕事なんだな、と思いながら、だ。

そして俺は、ひだまり、にやって来た。


「あら?大博ちゃん」


「キャシーさん。おはようです」


「おはよう。どうしたのかしら?」


「いえ。何でも。来たくなったんで来ました」


そう。

私の家みたいな場所だけどこの場が落ち着くならゆっくりしていってね。

とバチンと凛々しい長いまつ毛でウインクするキャシーさん。

俺は苦笑しながら店内を見渡す。

今日は客が居ない。


「どうしたんですか?客が居ないですが.....」


「あら、言わなかったかしら。今日はみっちゃんが来るのよ。オホホホホ。今日は1日貸し切りよ」


「え!?それは失礼しました!俺、出ましょうか!?」


「あら?そんな事無いわ。騒がしいのは良い事よ?むしろ大博ちゃんには智明ちゃんを呼んでちょうだい。みっちゃんが会いたがっているわ」


えっと.....。

と、智明をこの場に呼ぶって.....。

駄目だろ。

多分、絶対に来ない気がするんだが。

智明は満さんがほぼ苦手みたいだしな。


俺は苦笑いする。

そうしているとドアが勢いよく開いた。

俺は驚愕する。

誰かが入って来る。


「オホホ。智明を捕まえたわ」


「あら。みっちゃん。.....智明ちゃんを捕まえたのかしら?」


「ええ。偶然通り掛ったからね。捕縛よ」


電話で仮にも呼ぼうと思った智明があっという間に捕まっている。

それも誘拐された様な感じで口が布で縛ってあり。

足と手に紐が.....。

智明は涙目で俺にトドが暴れる様に暴れて訴え掛けていた。


そんな満さんが俺を見てきて、あら大博クンじゃない、と歯並びの良い歯を輝かせて見せて花咲く笑顔を見せる。

俺は顔を痙攣らせて唖然とした。


「み、満さん。さ、流石にそれは.....」


「むぐううう!!!!!」


「私の愛しのマイダーリンが逃げようとしたから捕まえたのよ。オホホホホ」


捕まえたのかよ。

そして捕まったのかよ。

それは災難だな智明。

俺にはどうしようもねぇよ。


思いつつ智明を見ているとゆっくりと卵を扱う様に降ろした満さん。

そして凄まじい速さで縄を解いた。

智明は水から上がって来たかの様に息をする。


「ちょ!マジに何するんですか!」


「良いじゃないの。オホホホホ。私と良い事をしましょう?智明」


「.....え?.....えっといえ。.....それはお断りです.....」


「あら。貴方に参加拒否の権利は無いわ。私達の暇潰しゲームに今直ぐに参加しなさい」


号泣する智明。

俺は本屋に行くつもりだったんだ!俺は何もしていない!罪深くない!と涙を流しながら俺に訴えかけてくる。


いや、訴える人がちげぇよ智明。

俺に言われてもな.....。

苦笑しながら俺は智明を見る。

満さんが目を光らせる。


「この間、買った任天○のスイッチで勝負よ.....智明.....ウフフ」


「話を聞いてくれ!俺は嫌だ!絶対に嫌だ!!!!!何されるかも分からん!!!!!」


「いや、諦めろ。無理だ。この人達から逃げるのは。身長が20センチ近く違うんだぞ.....。そしてマジなガチムチだからな」


「ち、チクショー!」


智明は咆哮を上げる。

そしてキャシーさんと。

満さん、智明、俺。


その四人で死?のゲームが始まった。

暇潰しには丁度良いかも知れない、と思った俺はいかんな。

恐ろしい.....。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る