第57話 1番と2番

俺の家の隣に井上羽衣という名の鞠さんのお姉さんが引っ越して来た。

だけど申し訳無いんだが何か違和感が有る。

外国には一緒に行ったのだろうか、とかそういう感じもそうだが、だ。

それとか智明と鞠さんは一切、この事を話さなかった。


何がどうなっているのだろうか。

思いながら考えていたが。

うむ。


「.....まあお隣さんになった以上はそれなりに関わりが有るよな」


それで真相でも明らかになって行くのでは?と思う。

思いながら俺は椅子の背もたれに背を倒す。

さて.....と勉強でもすっか。

5月は特には何も無いけど.....高校生も半分過ぎた。

勉強をしないといけないし将来を考えないといけない気がする。


「とは言っても俺の将来か.....」


先ず穂高は幸せにしたい。

御幸達も、だ。

勿論、智明も、であるが。

そんな事は今は良い。

大学とか考えないといけないな。


「.....おっと。母さんが帰って来るかもな」


そうしているとメッセージが飛んできた。

俺はスマホを取り出して画面を見る。

そこには穂高と書かれていた。

俺は柔和になりながらスマホを開く。


(大博さん。デートしませんか)


(ああ。いいぞ。ちょうど良かった。お前に話が有るから.....デートのついでに)


(え?お話ですか?)


(ああ。甘ちゃんと蜜ちゃんに関して)


その様な文面を送ると。

もしかして、いじめのお話ですか?、と送って来る。

俺はその文章に見開いた。

やはり察されていたのか.....。

俺は申し訳ないと思いつつメッセージを送る。


(甘と蜜の事に関して.....知らないと思いました?アハハ。大博さんは男の子ですから隠すのは得意じゃ無いと思います。そして.....甘と蜜も何だか隠すのが不得意ですから。バレてましたよ)


(流石はお前だな。隠せなかったか)


(はい。私は大博さんの彼女ですから)


(参ったよ。ハハハ)


そしてメッセージをやり取りする。

穂高は嬉しそうな感じだ。

俺はメッセージを読みながらほんわかな気持ちになる。

そうしていると、でも今回は大変でしたね、とメッセージが来た。


(そうだな。大変だったけど.....でもアイツも反省するだろ。これで)


(歪んだ心。でも分からなくも無いです。私。だって.....大博さんや皆さんを見てきましたから。私も.....少ないですけど経験しました。こうすると歪んじゃうって)


(.....そうなんだな)


(はい)


穂高は苦笑する様に文章を送って来る。

俺はその文章を見ながら.....少しだけ眉を顰める。

何だろうな。

確かにみんな本当に.....色々と経験しているよな。

思いながら俺はスマホの画面を見つめる。


(穂高。お前さいじめられて無いか?今は)


(私ですか?私は.....そうですね。今は大丈夫です。貧乏だから白い目で見られる事も有りますけど慣れました。でも.....甘と蜜に申し訳無かったって.....思います)


(そうだな.....隠していてすまなかったな。お前に過負荷をこれ以上、掛けさせる訳にはいかないと思ったんだ)


(きっと大博さんだから.....そういう事だと思いました。大博さんは優しいですから)


俺は少しだけ俯きながら、有難うな、と返事をした。

穂高は俺の言葉に、大丈夫ですよ、と返事する。

そして会話していると。

インターフォンが鳴った。


(穂高。悪い。インターフォンが鳴った)


(あ、分かりました。また後で)


(そうだな。また後で)


そして俺は立ち上がってから玄関を開ける。

そこには.....羽衣さんが立って居た。

俺は?を浮かべながら、どうしたんですか?、と聞く。

すると羽衣さんは鍋を取り出した。


「これね、がめ煮作ったんです。もし食べるのならと思って持って来ました」


「.....あ、そうなんですね。.....もし良かったらお部屋に入りませんか。お話がしたいです」


「え?でも未成年の貴方しか居ないですよね?それは.....」


「.....うちはオープンな感じなので大丈夫っすよ。入って下さい」


そうなんだね。

じゃあ失礼しようかな、と頬を掻く羽衣さん。

俺はその際にメッセージを母さんに飛ばす。


お隣さんが家に居る、とだ。

そうしたら、分かったわ、とメッセージが送られてきた。

俺は頷きながら部屋の中に羽衣さんを案内する。

羽衣さんに、大丈夫みたいです、と言いながら、だ。



「綺麗なお部屋ですね」


「.....そうですね。要らない物を買ってないので」


「それは凄く大切な事ですね。だって.....要らない物が増えても仕方が無いですからね.....」


そして俺を笑顔で見てくる羽衣さん。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべる。

それからソファに案内してからお茶を淹れ始めた。

羽衣さんは、お構いなく、と言っていたが、だ。


「波瀬君」


「.....はい」


「私の事とか鞠の事とか。結構知っているのですか?」


「あまり知らないですね。みんな話して無かったです」


そうなんですね。

相変わらずかな、鞠は。

と少しだけ悲しげな感じで俯く。

俺は目だけ動かしながら羽衣さんを見る。

羽衣さんは苦笑した。


「私ですね、鞠と仲が悪い事は話しましたよね。年が離れているからそれで仲が悪いんです。鞠が悪い訳じゃ無いんです。鞠に配慮する為に家を飛び出しました」


「でもそれでも鞠さんがお姉さんの事をこれ程までに俺とかに言って無いのは如何なものかって思うんですが」


「.....鞠と私が仲が悪い原因になったのが.....両親の教育方針だったんです。私と鞠を常に比べる様なあまり良くない教育方針だったんです。鞠だけを愛してほしくてそして私以上に優秀になってもらいたかった。だから私は鞠に言わずにそのまま逃げたんです。鞠が私の事を言わないのは多分.....私に配慮しているから、または私を今でも嫌っているからとかでしょうね」


「.....」


鞠は優秀です。

そして私も優秀でした。

でも1番と2番は必ずこの世には存在する。

だから逃げて幸せになってほしいと願っていました。

と羽衣さんは話す。


「.....それで会えないんですね」


「会えないというかもう会う必要は無いと思っています。両親も私の事は諦めているみたいですしね。鞠が愛されればそれで良いんです。安定は必要ですからね」


「.....」


かつて。

俺も親父に殴られて評価された。

その評価は簡単に言えば劣化している。

という感じで、だ。


勿論、その評価は当てにならないと思っている。

でも人は評価をされると、そうなんだ、と納得してしまうものだ。

だからこのままではいけない気がする。


「もう鞠さんに会う気は無いんですか?」


「無いですね。.....はい」


「.....」


これで良いのだろうか。

何か俺は重大な事を見落としている気がする。

俺としては鞠さんに会ってほしいけどな。

散々世話になっているのだから。


「.....さて、せっかくこの場所に居るんですから。別のお話でもしませんか?」


「別の話?」


「智明くんとはずっと友人なんですか?」


「.....そうですね。俺と智明は一心同体の様な感じです」


智明くん.....の昔のハズカシイお話とか聞きたくないですか?

とニヤッとする羽衣さん。

何だか腹が黒い気がする.....。

俺は苦笑しながら.....羽衣さんを見つめていた。

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