第54話 滝水と律子の関係性

勉強を終えた俺達は楽しく他愛ない会話をして。

甘ちゃんと蜜ちゃんの様子を静かに俺は傍で伺いながら。

遊び終えてから穂高と甘ちゃん、蜜ちゃんを先に外で待ってもらって俺は玄関先で智明に向いていた。

楽しかったな兄弟、と満足の笑みを浮かべる智明だが俺は不安が襲ってくる。

本当に智明は平然としているが、だ。


何が不安かって言えば簡単だ。

智明がどう動くか、そして智明がもし.....律子にやられたりしたら。

その様な不安が襲い掛かって来る。


俺は智明を見つめる。

笑顔じゃ無い真剣な顔で、だ。

そして俺自身の考えを伝えてみる。


「智明。俺は心底不安なんだが。お前の事が。それにここまで来たらマジに警察とか.....そういうのに訴えた方が良くないか?」


俺の言葉は予想外だったのか。

それとも範疇だったのか。

智明は笑みをニコッと笑みを浮かべた。


そして.....手を後頭部に添えながら俺を見つめてくる。

相変わらずの.....ムードメーカーっぷりで、だ。

それから智明は柔和に言ってくる。


「実はな。警察には3か月前に一応だけど訴えたんだわ。でも簡単に言えば、親族間の、しかも子供の争いですよね。警察の仕事では無いかも知れません(笑)だとよ。ハッハッハ。知識も何も無い感じの警官だった。相談した相手が悪かったんだろうけどな。.....市役所とか先生とか弁護士とかに相談するべきなのかねぇ。アッハッハ」


「最悪だなそれって。.....でもなそれでもやっぱり警察しか無いと思うだよな。.....相談関係とかそこら辺はよく分からないが.....先生はどうなんだろうな。.....法律関係に詳しい弁護士に相談してみたらどうだ。先生じゃ無くて」


まあ確かにな。

と少しだけ複雑な感じを見せる智明。

もうこれは倍返しで取り組まないと無理だろうしな、と。


アイツの事だから親族間でそれなりで何とかなると思っていた。

と智明は言う。

甘い考えは捨てるべきなのかもな、とも。

お前も脅された。

恐喝が適用されると思うしな、と。


「.....情けないけどあくまで情が有るのかも知れない。アイツな。簡単に言っちまうと相当な虐待を受けた。今は両親じゃ無くて母親と一緒に暮らしているがな。無茶苦茶に歪んでいた様な家庭だったんだ。それで歪んでいるのかも知れない。.....簡単に言えば親父からの暴力だよ。お前と.....同じだ」


「.....何だって?」


まあ簡単に言えば.....かなりの性的暴行を受けた、と言える。

その父親は今、刑務所に収監されているが。

と智明は説明してくれた。

マジかオイ.....性的暴行って.....。

でもよく考えたら確かにあったよなそんなニュース。


それを言うと確かにその通りだ。

これ結局は裁判沙汰まで発展したけどな、と智明は頭を掻く。

そして苦笑する。

それから、でもどうであれアイツは悪人だ。


だからお前も気を付けろ。

と俺に真剣な顔をした。

俺は智明を真っ直ぐに見据える。


「とにかく.....これ以上酷くなる前にとにかくアイツを捕まえたいかもな。そして警察とか何でも良いから突き出して反省させないと。止められないんならそうするしか無いかもな。お前の言う通り」


「何でもいい。スマホとか電話とか録音しろとにかく。警察に今直ぐにでも律子を突き出せる様に。身構えないと駄目だ」


「.....ああ。そうだな。うん」


それに録音だけじゃない。

お前の周りの信頼出来る人間とかも集めた方が良い。

と俺はアドバイスをする。

智明は、まあお前とか証言するの居るしな、と笑みを浮かべる。

そして俺を見てきた。


「だけど何はともあれお前が傷付くのを見てはいられない。何かあったら絶対に俺に相談してくれ。まさかアイツの動きを止める訳にもいかないしな。お前さんには実際には何もしないと思うが.....一応、念を押しておく」


「俺だけじゃない。お前もな。さっき言った事を実行しろ。今直ぐにでも」


「.....おう。俺には.....キャシーさんとか居るから大丈夫.....ってのは冗談だが。.....あの人達まで俺中心の迷惑に巻き込みたく無い。あくまで迷惑を被るのは俺だけで十分だ」


「.....お前という奴は。優しすぎるだろ」


ハッハッハ!それが俺だからな!と高笑いする智明。

頼っていいと思うんだが。

しかしそれはそうと.....本気でこういう時のアドバイザーが欲しいな。


そんな事を考えていると智明は、さて。穂高ちゃんが待っているからとっとと行け。

と俺の背中を押した。

そして満面の笑みを浮かべる。

手を振ってきた。


「じゃあな。また明日でも」


「.....ああ。明日な。じゃあな」


俺は挨拶をして家を出る。

それから俺は穂高達の場所に向かう。

そして声を掛けてから。


智明の家をそのまま後にした。

もう一度、智明の家を見ながら、だ。

何か起こってくれるな、と願いつつ.....。



「お兄ちゃん。蜜と仲直りもしたしもう大丈夫だから家に帰るね。有難うお兄ちゃん」


「.....ああ。気を付けてな。甘ちゃん」


「本当にご心配をお掛けしました。大博さん。しっかり叱っておきますので」


「.....叱らなくていいよ。穂高。全然構わないしな。寧ろ有難うな穂高。今日は遊んでくれて助かった」


有難う大博さん。

じゃあ失礼します、と穂高はニコニコしながら手を挙げる。

それから別れ道で別れた。

笑顔で俺にぶんぶんと手を振って去って行く甘ちゃんと蜜ちゃん。

俺はその事に笑みを浮かべて手を振り返した。


何時迄も手を振って見送ってから。

夕焼けの空の元、歩き出す。

そして直ぐに足を止めた。

目の前に見知った顔が居たから、だ。

その少女は少しだけ俯き加減で俺を見てくる。


「.....お前.....」


「.....少しだけ話を聞いてもらっても良いですか」


「滝水。どうしたんだ?」


「.....その貴方は.....律子。山口律子と知り合いなんですか?」


山口律子.....?

それってまさか、と思いながら滝水を見る。

何故、滝水がアイツを知っているのだ。


滝水は自転車が通れなくなる様に設置されたポールに寄り掛かる。

そして俺に向いてきた。

俺は直ぐに聞く。


「.....滝水。どういう事なんだ。何でお前がアイツを知っている」


「えっとですね。私は.....近所の商店でお手伝いをしていた頃からあの子と連絡をたまに取っているから知ってるんです。今も私に、そういう人間に会ったから。ウザいのよ、と連絡を入れてきて.....貴方だって悟ったんです。仮にも友人だったんですけどね。昔は」


「.....お手伝い?友人だった?」


ゆっくり頷く滝水。

商店でお手伝いをしていた時から一緒なんです、と答える。

あの子は.....聞いたかもだけど父親に性的暴行を受けているんです。

それで心から傷付いています。

でもね.....昔は全然、根っから悪い子じゃ無かったんです。

と滝水は話す。


「いやそう言うが.....これ本気で警察沙汰になりそうだぞ。そして.....弁護士とか法律とか。申し訳無いが俺には敵としか見えないし.....」


「.....うん。そうですね。彼女は本気で.....意地悪をずっとしています。でも昔は頑張り屋だったんです。それがあんな感じになってしまって.....」


「.....何であんなに歪んだのか昔から知っているのかお前は?」


「知ってます。私」


俺は大きく見開いた。

それから空を見上げる滝水を見る。

滝水は.....複雑な顔をした。

そして俺を再び見る。


「.....あの子だけがある日、客の男に幼いながらセクハラを受けたんです。その人は捕まりました。本当のペドだったんです。そして逃げたんですけど。私も何かされる前に一応、逃げました。そして.....その時から歪んでいったんです。(この世界には変な奴らがウジャウジャ居るから片っ端から潰してやる)って。もうあの子は戻れないのかも知れないけど.....昔は飴玉を商店のお手伝いの費用として貰ってそれなりに嬉しがるだけの良い子だったんです。本当に.....歪んでない女の子でした。それがきっかけかは知りません。でも.....それも原因でしょう」


「.....」


「だから何と言うかですね。彼女は居場所が無いと思ってしまったんです。だからあんなに傲慢で.....嫌な奴になってしまったんだと思います。壊れたんでしょう。警察にでも捕まらない限りはもう無理かも知れないです」


「.....だからあんな感じになってしまったのか?アイツは」


はい、と頷く滝水。

本気でもうどうしようも無いと思うんです。

彼女は戻って来れないと思います。

その世界からです、と。

悲しげに俯きながら話す滝水。


「.....商店でお手伝いをしている時は互いに友達の様な感じだったんです。だから.....悲しいと思っています。今やっている事は彼女自身を破壊しています。でも.....彼女はもう悪の道に呪われた。だから嫌がらせしかしないんです。多分、心では助けてほしいって思っているんだと思いますけどもう私には.....止められないです」


「.....お前がこの場所にやって来た理由は何か有るのか」


「貴方しか頼る人が居ないので来ました。止めてほしいと警察にも私行きました。証拠は十分にあって今までの事を考えたら警察にも脅迫罪とかで訴える事も出来ます。.....でもそれは本当に最後の手段で取っておきたいんです。甘いとは思います。でも.....私で止められるなら止めてあげたいんです。でも一人じゃ本当に無理だと思いました。私の知り合いの人に頼っても良いですけど.....でも何とかならないかなって」


「.....甘えだそれは。申し訳無いが今の話ではアイツを抑えるのは到底、無理だと思う。そして大人に頼らないといけない次元に達したよ。これは。警察に任せよう。本当に」


そう.....ですね。

確かに貴方には無理だと思う。

敵視されているし.....。

やっぱり私、警察に行きます。

と滝水は苦笑する。


「.....そうですね。でも考えても律子はやっぱり捕まらないと無理だとは思いました。御免なさい。私の変な話を聞いてくれて感謝します」


「.....ああ」


明日でも警察に行ってきます。

では失礼します、と滝水は頭を下げて去って行った。

俺は.....ただ拳を握るしか。


その方法しか無かった。

警察や大人に頼る。

本当にそれがベストなのだろうか。


俺も随分と丸くなったもんだな.....って思う。

昔なら即座に訴えていた。

甘いと思うな俺も。

素人がどう手を出したら良いのかって迷っているのも有るから。



夜になった。

俺は穂高にメッセージを打ちながら.....色々とやり取りしていた。

穂高は相変わらずの様子で俺にメッセージを打ってくる。

絵文字と顔文字を交えた、だ。

俺はその様子に少しだけ笑みを浮かべた。


(それはそうと.....智明さんとか皆さん大丈夫ですかね)


(智明は.....うん。俺も何とかする。でもアイツも男だからそれなりにはやってくれるだろうとは思うんだが.....どうなんだろうな)


(えっと.....白島さんとかに相談したら良いと思うんですよね。私)


(.....頼りたく無いって言ってる。智明は.....あくまで身内の事だからって)


俺は眉を寄せつつメッセージを送る。

あはは、智明さん.....相変わらず優しいですね。

と穂高は苦笑する様なメッセージを送ってくる。


俺はそれに対して、ああ。だな、と返事した。

智明さんが心優しいし面白いから.....余計に心配です、とメッセージをくれる。

俺は.....それを眉を寄せて見つめる。


(確かにな。アイツは.....本当に何時も笑顔だしな。心の内を話さないしなあまり。警察とか弁護士に頼ったらどうかってアドバイスはしたんだが.....智明がどう動くかだな)


(そうなんですね。分かりました。でも.....私達も何とかしたいですよね。頑張りましょうね)


(それは確かにな。世話になってるしな.....アイツには。でも限界も有るからな。お前も張り切り過ぎるなよ)


ですね、と笑みを浮かべる様なメッセージ。

それから俺は窓から外を見る。

ひと休憩という感じで、だ。

そうしていると.....智明からメッセージがきた。

よお、的な感じで、だ。

俺は目をパチクリしながら見る。


(智明。どうした)


(いや。様子を伺いに来たんだけどさ。大丈夫か)


(俺はどうも無い。ピンピンしている。お前はどうなんだ)


(まあ俺もあっちこっちがピンピンしているぜ。アッハッハ。ってか文章を打てているから大丈夫だろ)


メッセージを寄越す。

俺はそのメッセージを見ながら少しだけ笑みを浮かべつつ。

なあ智明、と聞いた。

すると、どうした、と返事がある。

俺はそのメッセージに、鞠さんは元気か、と送ってみた。


(ああ鞠は大丈夫だ。一応、連絡を取り合ってる。そして俺の家族が警察に相談しに行ってる。今だけどな。詳しい話は知らないが傷害罪とか恐喝罪で訴えれないかって事で。俺、頭悪いからネットで調べたけどよ.....何だかその色々有って訳分らんけど親族間だと親告罪とか有るじゃない?あれ.....とか使えないかって思って。それ使った告訴取り下げがー、とか俺、全く訳が分からんが)


(.....確かに訳が分からず曖昧だな。でも訴えた。それで良いんだと思う。智明、よくやったなお前。褒めてやる)


(お前は親父か。.....でもまあ.....俺、弁護士じゃ無いし警察でも無いし分からない。でもこれで復讐でいきなり襲うとかそこまでは出来ない筈だ。だけど警戒してほしい。取り敢えずは頼むぜ相棒)


(.....だな。智明)


本気で万が一の事があったら堪らない。

俺は納得しながらメッセージを見つめる。

するとメッセージがきた。

絵文字と共に。


(すまんな。俺の身内なのに。何だか迷惑を掛けているな)


(.....何も心配ない。だけどお前が.....ただ心配だ)


(俺はエロ本を読む体力が有るからグッジョブだしな)


(死ねよお前。何言ってんだ)


高笑いでも何でもしてそうな感じで、ワッハッハ、と爆笑している絵文字を送ってくる智明。

まあ少しでも元気なら良かった。

俺はその様子に盛大に溜息を吐きながら額に手を添える。

全く心配を掛けさせやがる。

思いつつ、だ。


(しかしその、アイツの件に関して俺も色々と知人から聞いてな。律子.....アイツは何かセクハラとか受けたんだな)


(.....ああ.....。それ聞いたのか。.....確かにな。二度もセクハラ受けたから心が折れたって感じだけど。それが原因かは分からないが)


(うーん。しかしここまでやらせるとか本当に救いようが無いのかね。アイツは)


(.....可哀想だとは思うけどそうだな。と言うかとここまできたら俺は絶対に許せない。お前の幸せとか俺の幸せを天秤の秤に加えた事を、だ。それ相応の天罰は下るべきだと思う)


だよな.....。

だったらこれはしゃーないよな。

と呟く感じの智明に俺は起き上がる。

ああ、とメッセージを送った。


溜息を吐いてから外を見る。

何でこんな人も居るんだろうな。

どう対策を取ったもんかな、と思いながら、だ。

俺は顎に手を添えながらスマホの画面を見る。

そうしているとまた別の奴からメッセージが来た。


ピコン


「.....滝水?」


(今日はお話を聞いてくれて有難う御座いました。感謝します)


「滝水らしいな。.....これだけってのも」


俺はそのメッセージに苦笑する。

正直言って俺は複雑な思いだった。

滝水の気持ちも分からんでもない。

だが.....。


律子は誰かが止めないといけない。

この暴走を.....食い止めなくてはいけない。

本気でどうしようもなくなってきているから。

絶対に必要な処置だとそう思う。

警察.....弁護士、か。

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