第52話 智明の1回目の告白が失敗した原因

穂高に嘘を吐いた。

それは何故かというと穂高に知られるのが良くないという考えに至ったから。

甘ちゃんと蜜ちゃんがいじめられている事実に関して、だ。


そんな甘ちゃんはいじめを受けているなどの事実の過負荷をお姉ちゃんに背負わせたり掛けられないと必死に俺に訴えた。

本気で心優しいんだな、と思う。


その為、俺と。

甘ちゃんと蜜ちゃんが今、市役所のこの場所に居る。

穂高には後で知らせる気で、だ。


この街の市役所。

丁度.....相談室に、だ。

俺は複雑に考える。

そうしているとガチャッとドアが開いて女性が入って来た。


甘ちゃんと蜜ちゃんがその女性を見つめる。

女性は20代ぐらいの女の.....かなり身長が低い人だった。

というか小学生と言っても過言じゃないぐらいの童顔の八重歯に笑顔。


小学4年ぐらいと言っても分かる感じの女性だ。

そして.....手には色々な書類を、ってオイ。

マジかこの人.....。


「初めまして。私の名前は佐藤美知留って言います」


「え?あ、はい.....」


「因みに童顔過ぎるからお友達ぐらいに感じても良いですよ」


「.....えっと.....はい!」


佐藤さんはニコニコする。

どうやら佐藤さんの容姿を見て甘ちゃんも蜜ちゃんも落ち着いたようだ。

それから.....書類を広げる、佐藤さん。

そして.....じゃあ早速ですが単刀直入に相談を受けようかと思います。

と言葉を発した。


「.....どういう事が有ったのかな?」


「.....」


「.....」


佐藤さんは真剣な顔をした。

これからは初めて聞く話になるだろう。

思いながら.....甘ちゃんと蜜ちゃんを見つめる。

甘ちゃんと蜜ちゃんは頷き合ってそのまま話した。


「.....お友達が裏切りました」


「信じていたんですけど、そのお友達は私を裏切っていじめっ子に色々と情報を渡しちゃったんです。それからいじめが酷くなって.....貧乏だ、親が居ないとか.....」


「.....成程ね」


「.....」


甘ちゃんと蜜ちゃんの言葉に。

俺はショックを受けた。

それは俺が辿った道だったから。

だから歯を食いしばる。


「.....お友達と仲良くしようと頑張ったんだ?」


「はい。でも.....お友達は裏切っちゃいました。あんなに人って変わるんだなって」


「だよね。蜜」


悲しそうな顔で俺を一瞥してから話す、甘ちゃんと蜜ちゃん。

すると佐藤さんは、うーん、と顎に手を添える。

それからニコッとする。

そして.....俺達を見据えた。


「私もいじめられていました。その原因は簡単に言えば身長です。チビだとかアホだとか。だから見返してやろうと思ってこの仕事に就きました」


「.....佐藤さんも?」


「ええ。甘さん。悔しかったですよ。だって.....身長で何で馬鹿にされなくちゃいけないのかって。だから.....同じ痛みを抱える人の傍に寄り添いたい。そう思って今の仕事に就いたんです」


「.....」


何でかな、って思いますよね。

そして、何で私かな、って思いますよね。

痛みが凄く良く分かります。

と佐藤さんは胸に手を添える。

少しだけ悲しげな顔をした。


「.....甘さん。蜜さん。貴方達は決して悪くないんです。どんなにいじめられていても貴方は悪くない。それで.....逃げなかったのも偉いです。甘さん。蜜さん。頑張ったね」


「.....」


「.....佐藤さん.....」


涙を浮かべた甘ちゃんと蜜ちゃん。

そして鼻をすすって涙を流し始めた。

俺はその姿を見ながら.....俺も涙が浮かびそうになる。

本当に頑張ったね。

その言葉で.....相当に救われただろう。


「私に出来る事なら何でもします。大博さん。門松から聞いてます。この件は.....一応に内緒にしてほしいと」


「はい。無理なら全然大丈夫です」


「.....私、おっちょこちょいだから家族に電話するの今は忘れるかもしれません」


「え?」


あはは、と笑みを浮かべる佐藤さん。

この人.....、と苦笑しながらも良い人だなと思ってしまった。

それからまた佐藤さんは柔和な顔で甘ちゃんと蜜ちゃんを見つめる。

甘ちゃんと蜜ちゃんは涙を拭いながら佐藤さんに向いた。


「甘さん。蜜さん。えっと.....先ずは何が有ったか書いてもらっていいですか。質問票です」


「.....はい」


「分かりました」


それから甘ちゃんと蜜ちゃんは書いていく。

俺はそれを見つつ窓から外を見る。

そうしていると佐藤さんが俺を見てきた。

それから笑みを浮かべる。


「.....お優しい方なんですね。大博さん」


「.....俺もかつていじめられていましたから。だから気持ちが分かります」


「そうなんですね。.....大変な日々をお過ごしになられたのでしょうね.....」


「大変っていうか。もう慣れました」


そうなんですね、と佐藤さんは穏やかな顔を浮かべる。

俺はそれを見つつ、はい、と頷いた。

それから甘ちゃんと蜜ちゃんが、書きました、と声を挙げた。

そしてそれを佐藤さんが回収する。


「.....有難う。甘さん。蜜さん」


「はい」


「いえ」


それから書類を読む佐藤さん。

俺達はその姿を見ながら佐藤さんが読み上げるのを待った。

そして.....佐藤さんは顔を上げる。

有難うです、と、だ。


「だいたいに内容は分かりました。書類作成など.....これから.....暫くの間、お付き合い下さいね」


「.....はい」


「有難う御座います!」


それから少しだけカウンセリング?が行われ。

俺達は色々な話をしたりして。

そして一応、その日はカウンセリングが終わった。

1時間ぐらいの話だ。



「お兄ちゃん。今日は有難う」


「.....ああ。別に構わない」


「.....私、お兄ちゃんが好きかも」


「.....は!?」


市役所を出てから。

蜜ちゃんがとんでもない事を口に出した。

俺は目を丸くしながら蜜ちゃんを見る。


顔を赤くしながら俺を見てくる。

でも穂高お姉ちゃんがお兄ちゃんが好きだから。

取ったりしないけど、と笑顔を浮かべる。


「.....心臓に悪い」


「でも本当に好きだからね。お兄ちゃんの事」


「.....ああ。また問題解決したら遊ぼうな」


さてこれからどうすっかな。

思いながら居ると。

横から、あれ?大博?、と声がした。

そんな声の主を見る。

智明じゃねーか。


「何してんだ?兄弟」


「そりゃお前だ。何でここに居るんだ」


「俺は市役所にハハンチ(母親)からのお使いだ。で?お前は」


「.....何だハハンチって.....あ?俺?まあ色々な」


智明は目をパチクリする。

だが深追いはせず。

俺を、そうか、と見つめてきた。


相変わらずだな、コイツは。

思っていると、んじゃここで会ったのも何かの縁だな。

甘ちゃんと蜜ちゃんと遊ぼうぜ、と言う。


「お前.....宿題は」


「嫌な事を。.....そんなもん。.....最終日にまとめてパアッとやればいいのよ」


「オイ。アホンダラ。甘ちゃんと蜜ちゃんの教育に悪い。お前の存在が、だ。帰れ」


「そんな怖い顔で言うなよ兄弟~」


最終日に纏めてって無理に決まってんだろ。

俺は盛大に溜息を吐きながら智明を見る。

智明は、ハッハッハ、と笑いながら。


それはそうとここで会ったのも何かの縁。

俺んちで遊ばねぇか?、と笑顔を見せた。

いや、それはそうとっておま。


「お前.....話を聞けよ」


「良いじゃねぇか。後4日は有るんだから」


「私、智明の家でゲームがしたい」


「私もー」


ニコニコする甘ちゃんと蜜ちゃん。

お、じゃあやるか!と智明は満面の笑みを浮かべる。

それから、用事済ませてからな、と智明は書類を見せてくる。

そして智明は俺に向いた。

んじゃ、兄弟待っていてくれと言う。


「だが宿題もするからな」


「お、おう。そ、そうだな」


「本当に分かっているのか.....お前は?」


威圧する俺。

そして俺達は智明の家で遊ぶ事になった。

一旦、俺達は宿題を取りに帰ってから、だ。


そして穂高も来る事になった。

よく考えたら智明の家に行くのかなり久々の様な?

俺は顎に手を添えた。



よくよく考えたら智明には親戚が居る。

その親戚は女の子だった様な気がするが。

智明はあまり話したがらない。


だがそれも理由が有る。

どういう理由かと言えば.....簡単。

疎遠になっているから。

何故、疎遠になっているかは知らない。

話してくれない。


「さて。ここが俺んちだ」


「「「おー」」」


「.....久方ぶりぐらいに来たな此処」


そこは一階建ての住宅。

そして.....屋根が灰色の住宅だ。

3丁目。

つまり俺の家からさほど距離は無い場所に有る。


「お前の母と父は元気か」


「言われるまでも無くぴんぴんしてるぜ。闘病もしてなく死んでない」


「縁起でもねぇよ」


「ハッハッハ。まあ入ろうぜ」


とか智明が言っていると。

待ちなさい、と横から声がした。

俺は?を浮かべて横を見る。

智明が不愉快そうな感じで眉を顰めた。


「.....律子。丁度いいタイミングだなお前。何しに来た」


「簡単ね。貴方に会いに来たのよ。久々にアホ面でも拝みに行こうかって思って。.....しかし何だか知らないけど女連れでイチャイチャって馬鹿じゃないの?」


「.....さて。大博。入るか」


智明は目が笑ってない。

ビキッと額に音がした気がした。

無視でニコッとして家の中に入ろうとする智明。


それに対して、お。おう、と答えながら俺達も入る。

その律子という女性は不愉快そうに眉を寄せた。

と言うかこの律子って誰だ。


「アンタそれが久々の親戚に対する態度?馬鹿じゃないの?」


「.....ハァ?親戚?.....っていうか馬鹿とは失礼だな。.....お前だろ。馬鹿なのは。第一.....俺が鞠に告白するのを阻害した原因の1はお前もある。鞠を馬鹿にしたのも、だ。無視も当たり前で当然だろ」


「.....え!?」


穂高が見開いて驚愕する。

そして俺も見開きその女を見る。

赤髪で少しだけ目付きが悪く。

顔立ちはやけに整っているが心が根っから萎れて腐ってそうな。

そんな俺と智明の同級生と思われるその女を。


「あら?そんな昔の事を覚えていたなんてね。貴方.....馬鹿だと思っていたから。馬鹿は馬鹿なりに忘れていれば良いのに」


「.....死んでも忘れない。あの雨の日、お前は俺に嘘を吐いた。まあ俺も悪いけど。でもお前はもっと悪い。親戚としては会いたくない。お前とはな」


「.....」


律子はニヤッと笑う。

そして.....小馬鹿にする様にニタッとした。

その笑顔に俺も.....睨み付けるしか方法が無い。

何なんだこの女は。


「さて。それはさておき、アンタの馬鹿面を見れて良かったわ。私帰るから」


「とっとと帰れ。ついでに地獄にでも行け。不愉快だ」


「.....イライラするわね。アンタとやっぱ話していると」


それはこっちの台詞だ、とでも智明は言いたそうだった。

だけど暴言は似合わないのかそのまま押し黙る。

まあ言われるまでも無く帰るけど、と呟く女。


そして俺を見てきた。

警戒する穂高も。

ニタッと笑う。


「アンタ友達?コイツと居ると本格的に全てが破滅するわよ。気を付けて」


「それはお前だ。全てが破滅じゃ無くてお前を滅亡しそうだ」


「.....失礼ね。初対面の相手に向かって。馬鹿なの?」


智明.....アンタの連れって馬鹿多いわね。

と吐き捨ててそのまま去って行った。

何だアイツ。


滅茶苦茶に胸糞悪い。

穂高も不愉快そうな顔をしている。

そんな中、智明が俺に向いた。


「.....すまんな。大博。アイツに会うとは予想外だった。会ったの3年ぶりぐらいだし」


「.....お前も大変だな」


「馬鹿を持つと本気で大変だよ。マジに。例えそれが親戚でもな」


でもな。

正直言って.....あの女は憧れだった。

俺の、と目を細める智明。

ビックリしながら智明を見る。


どういう事か、と思ったのだ。

だけど途中から憧れじゃなくなったけどな。

とケロッとした智明。

それ以上は聞けない感じを見せる。

手を後頭部に回しながら、だ。


「あーあ。不愉快な物体を見てしまった。.....大博。穂高ちゃん。甘ちゃん。蜜ちゃん。家に入ってゲームしようぜ」


「.....ああ」


「ですね」


だが智明は忘れるのではなく。

心の底から馬鹿にされたのが原因か苛ついている様に見えた。

勿論心もだが、体も、だ。

友人だから分かる。

隠していても。


長年の、だ。

しかしそんな事が有ったとは知らなかった。

コイツ、ムードメーカーだからな.....。

俺は智明の過去を知らない。

もっとよく知る必要が有るのかも知れない、と思ってしまった。

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