第51話 門松の知り合い

甘ちゃんが蜜ちゃんと喧嘩して家出した。

そして俺の家にやって来てから。

俺は予想外の衝撃の事実を知る事になった。

何を知ったかと言えば。


甘ちゃんと蜜ちゃんが貧乏故にイジメを受けているかも知れない事実を、だ。


だが甘ちゃんは話した。

この事は穂高お姉ちゃんには秘密にして、と。

俺はその事に何も言えず。

そして.....過去を思い出してしまった。


俺もそう、イジメを受けていたのだ。

そのイジメは深刻なものでは無かったがそれなりにダメージを受けた。

だから気持ちは良く分かる。


でもこの事は穂高に話さないとマズい気がする。

だが甘ちゃんは嫌がる。

リビングでジュースを飲みながらテレビを観ている甘ちゃんに言葉を発した。


「でもさ甘ちゃん。この事はやっぱり穂高に話した方が良いと思うんだが.....」


「話すのは絶対に駄目。お姉ちゃんに過負荷になる」


「.....あくまで穂高には内緒で俺を小学校に連れて行きたいと?無理だろ。絶対にバレるぞお前」


「.....じゃあバレないようにして。絶対に。お兄ちゃん」


真剣な眼差しで俺を見てくる。

無茶苦茶なご注文ですね。

甘ちゃんは本気でバレたくないとは思っている様だが.....絶対に無理だ。

家族に必ず連絡は行くだろうしな。

だからどんなに抵抗しても無理だが.....。


「.....絶対に穂高には伝わると思う。無理だ」


「.....何で?お兄ちゃんなら良いと思っていたのに」


「無理なものは無理なんだよ。どうしようもな.....い?」


そうだ。

知り合いになった門松先生に頼ってみるのはどうだ?

俺は思いながら門松先生の電話番号を見つめる。

それから電話を掛けてみた。


『もしもし?大博君。どうしたの?』


「門松先生。例えばの話ですが聞いてもらえますか。例えば親戚がイジメを学校で受けている場合で親戚の親にバレないように俺が対処するにはどうしたら良いですか」


『何を.....言っているのかしら。そんな滅茶苦茶な事は出来ないわよ。幾ら私でも.....と今思ったけど私の知り合いに秘密を厳守する.....いじめなども専門にする家庭相談員というのが居るわ。その人にもし良かったら相談してみたらどうかしら。貴方が未成年だからそれも問題だけど』


「有難うです。それとこれって学校に相談は.....」


私としてはこんな事を言うのは如何なものかと思うけど一応教えるわ。

普通に考えて連絡が行くのは当たり前で無理だと思うけど.....直接学校に相談するよりかは発覚を遅く出来るんじゃないかしら、と門松先生は言葉を発した。

あくまで多分だけど、と念を押す。

その言葉を受けてから顎に手を添える俺。


やはりそうなのか。

思いつつ俺は甘ちゃんを見る。

本当に門松先生には申し訳ない気持ちだ。

そんな事を言わせたのが、だ。


『家庭相談員はこども課の管轄下。だから市役所に行きなさい』


俺は住所を書き留めながら。

頷きながら説明を聞いた。

ここなら門松先生の事も有り顔に免じて色々やってくれるそうだ。

とは言え.....連絡はいつかはいく。

そう念を押された。


『でも何度も言うけどやはり秘密保持は何時かは明るみに出る。無理なものは無理よ。何時かは連絡がいく。でも私の知り合いだしそれなりには分かってくれるかもね。可能性だけど』


「感謝します。門松先生」


『いや、良いんだけど.....その子は小学生?』


「小学生です」


貴方の子供な訳ないしね。

もしかして貴方、誘拐した?と言ってくる門松せん.....オイ!

縁起でもない!

俺は慌てて否定をする。


「えっと穂高の妹ですよ!誘拐じゃないです!」


『なら良いのだけど。決して無理はしない様に。そして何かあったら電話しなさい』


「はい。有難う御座いました」


『いえ。忙しいのでこれで失礼するわ。御免なさいね』


それから電話が切れた。

俺は甘ちゃんを見る。

甘ちゃんは?を浮かべて俺を見ていた。

俺はそんな甘ちゃんに話す。


「今だけ秘密にしてくれる場所が有る。そこに行ってみよう。学校じゃ無いけど」


「いじめで?」


「.....ああ。いじめで、だ」


「.....分かった。行ってみる。穂高お姉ちゃんには内緒だよ?」


それは分かる。

だけど秘密は何時かはバレるもんだ。

だからその事はどうしようもない、と言葉を発する。


甘ちゃんは、解決してからなら、と頷いてくれた。

穂高、すまん。

お前に秘密が一つ出来てしまった。

俺は心で穂高に謝りながら.....甘ちゃんと行く時を決める。



明日、行く事になった。

俺は穂高に連絡する。

少しだけ遊んでから連れて帰るな、と。


穂高は納得した。

そして電話は切れる。

勿論、嘘だが。


「穂高.....すまん」


思いつつ甘ちゃんを見る。

甘ちゃんはぐっすり寝てしまっていた。

疲れたのだろう。

思いながら.....棚の写真を見る。

幼い頃の俺の写真を。


「.....イジメ.....か」


イジメとか久々に聞いた。

俺は.....苦痛を受けて受けまくって。

精神が崩壊するかと思った。

教師からも馬鹿にされたのだ。

小学生の頃でイジメは止まったけどそれなりの精神苦痛だった。


「.....甘ちゃんが無事に学校に通えるように.....それなりに頑張ろう。俺も.....応援してやらないとな」


思いながら俺は甘ちゃんを見る。

甘ちゃんは本当にぐっすり眠っていた。

俺はその姿を見ながら.....意を決する。


甘ちゃんを助ける為に。

穂高に内緒にしながら何処までやれるか考えながら.....俺は立ち上がった。

するとその手を.....甘ちゃんが握ってくる。


「.....甘ちゃん?」


甘ちゃんは寝ているようだ。

なのに.....俺の手を握っている。

俺は目を丸くした。

そして甘ちゃんはこう.....小さく呟く。

涙目で、だ。


「.....助けて.....」


「.....!」


それからそのまま手を放す甘ちゃん。

俺は驚愕しながらその手を.....見つめる。

こんなに苦しんでいるのか甘ちゃんは。

俺は甘ちゃんを複雑な顔で見る。


「.....甘ちゃん.....」


そりゃそうだよな。

甘ちゃんは俺の手から手を離してから涙を一筋だけ流してそしてまた寝てしまった。

俺はその姿を見ながら.....甘ちゃんの手をゆっくり握る。

それから少しだけ祈りを込めて手を置く。

すまない、と思いながら、だ。


「.....甘ちゃん。俺の.....俺自身の状況で例えていた。その考えは甘かったみたいだな。ごめんな。考えを切り替えていくよ」


そして俺は顔を上げた。

それから目の前を見つめる。

どうやって状況を解決してくか.....だな。

これからまた忙しくなりそうだとも思ってしまう。


「甘ちゃんが、蜜ちゃんがまた笑顔で学校に通える様になる為には.....か」


俺は顎に手を添える。

それからこれから先の事を必死に考えてみる。

これからどう進むか。


そして.....甘ちゃんと蜜ちゃんを満足させるにはどうすれば良いか。

すまん、穂高。

少しだけお前に嘘を吐くぞ俺は。

どうしても甘ちゃんはお前に秘密にしたいみたいだから。

申し訳無いと思うけど.....お前に過負荷を掛けさせたくないのは一緒だから。

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