第50話 甘、大博の家に家出する

信也さんと御幸が付き合う事になり。

俺はその様子を.....歓喜する様に見ていて歓迎した。

みんなもどんちゃん騒ぎの様な感じだ。


そんな感じで時間はあっという間に過ぎた。

此処まで生きてきて良かったと。

初めて思った気がした。

俺は思いながら歩みを進める。


「.....本当に良かったな.....御幸」


本当にあっという間に夕方になった。

俺とみんなはそのまま各々、挨拶をして帰宅して俺も帰り着く。

それからドアを開けようと歩く。

のだが玄関前に誰か居る。

その人物が誰かと思ったら.....信じられない事に。


「.....?!」


「お兄ちゃん」


「.....何をしているんだ!?甘ちゃん」


甘ちゃんであった。

ランドセルを持って何故か立って居る。

いや、ちょっと待て。

何でこの場所に甘ちゃんが居る。

どうなっているのだ。


と思いながら。

髪の毛に太陽の模様のヘアピンを着けている甘ちゃんを見る。

甘ちゃんは眉を顰めて告白してくる。

頬を膨らませながら、だ。


「.....蜜と喧嘩した。だから家を出たの。嫌だったから」


「は?.....いや。それはお前な。帰った方が良いぞ。穂高が心配する」


だがその言葉に甘ちゃんは首を振る。

それから俯いた。

そして.....地団駄を踏んで言う。


「嫌っ!!!!!」


イーッとする甘ちゃん。

うーんこれは非常に参ったぞ。

だって子供の駄々って非常に困るものがある。


何故なら話を聞かないイメージが有る。

どうしたものか。

思いながら盛大に溜息を吐く。

そして膝を曲げて目線を合わせる。

もう夕暮れだ。


「お前な。流石に厳しくするぞ。絶対に心配しているから帰った方が良い」


「嫌だ。絶対に嫌」


「.....わがまま言う子にはお兄さんが怒るぞ。本当に」


「.....お兄ちゃんなら分かってくれると思った。だから.....」


そんな無茶苦茶な。

と思っているとゴロゴロと雷が鳴った。

そしてそのまま勢い良く雨が降ってくる。

俺は、オイマジか、と思う。

すると甘ちゃんがニヤッとした。


「これは家に帰れませんな。アッハッハ」


「.....お前な.....」


「家に泊めて下さいで候」


「無理が有るって。お前は仮にも小学生女児だぞ。いい加減にしろ。犯罪で捕まりたくは無い」


そんな事をクドクド言う俺。

いやまあ.....この家には仲も泊ったけどさ。

するとその油断で甘ちゃんは俺の手から鍵を奪い取った。


あ!?と思ったが。

そしてそのまま家を開けて中に入る甘ちゃん。

俺は、オイこら!、と追い掛ける。


「へー。これがお兄ちゃんの家なんだ!いい家だね!」


「こら。お前.....捕まえるぞ。いい加減にしろ」


と思っているとスマホに電話が掛かって来た。

俺は?を浮かべて電話主を見る。

それは思った通り、穂高であった。

電話に直ぐ出る。

すると大慌ての声がした。


『甘が居ないんです!ど、どうしよう。け、警察!?警察ですよね!?』


「落ち着け。穂高。お前の妹は今目の前にいるぞ」


え!?とあっけに取られた様な声がした。

それから、電話を替わってもらえますか!?、と声を発する。

俺は直ぐに甘ちゃんに電話を渡す。

そしてそれを受け取った甘ちゃんが電話に出た。


「という事で大丈夫だよ。お姉ちゃん」


『何を馬鹿な事を言ってるの!!!!!どれだけ心配したか.....それに迷惑が掛かるでしょう!!!!!帰って来なさい!!!!!』


激昂の声。

俺は腕を組みながら頷く。

だが甘ちゃんはムッとしてから答えた。


今は大雨が降ってる、と、だ。

そうだけどそれは、と言い淀んだ穂高。

俺はその事に盛大に溜息を吐いた。

そして電話に話し掛ける。


「分かった。穂高。一日だけ預かるよ。お前の妹」


『え.....でもご迷惑じゃ.....』


「雨だしな。帰れないだろうし.....だから預かる。夜まで降るみたいだから。帰れないだろ」


『.....分かりました。明日、必ず迎えに行きます』


甘ちゃんは、うんうん、と頷く。

オイコラ、納得すんな。

思いつつ甘ちゃんを見る。

穂高は、すいません大博さん、とションボリした声を発する。

俺は、別に構わん、と言う。


「.....こう言う事も有るだろうしな」


『本当にすいません.....お願いします』


「おう。穂高。それはそうと今日は有難うな」


『楽しかったですね』


だな、と俺は返事をする。

それから、じゃあまた後で電話します、と穂高は溜息を吐いた。

俺はその電話に、ああ、と返事して仕舞いつつ。

甘ちゃんを見た。

そんな甘ちゃんはゲームを発見した様で遊ぶ準備をしている。


「甘ちゃん。明日には帰るからな」


「うん。分かった〜」


「本当に分かってる?君」


「うんうん」


何だか怪しいな.....。

思いながらもゲームを起動させた甘ちゃん。

それからコントローラーを俺に渡してきつつ。

一緒に遊ぼ?と声を笑顔で掛けてきた。


「いや、良いけどよ」


「わーい」


それから暫く仲がやったゲームで遊んだ。

土砂降りはまだまだ続きそうであった。

俺は盛大に溜息を吐きながら。

甘ちゃんと遊ぶ。



「喧嘩ってどんな喧嘩をしたんだ?」


「うーん。お姫様のお人形の取り合い」


「単純だな.....でもそれは参ったな確かに」


「でしょ!?だから家出」


子供って単純だと思ったら本当に単純だ。

母さんにも連絡したが一応、相手様の許可が取れているならと言う事だった。

俺は目の前の甘ちゃんを見る。

リビングの机で勉強中。

というかちゃんと勉強するんだな。


「偉いな。ちゃんと勉強して」


「将来はお姉ちゃんを支えたいから」


「.....そこだけは大人だな」


そういや俺達も宿題が有る。

やらないといけないな。

今度、勉強会でもすっか?

思いながら甘ちゃんを見つめる。

甘ちゃんは、うーんつまらない、と伸びをする。


「飽きたか?」


「飽きたね、うん」


「でもやらないと減らないぞ。宿題は」


「.....うーん。ゲームしたらやるー」


そしてまたゲームを起動させた甘ちゃん。

俺はその姿に盛大に溜息を吐きながら。

ランドセルの中を偶然に見た。


そこには、消えろ、と書かれた紙が入っている。

隠す様に、だ。

俺はギョッとして青ざめた。

そして甘ちゃんを見る。


「.....甘ちゃん。君.....イジメとか受けてる?」


「.....え.....何で知ってるの?」


「いや、ランドセルの紙が見えたから。あれ、どうしたんだ」


ビックリしている甘ちゃん。

甘ちゃんがゆっくり俺を見てくる。

そして悲しげな顔をした。

俺は.....その姿を見ながら複雑な顔をする。

それから甘ちゃんは告白してきた。


「私ね.....貧乏だってイジメられている。男の子に」


「それはちゃんと穂高に言っているか」


「.....言ってない。だって.....お姉ちゃんにこれ以上の負荷は掛けられないから」


「駄目じゃ無いか。ちゃんと言わないと.....」


じゃあ質問するけど。

お兄ちゃんはこの事直ぐにお姉ちゃんに言ったりするの?

言えないと思うよ、と話す甘ちゃん。

だって.....心配が掛かるよね、と。

俺は目を見開いた。


「.....俺は.....」


「.....だからこれは内緒なの。お姉ちゃんには」


「お前.....」


甘ちゃんに絶対に言わないでね、と念を押される。

俺は.....俯きながら何も言えずだった。

このままじゃいけないとは思ったが.....。

でも甘ちゃんの言う通りだ。

良いのかこれで?


「.....甘ちゃん。何かあったら言うんだぞ。俺に」


「うん。大丈夫。そう。大丈夫だよ」


「お前が大丈夫でも俺は大丈夫じゃない。俺は.....いろいろ経験してるから」


え?と俺を見てくる甘ちゃん。

俺は.....その顔に頷く。

そう、俺は。

生徒や教師からイジメを受けていた事も有るから。

分かるのだ、そういうのが。


「.....お兄ちゃんも.....?」


「イジメは酷いよな。卑怯だよな。だから嫌なんだ」


「.....」


甘ちゃんはコントローラーを置く。

それから俺の元にやって来た。

そしてとんでもない事を.....言う。

それは予想外の言葉だった。


「.....お兄ちゃん。私の小学校に来て。親戚の保護者として」


そしてまた。

新たな何かが開こうとしていた。

それはまだ予想出来ない、色々な事であり。

俺は想定がつかなかった。

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