第47話 帰宅のバスの中

散々な草津温泉の観光になってしまった。

だけど.....まあ、うん。

羽を少しでも伸ばせたから仮にも良かったのかも知れない。

帰りのバスの中、俺は窓から外を見る。

そうしていると声を掛けられた。


「酔って無いですか?大丈夫ですか?大博さん」


「.....ああ、酔ってないし大丈夫だ。心身も大丈夫とはいかないけど大丈夫だ。死んでないしな」


「.....あはは。ですね」


ニコッとする穂高。

でも.....なんつうか。

今回はマジに死ぬかと思った。

そして.....仮にも元気になった友を失うかと思ったのだ。


しかし本当に。

智明を失うのは耐えられないだろうな。

俺にとって.....アイツは最後の友人だから。


「うー.....また酔った.....」


「目が回るゾ」


「大丈夫か?御幸。そして先生は大丈夫ですか?」


やっぱり酔うんだな。

考えながら俺はため息交じりに二人を見る。

二人は青ざめて酔っていた。

困ったな。


「兄弟」


「.....おう。何だ。智明」


「今回は有難うな。マジに」


「.....俺は何もしてないだろ。ほぼキャシーさんがやっちまったじゃないか」


だけどお前が居たから今回の旅行は楽しめたんだぜベイベー?

と智明はガーゼを頬にはっ付けている癖に相変わらずのニカッとした元気で俺を見つめてくる。

全くな.....と思う。

相変わらず元気なのは.....本当に良かったが。

何か起こったら困る。


「大博。智明くん。みんな。今回は本当にすまなかったね」


「お前が悪いわけじゃ無いだろ。仲。どうしようもないと思うぞ今回は」


「でも私の親父だ。結局そこに行きつくからな」


本当に誰ももうあの人を救えないだろうね。

と眉を顰める仲。

智明は、ま。まあ、そんなに悩んでいても仕方が無いから!

と智明は満面の笑顔で切り換えす。

俺はその事に、だな、と少しだけ返事する。


「本当にあの親父だけは許せないよ。私の親父として家族の恥だ。あの様な.....うん」


「おい、落ち着け」


仲は歯を食いしばる。

俺はそんな仲の頭をポンポンした。

そして笑みを浮かべる。

仲は目を丸くする。

俺は.....その仲に笑みを浮かべる。


「お前の気持ちも分からんでも無いけどな。でももう怒っても仕方が無いからな」


「.....君、本当に丸くなったよね。昔と違って」


「それはお前らに助けられたからな。だからトゲトゲしく無くなったんだ」


「.....そうかな」


そうだ、と俺は笑みを浮かべる。

仲は、うん。それだったら嬉しいな、と笑みを浮かべる。

俺はその姿を見ていると。

穂高が、仲さん、と声を掛けた。

ニコニコしている。


「気晴らしにトランプゲームしましょう」


「.....なんのゲームだい?」


「えっと、ババ抜きです」


穂高はトランプを広げる。

奥で寝ていた鞠さんも起き上がってから手を挙げた。

そして智明も一声。


「じゃあ俺達も混ぜてくれ」


「負けた人が.....そうですね。みんなの1日だけの召使いになる!」


「無茶苦茶だな。穂高。良いのか」


「はい。私は構いません。だって.....それだったら面白くないですか?」


いやまあ.....そうかも知れないけど。

思いながら俺は目を丸くしつつ穂高を見る。

穂高はやる気に満ち満ちていた。


智明も、だ。

女の子の召使い.....ぐふふ、とか言っている。

何だかその、ヤバい気がする。

智明だけは勝たせたら駄目な気がする。

負かせないと。


「智明。お前、今直ぐにバスから脱落しろ」


「え、おま?!このバスから?!!?!」


「危険だと思うから」


鞠さんと俺は力強く頷く。

オイオイ!そんな事は無い!と断言する智明。

いや、お前の様な変態は気になる。

勝っても負けても嫌な感じがするのだ。

思いながら居ると穂高はちゃっちゃっとカードを切った。


「じゃあいきましょう」


「やるぜ!」


「よし」


そして10分ぐらいバトルが続き.....穂高が負けた。

あらー。負けちゃいました、と、エヘヘ、と笑顔を見せる穂高。

穂高が智明の召使い.....だと。

あれこれするのか?

冗談でも嫌な気がする。


「おい。兄弟。お前、ろくな事を想像してないだろ」


「当たり前だ。お前はそれなりに大変な奴だから。エロ本とか持っているしな」


「バラすなよ!?兄弟!?.....ハッ」


鞠さんが何かを取り出した。

それは.....ハリセンで有ったが.....金属があしらわれている様な銀色に光っている。

智明は、ヒョェ!?、と声を上げる。

だが鞠さんは何もせずにそのハリセンを仕舞った。


「今は怪我をしているから。でも.....帰ったら全部燃やしなさい」


「.....す、すまなかった」


エロ本の事を問い詰める鞠さん。

冗談半分だろうけどそれなりに怒りながら、だ。

そうしているとバスが休憩場所に到着した。

それから俺達は降りて行く。

その途中で穂高が手を挙げた。


「じゃあ私は皆さんの、さぽーたー、になります!」


「その必要は無いよ」


「え?」


仲がニコッとする。

そして智明も鞠さんも、みんな、だ。

俺達は顔を見合わせる。

だって召使いなんて疲れるでしょ?と仲は苦笑した。


それから仲は顎に手を添える。

うーん。そうだね。代わりに.....大博。

君は穂高とキスしてもらおうか、と、だ。

ハァ!?


「それぐらいなら出来るよね。私は.....写真を撮るから」


「アホかお前は!いきなりそんな事が出来.....」


「じゃあしますね」


そのまま穂高がつま先立ちでいきなり俺とキスを交わしてきた。

俺は目を見開き、穂高を見る。

周りの奴らは、きゃー、とか言っている。

いきなり何するんだ穂高!?


「えへへ。キスぐらいなら全然容易いです」


「馬鹿野郎お前.....ここは通行人が.....」


「良いんです。私、こんな彼氏が居るって事が自慢できますから」


「.....それは嬉しいが.....うん」


あはは、と笑顔を見せる穂高。

俺はその姿に苦笑いを浮かべる。

仲を見ると仲は、うむ。ばっちぐー、と親指を立てた。

俺は更に苦笑いを浮かべる。


「じゃあ.....行きましょう。大博さん」


「穂高.....全く。じゃあ行くか。みんな」


「おう」


「ですね」


そして体調が復活した御幸と一緒に。

俺達は建物の中に入って行く。

それからお土産を見つめた。


宿でも色々買ったけど.....まだ買おうかな。

思いつつ見つめていると。

穂高が目を輝かせながら物欲しそうにパンダのぬいぐるみを見ていた。


「穂高。何か買うか。奢るぞ」


「い、いえ。そんな事」


「.....そのパンダが気になるか?」


「い、いえ、大丈夫です!本当に!」


そうか?......じゃあ買おう。

という事で俺はパンダのぬいぐるみを持った。

え、冗談ですよね!?、と穂高は言う。

俺は冗談は嫌いだ、と笑みを浮かべてから。

そのまま会計した。


「.....大博さん。.....ぬいぐるみ高いのに」


シュンとする穂高。

俺はそのほだかに答える。

何故、これを買ったのかを、だ。

その説明も交えながら、だ。


「お前が大切にしてくれるんなら変えられない。かけがえのないものだ」


「.....もう。だから好きなんですよ。.....本当に大好きです。貴方の事が」


「.....そうか。俺もだ」


会計の済んだパンダのぬいぐるみを渡す。

そんなパンダのぬいぐるみを大切そうに抱える穂高。

そしてニコニコ笑顔を見せながら。

俺に花が咲く様な満面の笑顔を見せた。

その姿が見れただけでも相当な満足だと思う。


「有難う。大博さん。とっても嬉しいです。大切にします。えへ、エヘヘ」


「.....お前がそう言ってくれるのが一番の幸せだよ。おれにとっては」


「私、貴方に御婆さんになっても付いて行きますよ。絶対に」


「.....じゃあ俺はおじいさんになっても、だな」


はい。

歳をとって声が枯れても.....手を握って下さいね。

と穂高は俺の手を優しく握る。

俺はその手を.....握り返した。

ああ、守ってやるからな、と、だ。


「おーい。お前ら。イチャイチャするのは良いが時間が無いぞ」


「.....あ、そうだな。智明。すまん」


「じゃあトイレに行ってから戻りましょう」


それからパンダのぬいぐるみを大切に大切に鞄に入れた穂高。

俺はそれをにこやかに見ながら。

トイレに向かった。

まだ先は有るし行っとかないとな。


「大博さん。貴方にお礼を今度します」


「要らない。代わりに隣で何時でも俺を見ていてくれ」


「.....!.....分かりました。大博さん」


紅潮する穂高。

そして俺達は絆を確かめる様に。

手を握り合った。

それからトイレに向かう。

あと少しで家だが、だ。

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