第46話 老人と大博

重体とはいかなかったが智明も相当にボコボコにやられた。

それと智明は骨折しなかったのが不幸中の幸いか。

打撲で済んだ。


その為に俺の親父は仮にも捕まり、取り敢えずは周りは平常に戻りつつある。

俺も.....みんなも、だ。

本当に色々有った。


そして警察もないがしろにする奴はもう人間じゃない。

俺の親父とは思いたくない。

思いながら病院で智明を見る。


智明は病室のベッドで横になって俺を見ている。

キャシーさんと鞠さんと一緒に、だ。

そんな智明は頭に包帯を巻いてから俺に笑う。


「しっかしあれだな。現実に有るんだな。背後からいきなり殴られるとはな。アッハッハ!」


「いや、お前は笑うが笑い事じゃねぇよ。本気で死ぬかと思ったぞ今回は.....」


「大丈夫だって。俺は死なない。お前の様な奴を残して死ねるかよ」


「.....」


智明は能天気に俺に話し掛ける。

まるで俺は息子の様な扱いだ。

因みに智明は検査の為に1日入院する事になった。

翌日には俺達は帰るのだが.....ギリギリだな。

智明はその事に溜息を盛大に吐く。


「ああ。畜生。そこだけは残念だな。動きたい気分だぜ」


「お前な.....休めよ?ちゃんと」


「そうだな。まあ言われんでも休むさ。全く」


「.....でも。智明。有難うな」


何がだ?と俺に笑みを浮かべる智明。

俺は.....お前がそんなに能天気だから助かっている。

気分が沈まずに済むのだ。

思いながら俺は智明を見つめる。


「しかし智明。本当に良かったわ.....助かって」


「キャシーさん。迷惑を掛けました。すいません」


「良いのよ。愛しい貴方が無事であれば何でも」


「.....ですねぇ」


智明は苦笑する。

キャシーさんは涙を純白のハンカチで涙を拭く。

俺はその姿を見ながら、だな、と思う。

キャシーさんの言う通りだ。

お前が無事なら何でも良いのだ。


「無理はしないで。智明。本当に心配だから」


「そうだな鞠。しかし.....お前が無事で良かった。大博」


「俺はどうでも良い。お前が無事じゃないと死ぬから」


「お前な。そんな事言うな。お前にも待っている人は沢山居るだろ。良い加減にしろよ?」


それはそうだけどよ。

待っている人が居るけどよ。

俺にとっちゃお前も大切なピースの一部だ。

だから困るんだ。

居なくなったりしたら、だ。


「じゃあ帰りましょうか」


「.....そうですね。智明。また来るからな」


「おう。帰った帰った。ついでにお前は温泉で穂高ちゃんとイチャイチャしろよ。アッハッハ」


鞠も帰れよ、とニカッとする智明。

智明は手をヒラヒラさせながら俺を見送る。

鞠さんは名残惜しそうだが.....身体に負担が掛かるから、と。

帰る事にした。

俺はその姿を見つつ智明を見る。


「.....早く治せよ。智明。お前が居ないとシケるからな」


「おう。また温泉覗きしような」


「何言ってんだテメェは。殺すぞ」


「アッハッハ」


俺はキッとして思いながらも。

智明のグーにグータッチしてから。

そのまま旅館の宿に帰宅した。

最悪の日になったが.....取り敢えずは良かったと。

そう思いたい。



「何だか散々でしたね.....大丈夫でしたか?智明さん。」


「アイツは大丈夫だ。エロかったしな。スケベ野郎め」


「あはは。相変わらずだね。智明くん」


宿に帰って来ると。

直ぐにみんながやって来てからそう話した。

俺は全てを説明する。

門松先生が、御免なさいね、と謝る。

何ら悪くないのにな。


「大丈夫っすよ。門松先生。って言うか俺の責任ですし」


「でも.....御免なさい。貴方を守るべき必要があったのにね」


「親父が居るとは予想外だったので.....それは無理だと思います」


「.....大変な人生なのね」


はい、でも。

俺は周りのみんなに支えられて今を生きています。

だからそれだけで十分です。

と俺は穂高、そして仲、御幸、鞠さんを見る。


「.....有難う。みんな」


「何もしてないよ。はーくん」


「ですよね。あはは」


この先、何が待っているかは知らない。

だが.....それでも乗り越えてやろうと....固く決心する。

俺はこんな事じゃ挫けない。

親父、アンタを超える。

今回で.....だ。


「それはそうと.....その、はーくん」


「.....どうした?御幸」


「私ね.....えっと、デートの算段がついたの。その、穂高ちゃんのお兄さんとの、ね」


「.....それは結構じゃないか。良かったな。御幸」


うん、とっても楽しみ。

と笑顔を見せる御幸。

俺はその姿を見ながら.....旅行の片付けをする為に部屋に戻ろうとする。

すると仲が、大博、と謝って来た。

頭を下げながら、だ。


「言い出し辛かったけど.....また私の親父が御免な。.....その。君のお父さんと仲が良いとは思わなかった。.....私のせいだね」


「絶対にお前のせいじゃない」


「.....そうかな。でも私は.....」


そんな感じで居る仲の頭に手を乗せる。

そしてガシガシ撫でた。

俺は仲を見る。

何するんだ!?と言う感じの仲に、だ。


「俺の親父は元から狂ってるから。本気で何でもしでかす野郎だった。だから.....お前がそんなに責める必要は無いよ。お前の親父のせいじゃ無い。.....でも嫌がらせを受けているのは事実だから.....そこら辺は何とかしたいよな」


「.....そう言ってくれて助かるけど.....でも。親父のせいは有ると思う。だから一応家族として謝る。御免な。大博」


「.....」


仲にここまでさせるんだ。

アンタは相当な覚悟が要るぞ仲の親父さん。

貴方も許せない部分が有る。


親父を操り人形にして.....手駒の様にして。

自らで手を下さない。

天罰が下るぞ、と思いながら仲に笑んだ。

そしてみんなを見る。


「明日、帰宅だから準備しようぜ。今やらないと面倒だ」


「そうだね」


「ああ、そうだな」


それから俺達は各々部屋に戻ってから。

俺は自分の荷物と智明の荷物もまとめてやった。

しかし智明のその、エロ本だけは受け付けなかったが。

何でこんなもん持ってんだあの野郎。

思いつつ盛大に溜息を吐きながら荷物を纏めていった。



片付けたら何だか汗をかいた。

その為、智明のアホの分も含め俺は満喫しようと温泉に来た。

大浴場じゃ無いか。

思いつつ俺は頭からお湯を被ってから。


体を洗って温泉に入る。

全くな。

本当に色々有った。


「.....親父.....」


何で俺の親父はあんな親父なんだろうな。

考えながら俯くが.....何だか嫌な気分だ。

これはマズイと思いながら首を振る。

嫌な強迫観念だ。


「.....クソッタレだな。本当に.....ムカムカする」


身体の傷を見ながら.....思う。

そして目の前の窓から外を見た。

外は快晴の天気だ。

快晴とはいえ、もう夕方近くなのでオレンジだ。


「.....やめやめ。あんな親父の事を考えたってろくな事無いじゃないか」


馬鹿らしい。

思いながら俺は強迫観念を打ち消す様に。

首を振ってから立ち上がろうとした。

その際に横から声が。


「もうちょっと入ったらどうですか」


横に頭がツルツルの爺さんが風呂に入っていた。

俺にニコッとしている。

その事に俺は?を浮かべてその爺さんを見る。

そして聞いた。


「.....えっと、貴方は?」


「私はしがない年寄りです。貴方が何か悩んでいる様に見えましたのでつい声を掛けてしまいまして」


「.....」


言われるがままそのまま湯船に浸かる。

そして爺さんは前を見ながら、お風呂は気持ちが良いものです、と呟く。

それは確かにですね、と答えながら。

俺は湯船にしっかり浸かる。


「貴方は少年の様ですが人生を沢山経験してらっしゃる」


「.....俺はちょっと他の人の人生とは違う道を歩んで来たんです」


「.....その様ですね。何だかあまり良い道のりでは無かった様な顔をしてらっしゃる」


この爺さんは俺の心を見透かした様に話してくれる。

俺は何だか心地が良かった。

その言葉を聞きながら.....爺さんを見る。

私は.....戦争に生きたのです、と語る。


「私は実は兵隊でした。かつて。その事もあってなのか人の心がよく分かります」


「.....」


「貴方は今までの人生が本当に欠落してるかも知れません。これからも良い人生は歩まない可能性が有ります。でも.....幸せは目前に迫っている顔をしている。その心は忘れない様に」


「.....爺さん.....」


私は.....良い人生を歩んで来ていませんが貴方にはそれを勝ち取る力が有る。

大丈夫です、力強く歩んで良いのです。

と爺さんは立ち上がった。

そして歩んで行く。


「すいません、お先に失礼を。それに長話をしてしまい。年寄りの話のお付き合いに感謝します」


「.....いえ.....」


それから爺さんは頭を下げて去って行った。

俺はそれを見送ってから、そうなのか、と思う。

そして、頷いてから。

立ち上がった。

頑張っていこう、そう思いながら、だ。

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