第43話 改めて観光へ

穂高が涙を流して。

そして智明が立ち向かい救助を呼んで。

俺は何とか地獄の底から立ち上がりそれから前を見れた。


どうにも俺は不幸に好かれるらしい。

まるでどっかのラノベ主人公の様に、だ。

だけど今回は.....みんなが助けてくれたお陰で親父を退けた。


親父は諦めたのだ。

思いながら俺は宿の出入り口でみんなと会話する。

仲が心配げな顔と全く、的な顔で俺を見てくる。


「君は不幸に付きまとわれているね」


「.....だな。仲。俺としては最悪だけど.....俺はこれが俺自身と思っているしな」


「.....そんな事になっているなんて思って無かった。私.....御免なさい」


「大丈夫だ。御幸。死ななかったしな」


御幸を見つつ頬を指差す。

頬の傷にガーゼを張り付けてから俺は戻って来た。

宿でみんなが心配そうに待っていて俺はそいつらに、大丈夫だ、と言い聞かせる。

だけど側に立っている穂高だけは涙が止まらないようだった。

俺は心配げに見る。


「大博さんが無事で良かった.....本当に良かった.....」


その事をずっと言いながら泣いていた。

こんなに心から心配してくれる彼女も.....有り難いよな。

俺は思いながら穂高の涙を拭う。

大丈夫だ、と言い聞かせる。


「死んでないから大丈夫だ。穂高。これで死んでいたら流石に元も子もないけど」


「.....あと一歩遅かったらマズかったですよね」


「.....それは言えるかもな。アイツはもう化け物だし」


穂高は、ですよね、と子供の様に頷く。

その姿を見ながら.....俺は複雑な顔になる。

本当に化け物だ俺の親父は。

あれはもう親父では無いと思う。

いきなり殴るとか人じゃ無い。


「でも良かったぜ。お前が.....仮にも無事で」


「お前が知り合いを呼んでくれたお陰でな。マジに助かったよ」


「オネエが強いとは思わなかった」


「でもあんだけガチムチだしな」


だな、と智明は苦笑する。

御幸が涙を流した。

本当に良かった大博が無事で、と、だ。

そうだな、と俺は返事する。


「無理は禁物かな。でも楽しもう」


「そうっすね。先生。.....穂高」


俺は穂高に向く。

それからお姫様抱っこした。

穂高はいきなりの事に目をパチクリして、ほえぇ!!!!?、と真っ赤になってバタバタして奇声をあげる。

俺はそんな穂高を柔和に見つめた。


「行くぞ。穂高。デートだ」


「今からですか!?わ、私.....その、何もしてない.....その.....えっと!?」


「良いから。行くぞ。俺も何もしてないしな!」


「大博さん!?」


それから俺は智明を見る。

智明、あと任せた、と言いながら。

俺は駆け出した。

智明は、お。おう、と返事をしてくれて安心だ。

よし、楽しむぞ。


奪われた時間分を全部、楽しむ。

総力を挙げて、だ。



近くに有った湯畑という場所に来た。

その場所は4000リットルという温泉が湧き出ている場所だ。

いわゆる草津温泉の最大の源泉である。

徒歩でやって来れる場所だったのでやって来てみた。


「これは凄いですね。湯気がいっぱい」


「.....ああ。そうだな。確かに湯気がすごい。源泉だからな」


「あ!見て下さい!下の方.....薄緑をしてる。.....入れるかな?」


「熱くて入れないだろ」


ですね、あはは、と苦笑する穂高。

俺はその姿を見つつみんなにメッセージを打った。

勝手に出て行ってすまん、と、だ。

じゃないと心配するだろうし。


「でも良かったです。大博さんが大事じゃなくて」


「俺は身体だけは頑丈だからな」


「それは無いですよ」


「え?」


言うなり、穂高がいきなり俺を抱き締めてきた。

俺は驚愕して、ど。どうした、と言う。

背中、火傷の跡有りますよね、と泣きそうな声で小さく呟く。

俺は目を丸くしていたが、だな、と呟いた。


「だから強がらないで下さい。私は貴方が好きだけど.....強がるのは怖いです」


「.....穂高.....有難うな。でも良いんだけど周りの人達が、何事?、的な感じになってるぞ。観光客の人とか」


「はっ!?」


穂高は顔を上げる。

そして周りを見ると.....外国人が、oh!ナイス!、と言っていた。

俺は苦笑いを浮かべる。

穂高はかぁっと真っ赤に赤面していた。


「や、やらかしました.....」


「お前、気にせずに大胆な事をするけどその前の周りを見てないよな。何時も」


「.....は、はい。大博さん、移動しましょう」


「だな。うん」


そして俺達は移動を開始した。

次の目的地は熱乃湯という事になり。

その為歩いて西に行く。

そこに有るのだが.....確か共同浴場を改築したんだよな?

思いながらやって来た。



「あのような板で湯をもんだり踊ったり唄ったりするんですよね、確か」


「良く知っているな。そこら辺は勉強不足だ。というか踊るのか」


「はい。踊りますよ。因みにこのもみは温度を下げる為に行うらしいです」


熱乃湯に来た。

それから湯もみをしている目の前の人達を見る。

俺はその姿を見ながら穂高を見る。

穂高は穏やかな顔で見ていた。

俺も少しだけ笑みを浮かべて前を見る。


「流石は穂高だな。勉強したのか?」


「勉強って言っても.....観光マップ見ただけですけどね。色々とまだまだ勉強したかったんですが忙しかったから.....」


穂高は苦笑いと残念な顔を浮かべる。

その姿は.....何というか本気で残念という感じである。

俺は、そうか、と返事しながら見つめる。

穂高も相当に頑張ったんだと思う。

俺は頭をポンポンと触れる。


「大丈夫だ。十分楽しい」


「そうですか?.....良かったです。色々有ったから.....」


「.....本当にな。色々有ったよな。でも楽しいから俺は.....良かったって思ってる」


「.....だったら良いんです。大博さんが楽しいのが一番です」


それから俺に笑顔を見せる穂高。

俺はその姿に少しだけ口角を上げながら湯もみの唄に耳を傾けていた。

それは心地の良い感じに聞こえる。

膝で頬杖を突きながら俺は目の前を注目した。


「あ、そう言えば。私達みたいな人でも湯もみの体験も出来るみたいですよ。今思い出しました」


「ああ。そうなのか。穂高お前、体験してきたらどうだ?」


「?.....何を言っているんですか?.....大博さんも参加しますよ」


「冗談だろお前。あは.....は」


冗談じゃ無いですよ?

だって何処でも一緒が良いですから、とニコッとする穂高。

俺はその姿に苦笑した。


顔を引き攣らせながら、だ。

その.....め、目立つの嫌だなぁ.....。

思いながら引っ張られる。


「今回は女性と男性が参加してくれるみたいですね。ではこちらに」


笑顔を浮かべているおばちゃん。

そして俺は湯もみに参加する事になった。

穂高が花咲く様な笑顔を見せる。

そんな姿を見ながら.....俺は顎に手を添える。

親父に接触しない様に.....どう観光するかを考えながら、だ。

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