第38話 信也の後悔

穂高が夏風邪で倒れた様だった。

その為に俺は看病の為に穂高の家に泊まっていたのだが。

途中で御幸も助けてくれると言ってくれて合流してくれた。

夜、俺達は甘ちゃんと蜜ちゃんと共同で穂高を看病する。


その時だった。

聞きつけた穂高のお兄さんの信也さんが戸を勢い良く開けて帰って来た。

すまない仕事が忙しくて、と、だ。

そして直ぐに寝ている穂高を見つめた。

心配げな顔で、だ。


「本当にすまん。穂高は大丈夫か?」


「はい。今は熱が引いてます。それで寝ています」


「.....そうか.....」


ホッとした様に信也さんは畳に腰掛ける。

俺と御幸はホッとしている信也さんを見る。

信也さんは坊主頭を下げて俺にお礼を言った。

本当に有難う。看病してくれて、と、だ。

俺と御幸は首を振る。


「穂高ちゃんとても頑張ったんです」


「そうだな。御幸。.....穂高は相当に頑張りましたよ」


「.....すまない。本当に不甲斐ない兄で.....」


涙を浮かべる信也さん。

忙しいんですから仕方が無いです。

と俺は信也さんを複雑な顔で見つめる。


しかし見れば見るほどに痩せているなこの人。

と思ってしまう。

まるで.....その.....戦時下の兵隊の様に見える。

大丈夫だろうか。


「信也さん。貴方は無理してないですか?」


「.....俺はガチガチに鍛えられているからな。そんな簡単にはくたばらないし大丈夫だ」


「でも.....心配です」


「.....ハハハ。有難う。.....御幸さん。そして大博くん」


でも本当に大丈夫だ。

その、何だ。

穂高よりも.....だ。


だから俺、今度から仕事を減らそうと思ってる。

と信也さんは告白した。

俺は目を丸くしながら信也さんを見る。


「俺が無理をしたから穂高も無理をした。これじゃいけないと思うんだ」


「.....信也さん.....」


「俺のせいで.....穂高は無理をしたんだ.....馬鹿だよな本当に」


信也さんは言いながら自嘲気味に笑った。

俺はその姿を見ながら.....眉を少しだけ顰めた。

そして.....拳を握り締める。


どうしたら、どう言ったら良いんだろうな。

信也さんにどう、と思っていると。

御幸が信也さんの背中に手を添えた。


「穂高ちゃんはお兄さんを笑顔で迎えたい為に無理をしちゃったんだと思います」


「.....そうだよな」


「はい。穂高ちゃんはきっと誇ってますよ」


「.....え?」


信也さんは顔を上げる。

そしてどういう意味だ?と聞いた。

御幸は胸に手を添える。

それから信也さんを見た。


「信也さん。私は穂高ちゃんじゃないから分からないです。でも.....きっと穂高ちゃんは無理をしたと感じては無いですよ。それだけは分かります。穂高ちゃんは自分の仕事を.....誇っていた筈です」


「.....御幸さん.....」


「だからお兄さん。そんな感じで責めたら駄目ですよ。きっと穂高ちゃんは望んでいません」


「御幸さん。本当に良い人だな。.....彼女にしたいぐらいだ」


ふえ!?と真っ赤になる御幸。

だよな、それは思う。

御幸が彼女とかなったら本気で凄いと思う。

何がすごいかって言えば。

いい奥さんになる。


「大博くん。世話になった」


「いえ。俺はあと何日間かは居ます。穂高が完全に治るまで、です」


「しかし.....それだと君達のご両親に迷惑が.....」


「大丈夫です。俺も御幸も。許可を取って此処に居ます」


涙を浮かべる信也さん。

それから涙を流しながら穂高の頬に触れる。

良い人達を.....持ったな、と。

涙声で話した。

俺も涙が浮かびそうになる。


「あはは。良かったね。はーくん」


「そうだな。本当に」


涙を拭う御幸。

その姿を見ながら俺は.....穂高を見た。

俺の彼女だから.....直ぐに元気になる筈だ。

その様に考えながら穂高を見る。


「すまないが風呂に入って来る。その間.....見ていてほしい」


「はい」


「あ、信也さん。バスタオルとか着替えとか.....」


御幸が本気に奥さんの様に見える。

俺は苦笑いを浮かべながら穂高の頬に触れる。

その瞬間、少しだけ笑んだ気がした。

俺は目を丸くしながら直ぐに柔和になる。


「穂高。ゆっくり休めよ」


そして俺は立ち上がる。

何か出来る事は無いかと思いながら.....周りを見渡した。

で、俺は皿洗いをしようと思って台所に向かう。

そこに.....蜜ちゃんと甘ちゃんが寝ていた。


「.....頑張ったな。蜜ちゃん。甘ちゃん」


それから俺の上着を被せる。

お互いに寄り添いながらすやすや寝ている。

俺はその姿を見ながら笑みを少しだけ浮かべ。


そして台所を見ると。

カレーが有った。

俺が作った不器用なサラダの横に、だ。


「.....御幸が作ったんだな」


俺はそんな物は作れないから.....すげぇな御幸。

その様に思いながら俺はカレーを見る。

まろやかそうなカレーだった。


「.....後で御幸に聞くか」


そう思いながら穂高の元に戻る。

見ると穂高が起きていた。

そして前を見ている。

俺は首を傾げながら声を掛けた。


「どうした。穂高」


「はひ!?」


「.....ん?」


「も、大博さん.....えっと.....その.....」


ボウッと火が点く様に赤面して熱が出ている様に見える。

おかしいな熱は下がった筈だが。

考えつつ顎に手を添えて考えて.....俺も赤面した。

ま、まさか!!!!?


「おま.....覚えていたのか?」


「.....えっと.....はい.....熱で頭が吹っ飛んでいました.....」


「なんてこった.....」


俺は顔を引き攣らせる。

わ、私が悪いとはいえ.....恥ずかしいです.....。

と顔を覆って赤面させる。

当たり前だろうなそれは.....。

とそうしていると。


「あれ?穂高ちゃん起きたの?」


「!?」


「!!!!!」


御幸の声に。

俺はビクッとしながら、そ。そうだな、と回答した。

その様子に.....御幸が?を浮かべる。


そして、何かあったの?、と聞いてきた。

俺達は否定しながら、な。何も無いよ。あはは、と回答する。

声を合わせながら、だ。

御幸はジト目で俺を見据えてくる。


「隠したら駄目だよ?.....私には色々と分かるからね。話すなら今だよ.....」


「い、いや、なんもない。本気で本当に.....」


「.....なら良いけどね」


溜息を吐く御幸。

必死に隠したので何とかなったようだ。

俺は胸に手を添える。

そうしていると穂高が俺の手を握った。

お願いですから忘れて下さい、的な潤んだ目線をしている。


「は、はい.....」


言われてなんだけど.....暫くは忘れられないだろうな。

あの姿は.....。

本気で困ったもんだな.....。

思いながら俺は額に手を添えた。

よし.....何か別の事を考えて.....忘れよう。

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