第33話 智明を恥じらせる作戦 6、と仲の父親の電話

仲を見ていると本当に幸せに感じる。

俺がやって来た事は間違ってなかったとも感じる。

その様に思いながら俺は穂高を見る。

穂高は服屋で洋服を見ていた。


「でもあくまで見るだけですけどね。お金が勿体無いですから」


「相変わらずお前は遠慮がちだな。買ってやるのに」


「駄目です。軽々しく言わない事です」


だって.....将来の結婚式費用を貯めたいですから。

とニコッとする穂高。

俺は、しっかりしているな、と苦笑いを見せた。

そして服を俺も見る。


「.....でも良かったですね。仲さん」


「.....そうだな。俺としても良かったと思う。仲が.....あんな表情を見せたのは初めてだし.....俺も安心した」


「ですね。私もそう思いました」


「.....これからどうなっていくかは分からないけど.....仲も大切な仲間だから守りたい」


ですね、と穂高は笑顔を見せる。

俺はその表情を見ながら伸びをする。

そうしているとメッセージが入ってきた。

俺は首を傾げてそのメッセージを見る。

ん?


(大博。有難う)


その様にメッセージが来た。

俺は苦笑しながらメッセージに返事を打つ。

困ったもんだな。

俺は何もしてないってのに。


(だから俺は何もしてないっての)


(あはは。.....あ、でな、大博。報告して良いかな。私、暫くお兄ちゃんの家でお世話になる事になった)


え!?と思いながら目をパチクリする。

穂高もメッセージを読む。

そして驚愕する。

となると.....良和さんの家でお世話になるのか。

それはまた.....と思いながら返事を打った。


(家を暫く出るって事か)


(そうだね。ただ.....問題としては親父が納得するかだけど)


(.....そうだな.....)


仲の親父が厄介だな。

会ったことは無いけど.....本当に厄介だと聞いている。

何故かと言えば.....モンスターだから。

仲の件で学校にもそれなりに文句に言いに行くらしい。

思いながらスマホを握ると。


プルルルル


と電話が掛かって来た。

俺は?を浮かべてその電話画面を見る。

何故か.....仲の自宅番号?から掛かって来た。

まさかと思い、俺は恐る恐ると通話ボタンを押す。

そして言葉を発した。


「.....もしもし」


『.....もしもし。私は来栖という者だが。この電話は波瀬大博君の電話で正しいかね?しかしまた君かね。.....いい加減にしてくれないかね』


「.....」


『どうにか言ったらどうかな。仲を出し抜いて.....それなりに非常識だと思わないかね?私は怒っているんだが』


この口調で男の声。

多分.....仲の親父さんだ。

相変わらずとっつきにくい感じだ。

俺は不安げな穂高に言い聞かせて話す。


「申し訳有りません。仲ですけどね。仲は俺に救助を求めました。だから当たり前の事をしただけです。出し抜くことなど全くしていません。それにこの番号何処で知ったんですか?」


『仲の人間関係の情報などは常に精査して預かっているからね。それは良いんだが.....恥を知ってほしいな。君のお陰で色々と狂っているのだが』


「.....貴方こそ恥を知ったらどうですか。仲の情報を預かっている?馬鹿なのか?」


『彼女の近辺を変なものが無いか精査するのは当たり前だと思うがね。それに彼女は私の理想に育てる為に居る』


ちょっと待て。

本気で何を言ってんだ此奴。

何と言うか心底の馬鹿なのか?

俺は唖然としてしまった。


理想って何だ?その事で家を飛び出した二人はアンタのせいだろ。

アンタが仲と良和さんを苦しめたんだろう。

思って捲し立てようとしたが。

深呼吸した。


「すいません。ごめんなさい。意味が分からないです」


『では用件だけ失礼させてもらうよ。私も診療で時間が無いのでね。君のやっている事は自らを破滅へ導いている。何時か後悔する事になる』


「.....それで?何ですか?逆に此方から言いますけど.....貴方のやっている事は仲を破滅へ導いています。そして良和さんも破滅へ導いていますよ。後悔は貴方がするべきです」


『君と話していると腹が本当に腹が立つな。知らないぞ。これから先君の身に何が起こっても。後悔するなよ』


ではすまないが失礼するよ。

と電話はブチッと切れた。

俺は盛大に溜息を吐きながら不安そうな穂高を見る。

そんな穂高の頭に手を触れて笑みを浮かべる。

そして真剣な顔をした。


「穂高。お前の身に何が起こっても。そして.....みんなの身に何かが起こっても。俺が守るからな」


「.....何を言っているんですか?」


俺の手を握ってくる穂高。

そして俺を見てきた。

にこやかに、だ。

そして俺の頬に触れてくる。


「大博さんだけじゃないです。私も.....貴方の全てに入らせて下さい」


「.....お前を巻き込むのは.....」


「私を巻き込みたくないのは分かります。でも.....私はそのままで居るぐらいなら大切な人と一緒が良いです」


「穂高.....」


だから私もずっとずっと一緒です。

と赤くなりながら柔和な笑みを浮かべた。

俺はその姿に頬を掻きながら、有難うな、と呟きながら。

そのまま前を見据えた。


何でこんなに幸せを構築するのは上手くいかないのだろうか。

その様に思ってしまう。

悲しいというか.....複雑だ。

本当に、だ。


「俺は恐らく相当に巨大な何かにぶち当たると思う。ついて来てくれるか」


「勿論です!」


「.....有難うな。穂高」


「何を言っているんですか?私は大博さんの彼女ですから」


と手を握る、穂高。

俺はその手を握り返して、じゃあデートの続きをするか、と言った。

今は嫌な事は忘れるべきだ。


絶対に、だ。

確実に事は傾いている。

気を付けないとな.....。



(仲。親父さんから電話が有った)


(え.....そんな.....大丈夫だった?)


(相変わらず歪んでいるよ。あの人)


(.....まあ確かにね。本当に勉強の成長が全てだから)


穂高が洋服を試着している間。

俺は仲とメッセージをやり取りしていた。

仲は本当にショックを受けている様だ。

だよな。


「.....取り合えず何も起きない事を.....祈りたいもんだな」


俺は眉を顰めて思いながらスマホを握る。

一体何故この世の中は上手くいかないのだろう。

そして.....何故仲にあんなに背負わすのだろうか。

もういいじゃないか。

自由になったって。


「大博さん?どうしました?」


「あ、ああ。仲。.....何でもない。可愛いじゃないか」


「あ、有難う御座います。ワンピースですけど.....可愛いですか?」


「ああ。似合ってる。可愛い」


俺は笑みを浮かべる。

その様子に照れ笑いをしながら穂高も笑顔になった。

この笑顔を絶対に絶やしてはならない。

そう思ってしまう。


「大博さんに言われたら嬉しくて何でも着たくなります」


「.....そうなのか」


「はい。私.....褒めるのを言われるのが嬉しいです」


えへへ、と頬を掻く穂高。

俺は少しだけ笑みを浮かべながらスマホを仕舞う。

それから穂高の頬にキスをした。

え、と赤面する穂高。


「可愛いよ。穂高」


「.....も、大博さん.....」


「よし。それ買ってやるよ。これは奢りじゃない。お前が可愛くなるから」


「.....え!?駄目ですよ!」


馬鹿か、何も買わないデートとか嫌だろ。

と俺は穂高にチョップする。

穂高は.....分かりました。じゃあ.....お願いします。

とモジモジしながら言ってくる。


「お値段は安いですから」


「そうか」


「えへへ。大切にします」


「有難うな」


そうしていると呼ぶ声がした。

俺達は顔を上げて見る。

何故か鞠さんが居た。

可愛らしい姿で出掛ける姿で、だ。

何をしているのですか?的な感じで、だ。


「ああ。鞠さん。久々ですね」


「そうですね。偶然見掛けたので.....」


「.....」


俺達は顔を合わせて頷き合った。

秘密を厳守しないとな。

約束の日まで。

でもこの事は告げておこう。


「鞠さん。智明と共にお礼をしたいので近所のカフェに来てください。ひだまりっていうカフェです」


「え?お礼ってなんのですか?」


「勿論、日ごろの、です」


「.....ですが私は.....そんなに何も.....」


良いですから♪と穂高は鞠さんの背中を押す。

俺はその姿を見ながら。

全ての本音は隠しながら、だ。

本音というのは.....智明を恥じらせる作戦だ。


「今度、来て下さい」


「は、はい.....分かりました」


「あはは」


俺は柔和になる。

さて、準備は整いつつあるな。

この先.....をどう描くか。

そしてどう仲の親父に対するか。

全てを考えなくてはいけない.....。

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