第32話 智明を恥じらせる作戦 5、と.....仲と良和と

「まあ茶でも淹れるから取り敢えず飲めよ」


「あ、はい.....」


「はい.....」


良知さんの店の入る花屋に入る。

それから俺達は周りを見渡す。

確かに本格的な花屋だ。


何故かと言えば花がショーケースなどに入っている。

そして色とりどりの花が咲き誇っている。

繊細な感じで飾られていたりもする。

壁が剥き出しの状態のシンプルな感じの花屋と言えるかも知れない。

ペンキとかで塗り固められている訳でも無い。


因みに殴られた不良に関してだが病院に運ばれて行ったが後は知らない。

そんな感じでさっきの事を考えながら。

俺はエプロンを付ける良知さんを見つめる。

良知さんは胸元から煙草を取り出した。

そして俺達を見てくる。


「吸っても良いか」


「あ、はい」


その様に答えた俺。

穂高も別に気にしないようだ。

そして良知さんは煙草に火を点けようとしたがもう一度煙草を見た。

それから、でも良いや。お前らの健康に悪いしな、と呟き咥え煙草に変える。

そうしてから俺と穂高をニヤッとしながら見てくる。


「さて.....お前らが何処まで俺の妹の仲の事を知ってんのか。聞きたいんだが」


「そうっすね。えっと.....仲は俺の幼馴染です」


「.....ああ確かにそんなのが居たってのは聞いてる.....が」


しかしそれが事実とはな。

風の噂って感じだったんだがな。

そうか.....仲にも一応優しそうな友人が出来たんだな.....、と小さく呟いた良知さんに対して穂高が、は。はい、と手を上げた。


それから、聞いても良いですか?、と言葉を発する。

良知さんは、良いよ彼女ちゃん、とニコッとする。

そして穂高は質問した。


「あの.....何で貴方と仲さんはそんなに年の差が有る様に見えるんですか?あと.....仲さんの事.....5年ぶりに名前を聞いたって.....色々気になります」


「ああ。それらか。.....実はな俺は今、38歳なんだ。こう若く見えてもな。分かると思うが.....仲とはかなりの差が有る。.....実は俺は10代の時に仲が生まれる前に家から家出の様に出て行ったんだ」


「.....え.....」


かなりの衝撃だった。

更に良知さんは煙草を噛みながら物耽る様な感じで話を続ける。

親父は俺に期待していたようだがな。

だけど俺はその期待は重すぎたんだ、と。

言葉を切ってから花を見る。


それから直ぐに児童保護施設を18歳で卒業してから20になった時に風の噂で聞いたよ、丁度、女の子が親父の元で産まれたってな。

だけど俺は親父に阻まれてね。

結局俺は仲に会えず仕舞いで.....仲という名前を知ったのも相当後だった。


と言葉を発して煙草を口から取ってからそれを寂しそうに眺める良和さん。

俺は.....眉を顰めながら話を聞く。

そして穂高は涙を浮かべて聞いていた。

そんな事って現実にあるのか.....と思ってしまう。


「因みに5年ぶりに名前を聞いた。その理由だが簡単に言えば生まれた時は親父が会わせてくれなかったけど母親が俺の元に仲を度々連れて来てくれたんだ。この街では無い場所だがな。だけどこれも親父にバレてね。それ以降は5年近く会ってないんだ。いや、会えないというか。それで久々に仲の名前を聞いたって言ったんだよな」


「.....すいません。えっと.....仲はこの事は知っているんですか?」


「知っている。だけどな。俺の事を話すのは禁句なんだ。俺の存在も全てが親父にとってはな。親父は俺を.....居ない存在として扱っているから」


「そんなの許せないです!!!!!」


と穂高がいきなり叫ぶ。

同じ兄妹が居る身として.....許せないです.....!と涙を流しながら穂高は言う。

すると良和さんが、落ち着け彼女ちゃん、と笑みを浮かべて宥めた。

優しいな。俺は大丈夫だからな、とも言う。

そして良和さんは前をまた見つめる。


「俺はもう居ない存在と言える。だからお前らに頼みが有る」


「.....何ですか?」


「.....何処に住んでいるか知らないが.....仲を守ってくれ。お前ら友人なんだろ?」


その言葉に俺は見開いて.....静かに頷いた。

それから良和さんを見つめる。

住所を教えようと思ったが.....良和さんはそんな雰囲気は見せなかった。


それで良い。

と立ち上がる良和さん。

ニヤッとしながら俺の頭をガシガシ撫でた。


「随分、物分かりがいいじゃねーか。彼氏。彼女は良い彼氏を持ったな?」


「.....はい。この人と居て幸せです」


「がーはっはっは!!!!!そいつは結構!」


思いっきり高笑いした良和さん。

そして、そういやお前ら。もしかして花屋に用事とか有ったのか?、と聞いてくる。

俺達は、ハッとして良和さんを見る。


友人の為にブリザードフラワーが欲しいです、と俺達は頷き合って言葉を発した。

すると良和さんは任せろ、と言って立ち上がる。

その瞬間、前を見ていきなり唖然として煙草を落とした。

俺は?を浮かべる。


「.....良和さん?.....あ.....」


俺は何事かと背後を見る。

穂高も背後を見た。

そこに.....何故か知らないが仲が立っている。

そして涙を浮かべていた。

顔が有り得ないと言っている様だ。


「.....お兄ちゃん.....」


「いや、ちょっと待ってくれ。仲。お前どうしてこの場所が?前に会った街や場所とは違うのに.....」


「いや、大博達の写真を撮りに来たら.....偶然だったよ」


「.....」


仲は涙を拭う。

でも、お、お兄ちゃんなの?本当に?

とゆっくりと涙目で寄って行く仲。

そんな仲に対して良和さんは歯を食いしばった。

それから逃げようとする。


「駄目です!逃げないで下さい!」


「俺は会っちゃいけない存在なんだよ。だから.....!」


「逃げて何の得になるんですか!?せっかく仲さんが来たのに!」


と言いながら良和さんを必死に止める穂高。

俺はその姿を見ながら仲を見る。

良和さんは仲を見ながら.....目を逸らしていた。

俺はその良和さんに声を掛ける。


「せっかく仲が来たんだ。.....会ってやって下さい」


「.....」


だが俺は.....、と言う良和さんを仲が勢いよく抱きしめた。

そして.....仲は涙を流す。

ようやっと会えた.....と、だ。

良和さんはされるがままになっていたが途中で涙を浮かべた。

そして涙を拭ってから仲を抱き締める。


「ごめんな。こんな事しちゃ駄目って分かるんだがな.....本当に」


「ちょ、く、苦しいよお兄ちゃん.....」


仲は嬉しそうに悶える。

俺達はその姿を見ながら.....笑みを浮かべて見つめ合う。

それから.....俺は仲を見た。

仲は久々の再会を噛みしめている様だ。


「仲。良かったな」


「.....うん。有難う。大博」


本当に偶然に偶然が重なった結果だろう。

だけど.....こうして兄妹は再会出来た。

俺は柔和な顔で見つめる。

穂高は安心した様に泣いていた。

仲は俺を見て来る。


「有難う。君はまた一つ奇跡を起こしてくれたね」


「お前のお陰だろ。俺は何もしてないじゃないか」


「いや。君のお陰だよ。感謝するよ」


その言葉を受けながら俺と穂高は見つめ合った。

また後でブリザードフラワーを貰おうかな、と考えを一致させた。

そして良和さんに向く。

それから話した。


「良和さん。後でまた来ます」


「せっかく再会出来たのをお邪魔する訳にはいかないですから」


「え!?で、でもお前ら.....時間が無いんじゃ?」


良和さんは驚きの顔を向けてくる。

俺は良和さんにハンカチをそのまま返した。

良和さんはそれを受け取りながら.....俺と穂高を交互に見る。

俺は穂高を見た。


「じゃあ行こうか。穂高」


「ですね。はい」


「ちょっと待て、彼氏。待ってくれ」


「?」


呼び止められた。

俺は振り返って良和さんを見る。

良和さんは、これを持っていけ、と投げてきた。


俺は?を浮かべて慌ててキャッチする。

何だこれ?

加工された親指の先ぐらいの金貨の様な.....。

俺は良和さんを目を丸くして見る。


「それは仲に会う為のお守りだったものだ。だけどお前に託す。それは別の意味で恋が実るとされるお願いを込めた金貨でも有る。普通の金貨じゃ無い」


「え?でもこれってかなり高いんじゃ.....」


「確かにな。でも俺は仲に再会出来る様にその金貨を胸に着けていた。それでこうして仲に会えた。もう俺には必要無い。お前らの恋が完璧に実る様に祈ってる」


「.....」


その金貨を握り締める。

そして俺は首元に身に着ける。

それから良和さんを見た。

穂高も良和さんを静かに見つめる。


「感謝します。大切にします」


「ゆっくり話してね。仲さん」


「.....はい」


「有難うな。お前ら」


何だか気分の悪い1日になるかと思った。

だけどこうして.....仲は自ら会いたい人に会えて。

だから気分は良い日なんだろうと思える。

その気分の良い日に横に大切な人が居て.....俺は。

幸せ者だな、と思えた。


「じゃあデート再開するか」


「そうですね。大博さん」


そして穂高は腕を絡ませてきた。

俺はその穂高の腕に触れる。

それから笑顔を見せた。

俺達の、だ。

胸元で小さな金貨が光る。

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