第30話 智明を恥じらせる作戦 3、と家出?

女子を家に泊まらせるのも如何なものかと思ったが。

このまま放って置くと何と言うか仲は路頭に迷う事になると思った。

警察のお世話なんてあっという間だろう。

その為に俺は仲を家に泊まらせる事にして俺は穂高などにメッセージを送信した。


彼女が居るのに家に女の子を泊まらせるのもそれも如何なものかと思ったのだ。

すると穂高は、事情は把握しました大丈夫です、とオッケーメッセージをくれた。

俺は、有難う、と思いながら仲を見る。

そんな俺の目線に、すまないね、と仲は頭を下げた。

俺は少しだけ笑みを浮かべる。


「気にするな。お前と俺の関係だし」


「とは言えども配慮が欠ける行動をしている。本当にすまない」


「そこまで言うならその分のお返しが欲しいかもな」


冗談めいて言う俺。

だが言葉に目を丸くした仲。

それから.....、お返し?、と呟く。

だけどその言葉に、冗談だよ、と苦笑気味に言いながら座布団に座りなおす。

しかし何かしら考える様に仲は顎に手を添えた。


「.....じゃあ私の昔話はどうかな」


「.....え?.....え」


「.....昔の話だよ。君と別れた後の」


俺は驚愕した。

冗談のつもりだったのだが.....と言うか。

まさか仲がそんな事を言い出すとは思って無かった。


そして息を吸い込んで吐いた仲。

俺に向いて話し出す。

ちょうど俺と別れた後の成長の話を。



「実は私は君と別れた後に受験でしか入れない様な私立小学校に入学してね。勉強ばかりを親父に教え込まれたんだ。だけど私は本当に嫌で嫌で仕方が無くてね」


「.....小学校入試か.....」


「そうそう。それで小学校にはスパルタでなんとか登校出来たんだけど.....段々とその辺りからストレスが溜まってきてね」


「.....」


お茶の入ったグラスの水滴をなぞる仲。

俺はそれを見ながら横を見た。

そして仲は目の前を複雑な、何とも言えない顔で見て話す。

俺に耳打ちをする様に、だ。


「正直言って.....私はあの時点で本当の私の人格が死んでいる。だから私は.....今の人格が本当の人格では無い気がするんだ」


「.....お前の父親って公務員とか聞いたような気がする。合ってるか」


「そうだよ。高貴なお方でね。公務員なんだ。家はそれなりに豪華でね。でもその代わり私に対しては期待の眼差しを向けられていてそれがまたストレスで仕方が無かったよ」


「.....お前が公務員になれるようにってか?」


まあそんな感じだよね、と苦笑いを浮かべる仲。

それから複雑な思いを抱えながら、これで良いのかなって思いながら。

辞めたいなって思いながら私は小学校を卒業したんだよね。


ともう一度、今度は苦笑する仲だった。

俺はその姿を見ながら複雑な顔付きになる。

仲は壊れていったんだよね、と笑みを浮かべた。


「中学も受験だったけど。勉強の件で親父に殴られてね。いざこざも有った。勉強したくないって思ったいざこざがね。それで逃げたんだよね。でも直ぐに保護されて警察のお世話にもなった。こんな感じで君に助けられる事は無かったから」


「.....」


「でも何だかな。神様は馬鹿野郎だね。私を結局、中学に合格させてしまった。だから私は通ったんだけど.....今度は家が金持ちだからといじめが始まってね。それはまたカツアゲが酷くて相当なストレスになったんだ」


まあ簡単に言えば天への階段を上がって行く度に追剥に遭って服が脱がされる様なそんな感覚だった、と仲は溜息を吐く。

俺は目を逸らしながら.....、そうなのか、と呟く。

仲は、うん、と笑みを浮かべた。


「結局の話、この世界は皮肉ばかりだよ。助けは無いと思ったね。だから私は心を閉じてしまったんだ。高校にも合格したけど」


「こっちにやって来たのは?」


「.....親父が転勤したからだよ。だから来たんだ。私には失望している様に見えるけど.....それで良かったと思ってる。お母さんも入れなかった私の心に入って来て時間が掛かったけど私を守ってくれているからね」


まるでライトノベルにでもありそうな展開だ。

思いながら俺は複雑な顔をした。

何で助けれなかったのだろう。

助けたかった。


「でも私はようやっと生きる希望を見つけたんだ。君のお陰でね」


「俺のお陰?」


「君が窓の外で元気に学校に通っている姿を見て.....私はやる気が出たんだ。だから学校にもう一度行ってみようってそんな気になったんだ」


「.....俺は何もしてないじゃ無いか。それは反射的行動だろ」


でも現に君は助けになっていたんだ。

私の.....助けにね。

だから君と一緒なのが、君に好きな人が出来た事が。

私にとっては母親の様に嬉しいんだよ。

と仲は言う。


「.....仲.....」


「私は君の思いに応えられなかった。だけど今度は穂高が応えてくれる。だから私は安心して君を見れる。穂高が君を守ってくれるって信じている。穂高と君はきっと引き合う運命だったんだろうね。本当におめでとうって言いたいよ」


「.....だから俺はお前が好きだったんだよ」


「あはは。有難うね。でも.....本当に嬉しいよ」


「.....」


俺と仲は笑み合う。

そして暫くすると扉が開いた。

それから母さんが入って来くる。

ただいま、と言いながら、だ。


「母さん」


「お母様、ご無沙汰です」


「いらっしゃい。仲ちゃん」


仲はずっと.....衝撃的な人生を歩んできたんだな。

本当に感謝しかない。

仲が居なかったら成り立たなかっただろうな。

俺は、と思う。


「あ、そう言えば」


「ん?どうしたの?」


「智明のデートプラン考えているんだけどさ、お前も協力してくれないか」


「デートプラン?」


ああ、と言いながら俺は解説する。

それは何とも面白そうだ、と仲は笑みを浮かべた。

それから仲はニコニコしながら話を聞く。

俺はその姿を見ながら.....、父親との関係が上手く行けばいいのにな、と思う。

いや、割と本気で、だ。



「君の家に泊まるのも相当に久々だから.....何だか幼稚園以来で嬉しいというか」


「.....そうだよな」


俺はご飯を食べる仲を見ながら。

ニコニコする母さんに向いて笑みを浮かべ。

ご飯を食べる。

今日の料理はナポリタンだ。


「しかし仲。料理も出来るんだな」


「そうだね。私は習うのは好きだから」


「お陰で助ったわ。仲ちゃん」


そう言いながら母さんはニコッとする。

今日は調子が良いんだろうな。

こんなに笑顔を見せるという事は.....だ。

思いながら俺は少しだけ笑みを浮かべる。


「智明くんの事に関しては穂高のやり方で良いと思う。喜ぶんじゃないか?その前に恥ずかしい結果になると思うけど」


「だよな」


「どうせならフラッシュモブでも追加でやったらどうかな」


「.....あー。それ良いかもな」


それはそれで楽しいかも知れない。

考えながら楽しそうに話す仲を見つつ。

ナポリタンを食べる。

そして.....改めて智明の事を考えた。


「しかしそれはそうと智明くんの事になると一生懸命になるね。君は」


「俺を何時も助けてくれる奴だからな。助けられる側が俺だ。いい加減に何かしてやりたいって思ったんだろう。アイツの為に」


「それだけ絆が深いって事だね。君達の仲が羨ましい。.....私は友人に裏切られたから。人間関係が嫌いになったよ」


ポツリと呟く。

俺は衝撃に目を丸くした。

そして聞き返す。


「.....それはお前。初めて聞いたぞ。何を裏切られた?」


口元を抑えてハッとしてナポリタンを食べていたフォークを置きながら。

俺と母さんを交互に見てくる仲。

そして俺に苦笑いを浮かべ俯く。

君に話したら君は怒ると思ったから.....君に話せなかった。

と俺を複雑な顔で見てくる。


「いやいや、お前な.....怒ったりしないぞ俺は」


「.....怒らなくても君は負担になるだろう?君に負担は掛けさせたく無いと思ったから。それもあって私は多分そのせいであまり人と一緒に居たく無いんだろうと思う。また.....色々とやらかしてしまいそうでね」


「.....」


俺は堪らず溜息混じりに仲の額を弾いた。

まさかの事だったのだろうけど、痛い!、と言いながら俺を見てくる仲。

俺は少しだけ睨む。

なんでそう溜め込むかな。

確かにそうだけどそれで自殺とかしたら元も子もない。


「お前は俺とは違うと否定ばっかしていたけど完全に俺と同じ道じゃないか。頼むから自殺とかは絶対に止めてくれ」


「.....え?えっと.....」


「仮にもお前は女の子だろ。自らが頑丈と思っていても頑丈じゃ無いのが女の子だ。男と違ってな。だから下手な真似をするな」


そう告げると反応が変わった。

涙を浮かべて拭った仲。

そして俺を困惑する目線で見てきた。


「.....えっと君は何か?女の子を惚れさせるのが好きなのかい?流石にそこまで言われると困るんだけど」


言葉に、へ?、と言いながら俺は見開く。

そんなつもりでは無かったのだが。

赤面しながら慌てる。

母さんも、あらあら、と言う。

俺の様子に盛大に溜息を吐いた仲。


「穂高以外にそんな事をしちゃ絶対に駄目。惚れさせる気?優柔不断だね」


「.....そんなつもりじゃ無かったんだが.....」


「そんなつもりじゃ無い?それだったらもっと気を付けないと。穂高に失礼だからね」


「あ、はい.....」


少しだけ赤い顔でジト目になる仲。

何だか説教を受けてしまった。

そうか.....俺って無自覚なのか.....。

俺は顔を引き攣らせながらそう思う。

気を付けないといけない.....。


そんないざこざな感じで夜は更けていった。

それから翌日になり.....。

連休だったので穂高達がちょうど、俺達を心配げにやって来た。

お見舞いの品を持って、だ。

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