第27話 告白

同い年の栗谷御幸。

そして一つ学年下の七水穂高。

俺はこの少女2名に心から愛されている。


そして普通の日常をただ過ごしていたのだがある日の事だ。

本屋で出会った滝水千歳という穂高の友人の少女が俺に対して『何時までも好きと言ってくれている女性からダラダラと逃げていても仕方がないですよね?』と厳しめに俺に背を押す様に言った。

確かにそうなのかも知れないな。

俺は.....決断を先延ばしにし過ぎている気がする。


俺は何もかもを遠ざけていたのだ。

今現在の俺の状況に巻き込んだら怖いから、だ。

簡単に言うと俺の親父とのいざこざの関係の全てに巻き込んでしまう可能性が有るかも知れないと思ったから、だ。


だからどうしても.....と思っていたのだ。

だけどそれは逃げでしかならないと改めて考えると思う。

改めて考える。

確かに俺は全てから逃げているのだ。

恋愛も何もかもを後回しにして、である。


女性達が待っているのに俺は男として、先輩として。

全てに結論を出さずに背を向けていた。

俺は本当に好きな相手は誰なのか。

部屋の椅子に腰かけて夜、顎に手を添えて考える。

滝水と穂高が帰って母さんが帰って来てから、である。


でもこんな暴力的な奴が.....幸せになって良いのだろうかと脳裏を掠めるが。

俺は今度こそはとそれを打ち消す様に首を振って考える。

この考えは適当じゃ駄目だ。


歩行者信号機をボタンを押さずに待って青にする様な。

宝くじで数字を適当に選ぶような。

適当に買った初めての飲み物にガムシロップを溶かすような。


これでは絶対にいけない。

今度はマジに考えないといけない。

俺は考える。

一日しか猶予は無い。

その中で俺は本当に好きなのは.....そうだろうな。


絶対にアイツだと思う。

何時も心で寄り添って.....その背中は一緒に居たいと思える背中だ。

俺は.....その姿に一緒に居たいと思えたのだ。

初めてだろうな、そう思えたのは。

アイツのお陰だ。



この近所には丁度いい感じの公園が有る。

どういう公園かというと小さな資料館が隣接されてあるような。

そんなとても綺麗な公園だ。

ウィン〇ウズ95の背景の様なそんな感じの公園である。

ゴミも無くここ最近、市民の憩いの場として造られた。

俺はその場にやって来る。


御幸と穂高を呼び出したのだが今日は丁度.....土曜日だった為に二人は直ぐにと来てくれた。

俺はそれなりのファッションでやって来たのだが.....可愛らしいこの二人には負けるな、と苦笑気味に思いながら御幸と穂高を見る。

二人は気が付いた様に手を振る。


「どうしたの?はーくん」


「大博さん」


智明も一途に女性を愛している。

だから俺は。

今日こそ全てを決めよう。

思いながら二人の前に立って顔を上げる。


「二人とも。今日は来てくれてサンキューな。大切な話が有る。聞いてほしい」


「.....え?」


御幸が目を丸くする。

穂高は少しだけ不安そうに口元に手を寄せる。

俺は目を閉じて一旦、深呼吸した。

そして目を開ける。

それからゴクッと喉を一回鳴らし告げる。


「俺な、好きな人が居るんだ」


「.....うん。それは知ってるよ」


「.....え?!」


御幸がとんでもない事を口走った。

俺は、穂高は見開いて御幸を見て驚愕する。

予想外の言葉だ。

御幸は近くの遊具に腰掛ける。

そして遊んでいる子供を見つめてから俺を見てくる。


「長く一緒に君と居るんだよ?気が付かないとでも思った?」


「.....御幸。じゃあ.....」


「.....君の好きな人、当ててあげよっか。代わりに」


「.....」


少しだけ複雑な顔で横を見る。

すると御幸は語りだした。

私の予想はね、きっと穂高ちゃんだと思う。

だってこんなにいい子は居ないよ?他に。

もったいないよ。


今、獲得しないと、と御幸は言葉を発した。

俺は額に手を添える。

駄目だなこりゃ。


「.....お前には勝てないな。やっぱり」


「勝てないよ。だって私、年頃の女の子だもん」


「.....え?じゃあちょっと待って下さい。それだと私に.....え?」


俺達が会話している姿に、うろたえながら涙を流し始めた穂高。

そして俺を静かに見てくる。

俺は少しだけ穂高に近付いた。

穂高は困惑しながら.....後ろに後ずさりする。

するとその背中を御幸が押した。


「み、御幸さん.....」


「.....逃げる気?駄目だよ。穂高ちゃん。私は横に立てないと思っているかも知れないけど君は本当に幸せに出来る力を持っているよ。私より遥かに、ね。はーくんを。逃げるなら怒るよ」


「.....」


その手に押され歩き出す穂高。

そして上目づかいで俺を見てくる。

ほ、本当に私で良いんですか?と見てくる穂高。


ポロポロと涙を流しながら.....と言うか嬉し涙だろう。

俺は頷いてそして地平線を見るようにそっぽを向く。

それから考えたことを全部話した。


「俺な、昨晩に一生懸命考えた。考えまくった。それも午前4時ぐらいまで。だから今日はマジに寝不足だ。でもなそれで答えを考えると.....お前が常に俺の胸の中心に居たんだ。だから穂高さん。これからは俺をずっと支えてくれ」


その言葉に。

号泣しながら、はい、と頷いて笑顔で答えた穂高。

そうしているとカシャッとカメラ音が聞こえた。


俺達はびっくりして背後を見る。

そこには.....何故かグラサンで変装した滝水が。

ついでに同じ様に眼鏡で変装した仲が居た。

俺達は顔を見合わせる。

そして驚愕した。


ちょっと待ってくれ。

一体、何をやってんだコイツらは!?

すると眼鏡を取りながら滝水を指差す仲。

俺は?を浮かべる。


そして滝水も仲を指差した。

ちょっと待って。コイツ誰、的な感じで、で有る。

と言うかお前らどっから聞きつけたんだ。

俺は溜息を吐く。


「ちーちゃんそれは無いよ.....」


「仲。お前は何をやっているんだ」


俺達は二人、呆れる。

御幸はクスクス笑っていた。

いや、割とマジに何をやっているんだコイツらは。


仲は、いや何だか大博の所に行こうとしたらいい雰囲気の感じの皆さんを見つけて、と解説する。

滝水は、私は知っていたから、と解説する。

そして見つめ合う二人。


「いや、だからと言えど変装して来るなよ.....」


「まさか告白の現場に遭遇するとは思って無かったからね。あはは」


「仲さん.....」


仲は、でもおめでとうねお二人さん、と拍手した。

滝水も嬉しそうに拍手する。

よく見ると子供達も何か分からずだろうけど同じ様に手を叩いて拍手していた。

俺はオイオイと思いながら穂高を見る。

穂高は嬉しそうに俺の手に触れて。


でも本当に改めて宜しくです、と俺の手を優しく握ってくる。

俺はその言葉に、ああ、と返事しながら握った。

御幸も拍手をしてくれる。

そして笑みを浮かべた。


「おめでとうね」


そのまま暫く何だか知らないが結婚式場の花嫁と婿の様な感じで拍手された。

これ結構、恥ずかしいんだが.....。

俺は改めて穂高を見る。


穂高はクスクスと笑みを浮かべて横に立っていた。

でも.....これからどんな事が有ろうとも穂高を守りたいな、本当に。

絶対に泣かせないようにしなくてはいけない。

何故なら御幸の最大の願いだから、だ。

決意して思いながら居ると。


「そう言えば貴方とは同じ匂いがしますね」


「奇遇だね。私もそう思ったよ。こんな真似をするぐらいだから」


滝水と仲がそう言いながら会話している。

俺はその事に穂高と顔を合わせてから仲に説明した。

滝水の事を、だ。

仲は、え?、と驚きながら目を丸くする。

それから成程、とニヤッとした。


「そうなんだね。君とは一杯やれそうだな」


「おじさんかお前は.....」


俺と穂高と美幸は苦笑する。

でも確かにな。

仲と滝水は上手くやれそうな気がする。

思いながら仲を見る。

そして提案をした。


「仲。アドレス交換したらどうだ?」


「そうだね。確かに」


「しますか。うん」


そしてアドレス交換する二人。

それから笑み合った。

仲間の感覚の様に、だ。

何だか良い感じだ。

思っていると穂高が俺を見てきた。


「あはは。本当に良い感じですね」


「ああ。偶然だが.....そこそこには良い感じだな」


「そうだね。はーくん」


俺達は見合う。

それから俺達は会ったのも何かの偶然だしこのままどっか行くか?

と俺は仲と滝水を見てから笑みを浮かべた。

仲は、うーんあまり外歩きたくないけど.....楽しそうだからね、と笑みを浮かべる。


じゃあイエスって事だな。

で、そうしていると。

遥か彼方から誰かが走って来ている.....オイ!?


「うおおおおおおおおお!!!!!ドロップキーック!!!!!」


「うわ!何をやってんだこのクソ馬鹿!!!!!ぐああああ!!!!!」


飛んできたのは逆三角形の目をした智明だった。

何考えてんだこのクソ馬鹿!

思いながら倒れた俺。

智明が眉を顰めて俺を見てくる。


「何をしてんだ?兄弟」


「何をしているって見たら分かるだろ。こいつ等ってかみんなと話してんだよ」


「俺抜きでか!ふざけるな!!!!!」


「お前は何の役にも立たないだろ!!!!!」


この様子にみんな笑っていた。

俺は智明を殴りながら立ち上がる。

良い風が吹いている。

全くな。


この幸せがいつまでも続くと良いな。

その様に.....心から自然と願っていた。

俺は倒れたままで見上げる。

そして立ち上がった。

心配そうに御幸は見ているのに対して膝の砂を叩き落としながら向く。


「御幸」


「.....何?はーくん」


「有難う」


「.....あんまりしてないよ?私。おかしなはーくん。あはは」


俺は少しだけ笑みを浮かべる。

そして智明のクソ馬鹿をもう一発殴ってから立ち上がった。

それから空を見上げる。

本当に良い日差しだった。

まるで俺達を祝福してくれていて.....そして。

輝かせる様に、だ。

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