第26話 突然訪れた決断の時

まさかだった。

何がまさかと言えば穂高にキスされたのだ。

俺はあまりの衝撃に口元を抑えた。

柔らかい感触が残っている。


「美味しいですか?」


「ああ。このフルーツポンチよく出来ているな」


「えへへ。嬉しいです」


全く平然としている穂高。

俺だけか動揺しているのは。

思いながらフルーツポンチを食べながら穂高を見る。

穂高はニコッとしていたが.....何だか俺と目が合わない。

逸らしているように見える。


「.....まさかと思うがお前も恥ずかしいのか」


「何がですか!?全然大丈夫ですが!?」


「そこまで動揺するならするなよ.....キスなんぞ」


「いや。今しておかないと後悔するかと思いましたから」


俺は匙を置きながら穂高を見る。

穂高は少しだけ控えめな笑みを浮かべる。

私が先輩を好きだと意思表示するのはさっきの時かって思いましたから。

と、えへへ、と笑みを浮かべる。

俺は静かにその姿を見て少しだけ笑みを浮かべた。


「でもお前だけがこの家に来たのはなんでだ?」


「智明さんです。あと栗谷先輩は忙しいみたいだったから.....」


「.....あの野郎.....」


するとタイミング良さげにピコンと音が鳴った。

俺は?を浮かべてスマホを開く。

そこには絵文字と共に.....智明の文章が有った。

どう書かれているかって?

こうだ。


(楽しんでるか?チェリーボーイ♪俺が主犯だぜ!ザマァwww)


「あのバカ殺してやろうか」


「智明さんですか?」


「まあな.....」


俺はそこでハッとした。

そしてニタァと笑いが出てくる。

ここまでやってくれたんだ。

それなりにお返しはしないと駄目だろう。

思って穂高を見る。


「穂高。智明達のデートプランを考えるぞ」


「え?」


「智明と鞠さんのデートプランだよ。ここまでやってくれたんだ。それなりにお返しぐらいしないとな.....ハハハ.....」


「か、顔が怖いです。大博さん.....」


やられたらやり返す.....倍返しだ!

思いながら俺は智明達へのデートプランを考える。

智明が恥ずかしがるデートにしてやんよ。

丁度家からも出れないしな。

ハハハ.....。


「でも大博さんは相変わらずですね」


「何がだ?」


「.....いえいえ。だって.....智明さんの事になると.....ふふっ」


クスクス笑う穂高。

俺はその姿を見ながら少しだけ苦笑する。

そして少しだけ笑みを浮かべた。

そうだな.....確かに。

俺は智明の事になるとなんか.....だよな。


「親友だからな。智明は」


「親友だからと言っても本当に羨ましいぐらいに仲が良いと思いますよ」


「.....俺が初めて中学で一人だった頃、アイツが声を掛けてくれて.....助けてくれたんだよな.....」


「.....智明さんがですか?」


アイツは信頼出来ると自分から全てをさらけ出して表面化してくれたんだ。

だから俺は智明を信頼している。

並大抵の事じゃ出来ないからなそんな事。

と俺は懐かしむ。


「流石は智明さんですね」


「.....後はお前だ。そして御幸とかな。仲もそうだ。周りのみんなに支えられて.....俺は幸せ者だ」


ボッと赤面して俯く穂高。

そして顔を上げてから、えへへ、とはにかむ。

それから俺の手を握ってきた。

そうしてから、私も貴方を支えられて幸せです、と言葉を発する。


「.....穂高.....」


「私は貴方に巡り逢う為にきっとあの中学に行ったんです。じゃなかったら貴方に逢えなかった」


「流石にそれは言いすぎだろ」


いいえ。

私は貴方に逢う為にきっと。

と胸に手を添える。

穂高は相変わらずだな、と思う。


「じゃあデートプランを考えましょうか」


「そうだな。アイツに仕返ししたい」


「あはは」


それから俺達は共同作業で。

仕返しする為にデートプランを考える。

その際にインターフォンが鳴った。

俺は首を傾げて、よく人が来るな、と思いながら出た。


「はい」


「私です。滝水です」


「え?滝水?」


その言葉に穂高も寄って来た。

そしてドアを開けると.....滝水が立っている。

俺は目を丸くしながら、どうした?、と聞いた。

住所とか何で知ってんだ。

と思ったが、金子の爺ちゃんから聞いたな、と思い聞かなかった。


「ちーちゃん。どうしたの?」


「あれ?何で居るの?ほーちゃん」


「え?あ、私は.....えっと.....」


その言い淀みに。

何かを察した様にハッとした滝水。

それから踵を返してから去ろうとする。

お邪魔だったみたい、と、だ。


「違うよ!ちーちゃん!そんなんじゃないよ!」


「いや、お邪魔だと思うから」


「違うって!」


真っ赤になりながら引き留める穂高。

なかなか見られない感じの表情だ。

思いながら俺は滝水に聞く。

どうした?、と。

改めて、だ。


「ラノベの説明が足りなかったから来ました」


「わざわざその説明の為に来たのか?」


「はい。ラノベという神聖な書物は説明足らずでは駄目なので」


「.....そ、そうなのか」


ちーちゃん.....説明の為って.....。

と少しだけ呆れている穂高。

俺はそんな穂高を見ながら聞く。

滝水を招き入れても良いか、と、だ。


「ちーちゃんなら大丈夫です」


「じゃあ中で説明を聞くよ。滝水」


「え?良いんですか?」


「穂高が良いって言ってるから大丈夫じゃないか?」


滝水は顎に手を添えて、じゃあ入れて下さい、と俺に柔和に向く。

俺は、入ってくれ、と招き入れた。

家に招き入れたのは何と言うか滝水の話も少しだけ聞けるかな、と思ったから、だ。

だから招き入れたのである。


「一人暮らしなんですか?」


「違う。母親が居るぞ」


「.....母子家庭なんですね」


「まあそういった感じだ」


そして滝水を座布団の近くに誘導した。

それからお茶を淹れる為に立ち上がると。

穂高が私も手伝いますと立ち上がった。


「じゃあお前はお茶菓子を出してくれないか穂高」


「はい。大博さん」


そんな感じで手際良くしていると。

滝水が目を丸くしていた。

そして顎に手を添えて呟く。


「.....付き合っているんですか?」


「え?いや!?ち、違うよ!?」


「んー。ほーちゃんが答える。怪しいですね」


「滝水。違う。本気で付き合ってない」


じゃあ何でそんなに手際が良いんですか?

まるで夫婦の様な.....と滝水が言う。

夫婦に見えるのか?

それは.....うん。


「違うよ。ちーちゃん。私達は付き合ってない」


「え?じゃあ何でおめかししているの?」


「.....え?あ.....こ、これは.....」


「大博さん」


少しだけモジモジする穂高。

滝水が???と俺に向いてくる。

そしてそのままとんでもない事を言った。


「大博さんはほーちゃんは好きじゃ無いんですか?」


「お、俺?いや.....確かに穂高は良い奴だとは思っているけど.....うん」


「うーん。そうなんですか?.....うーん。私、恋愛は曖昧なのが一番嫌いなんですよね。冗談じゃ無く本当に、です。大博さんはほーちゃんを本当はどう思っているんですか?」


「え?あ、えっと.....」


ヤバいこの子。

結構グイグイ来るな.....。

考えながら俺は困惑する。

助けて穂高えもん、と思ったが。

穂高も期待する様な目で俺を見ている。


「えっとな.....俺は恋愛をしたら駄目なんだ。俺自身が昔.....いや。今も精神が不安定でな。病院行った方が良いとは思うんだが.....金が無くてな」


「それは建前を出して逃げているだけですよね。今現在の状況から」


「えっと.....結構来るね。お前」


そうですね。

私は.....ほーちゃんが人を好きになったのは初めて見ましたから。

だからほーちゃんには幸せになってほしいです。

ほーちゃんを好きなのか好きでないのか今ここではっきりさせるべきです。

それをいつまでも自分がー自分がーとダラダラ引き延ばしても仕方が無いですよ、と俺に説得してくる滝水に思いっきり見開いた。


「ち、ちーちゃん.....私は.....」


「でもほーちゃん。駄目だよ何時までもこの状況のままなんだったら。人生は短いんだよ?思った以上に」


「.....」


正直その通りなのかも知れない。

まさか後輩からそんな事を教わるとは思っても無かった。

俺は顎に手を添えて考える。

そして穂高と滝水を見た。


「.....猶予をくれないか。一日。それで考えてみる」


「大博さん。真剣に受け止めなくても良いんですよ。ちーちゃんは昔からこんな感じですから」


「.....」


でもな。

確かに逃げているだけかとは思った。

いい加減にはっきりさせた方が.....全てにおいて良いのかも知れない。

俺はお茶をグビッと飲んでから深呼吸した。

そして少しだけ笑みを浮かべる。


「滝水。.....有難うな言ってくれて」


「私は疑問に思った事を言い表しただけですよ」


「でもお前が居てくれたから何だか整理が出来てスッキリしたよ。本当に」


そうですか?と滝水は頬を掻いた。

それはそうとラノベの話に戻るが.....と思いながら聞く。

それから俺は.....意を決したようにして。

顎に手を添えて真剣な顔をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る