5、球技大会

第22話 球技大会当日

その日の夜。

俺は筋肉痛に馬鹿みたいに悩まされながら。

仲とメッセージをとっていた。

そんな仲は相変わらずの保健室登校だが、保健室で怪我した人の治療を手伝っているという。


少しだけ.....一歩を踏み出せたと話している。

俺のお陰だ、と。

そんな事は無いと思いながらも仲は、絶対に君のお陰だよ、と言う。

俺は少しだけ恥ずかしかった。


(俺さお前を好きになって良かった気がする。じゃなかったらここまで.....世界は広がらなかったと思う)


(大げさだね。私なんかじゃ広がらないよ)


(いや。お前のお陰だよ)


今この場で笑えるのも。

全部、仲がきっかけの1では有る。

だから感謝しかない。

思いながらメッセージを書く。


(あ、そう言えば保健室に工藤先輩が来たよ)


(え?マジか。どうしたんだ?)


(張り切りすぎて足をくじいてた)


(マジか?大丈夫だったのか?)


大丈夫だったよ。軽い捻挫だった。明日には回復しそうな感じだったよ。

と俺にメッセージをくれる仲。

そいつは良かった。

重傷だったらマズイしな。

考えながら俺はスマホの画面を見る。


(でね、あの人の顔だけど何か見た事が有るの。私)


(え?それってどういう?)


(うん。何でかな。分からないけどね)


(マジか)


俺は目を丸くしながら画面を見つめる。

何処で見たのか分からないけどね。

と俺にメッセージを送ってくる仲のメッセージを見つめる。

工藤先輩が昔.....?

俺も会った事が有るのかな。


ガチャッ


「ただいまー」


「ああ。母さん。お帰り」


「大博。嬉しいニュースよ」


「.....え?」


母さんがニコッとして俺に向いてくる。

実は七水さんの一家の生活保護が決まったの。

と俺に告げてきた。

俺はビックリしながら、え?マジ?、と目を丸くする。

ええ、と母親は回答した。


「これ以上は個人情報に関わるから話せないけど.....条件を満たしたみたい。お兄さんは生活保護などはほとんど知らなかったようね」


「でもお兄さんが働いている。母さん。この場合は.....」


「勿論、その分などは引かれるわ。それは働いているから。でも基本的には生活保護は先ず、貯金が無い、換金しながら生活している人などが当て嵌まるわ。勿論、諸条件もあるけど.....でも今の状況なら大丈夫みたいなの」


「.....それは誰がやってくれたんだ?」


母さんの知り合いのケースワーカーの人がやってくれたわよ。

と柔和な感じを見せる母さん。

随分と申し訳ない事をしているな俺。

母さんにかなり迷惑を掛けているんじゃないだろうか。

それに周りの人達にも。


「.....貴方が責任を痛感する必要は無いわよ。大博。貴方はあまり深く考えない事。良いわね?」


「.....でも.....」


「貴方が考え込んで体を壊したら意味ないでしょう。だから余り考えないの」


「.....相変わらずだな。母さん」


私の自慢の息子が壊れたら意味無いからね。

貴方は私の宝物なんだから。

と俺の頬に手を添えてくる母さん。

相変わらず温かい手をしている。

そうだな.....昔から母さんはそうだった。


『お母さん。僕.....眠れない』


『そうなの?じゃあ私が子守唄を歌ってあげるわ』


父親の暴力に悩まされて。

俺はフラッシュバックで眠れないことがしばしばあった。

そんな時に何時も母さんは横に居てくれて。

そして俺を支えてくれた。


子守唄を歌ってくれたのだ。

自らも苦しみの底に居るのに。

歌ってくれたのだ。


「俺、頑張れそうな気がする」


「.....そう?だったら羽ばたいて。頑張ってらっしゃい」


「ああ。有難うな。母さん」


そして俺は中断していた仲とのメッセージのやり取りを再開する。

仲に申し訳無かった。

中断していたから。


(仲。お前も有難うな)


(いきなり何。あはは)


(みんなに感謝しかない。本当に)


俺はようやっと幸せを掴める。

そんな気がする。

明日は頑張っていこう。

思いながらスマホを閉じてから勉強しようとした時。


ピコン


「?.....メッセージ?」


(よお。大博。元気か。実はな.....ビッグニュースだぜ!来週から鞠が転校して来るって!ヒャッハー!)


何だこれは。

凄まじく煩いメッセージだな。

思いながらも苦笑というか笑みが浮かんだ。

本気で良かったな、智明。

思いつつ俺は心の中で拍手をした。


(良かったな。智明)


(おう。マジでやったって感じだぜ)


(でもその、申し訳無いけどスタンプを十個も送るな。殺すぞ)


(そんな固いこと言うなよ兄弟!ハッハッハ)


言うに決まってんだろ。

うるせぇんだよ色々とよ。

と思いながらも本当に俺も嬉しい。

幸せが続く感じだ。


(こっちも嬉しい事が有ってな)


(そうなのか?兄弟)


(お前.....何時から俺の呼び名は兄弟になったんだよ)


(元からだぜ兄弟)


喧しい。

スタンプ5個も送るな。

考えながら見ていると母さんがご飯出来たわよ。

と用意してくれた。

作り置きの、だ。


「ああ。母さん。有難う」


「早く食べなさい。夜も遅くなっていくわ。明日、大会なんでしょ?」


「ああ.....うん.....まあ.....」


嫌な事をほじくったな母さん。

盛大に溜息を吐きながら俺は苦笑する。

そして飯を食い始めた。

美味しい、相変わらずだが。



寝たらあっという間に目が覚めた。

そして起きる.....と。

何故か目の前に御幸が居た。

何やってんだコイツは。


「おっは。はーくん」


「何やってんだよ.....」


「食事を作りに来ましたー」


「.....ですね。そんな感じだもんな。いいって言ってんのによ」


大好きなはーくんの為だから。

とウインクする御幸。

相変わらずだな.....と思いながら立ち上がろうとした。

その時だ。

足が布団で引っ掛かり.....御幸に倒れ掛かった.....しまっ!?


「きゃ!?」


「うお!」


そして毛布が俺の上に伸し掛かる。

で、俺は頭を摩りながら目の前を見る。

手で抑えつけるように.....御幸が床に倒れて居た。

つまり、押し倒している。


「す、すまん。大丈夫か」


「.....いや.....う、うん」


すると御幸が何故か俺の首の後ろに手を回した。

何をしているんだ此奴!?

俺は思いながら慌て始めた。

何だ。


「御幸。すまん。立ち上がりたいんだが」


「はーくん。このまま.....キスしても良い?」


「アホかお前は。何を考え.....」


そこまで言い掛けて。

俺の頬に柔らかい感触が広がった。

キスをしてきたのだ、御幸が、である.....って!

こ、此奴!


「えへへ。大好き」


「.....いい加減にしろよ朝っぱらから」


「だって何だか.....智明さんを見ていると.....ラブラブしたくなった」


頬を、耳をかなり赤くしながらもはにかむ御幸。

いやいや勘弁してくれ.....。

だが御幸は更に立ち上がりながら言った。

唇に手を添えながら、だ。


「何時か本当にキスをしたいかな」


「冗談でも勘弁してくれ」


「冗談?何が?冗談言わないよ。私は」


「.....」


あ、今した方がよかった?

と美幸は笑顔を見せる。

いやいや.....うん。

勘弁して下さい.....。


「あはは。冗談だよ。でもキスは冗談じゃないからね」


「.....それって否定してないだろ。お前.....」


「うんうん。まあそれはそうと早く来てね」


じゃあね、と駆け出して行く御幸。

全く、と思いながら俺は額に手を添えた。

そして立ち上がってから苦笑いを浮かべる。

それから制服に着替えようとした時。

何かを踏んだ。


「.....?.....何だこれ」


手長のような物が落ちていた。

赤いキャラシールが貼られている子供の様な、だ。

何だこれは.....御幸、アイツのか?

手帳は中が開いていてそこに何か.....綴られて.....?

俺はその書かれていた言葉に眉を顰めた。


(助けて)


かなりの勢いで一言。

そう書き殴ってあった。

俺は手帳を見ながら静かに考える。

何故か.....その言葉だけで.....悪夢が過ったから、だ。

俺の嘗ての魂の泣き叫びの様な、だ。


御幸が何かに追い詰められている感じがした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る