第19話 穂高の母親が眠る場所

遊園地遊びもそこそこに。

俺達は肝心の目的の為に遊園地を後にした。

そしてと有る墓地にやって来る。

ここは遊園地から.....一駅だが離れた場所だ。

この墓地に俺は来た事は無い。


周りが山々に囲まれた場所で.....自然豊かだった。

そして音楽が定期的に流れる様な.....そんな場所である。

上から下の方に向かって優しい風が吹く中、下の方に歩いて行く。


そして.....その墓を見つけた。

俺は少しだけ眉を顰める。

穂高が少しだけ哀愁漂う顔で言う。


「ここがお母さんが眠っているお墓です」


「.....七水家って書いてあるな。確かに。ここが.....」


「お母さん、きっと大博さんを歓迎しています」


「.....だったら良いけどな」


あはは、と言いながら。

桶の中の水をひしゃくですくってから。

お墓に水をかけていく穂高。

それから手を合わせてからお供えをした。


その品物は先ほど、コンビニで買ったお菓子と飲み物だ。

カルピ〇ソーダと駄菓子。

これは穂高の母親が好きだったという。

俺は納得しながら購入する姿を見ていた。


「でも本当に今日は来てくれて感謝します。大博さん。有難うです」


「.....おう。.....よし、俺もお供えしよう」


「あ。有難う御座います」


俺もコンビニで買ったのだ。

御供物を、だ。

俺にニコッと笑みを浮かべる穂高。

それを見ながら俺も少しだけ笑みを浮かべてビニール袋から取り出す。

お供えをしていった。


俺が好きなお菓子だ。

餅に黒蜜をかけて食べるあの銘菓である。

それを供えた。

相手も好むだろうと思って。


「.....穂高。.....母親と父親は仲が良かったのか」


「良かったです。とっても。そもそもお母さんからお父さんに告白して付き合い始めたそうなので.....」


「.....」


「でもお父さんまであんな目に遭って.....私、もうどうしたら良いんでしょうね」


悲しいです、ただただ。

涙を流して口元に手を添えて嗚咽を漏らす穂高。

俺はその姿を見ながら.....穂高の頭に手を添えた。


少しだけビクッとしながらも穂高は俺の手に答える。

頭に手を伸ばして手を握ってきた。

そして、えへへ、と少しだけ笑みを浮かべる。


「.....大博さん。有難うです」


「何もしてないぞ。俺は」


「でも大博さんが居るから私、強くなれました」


「.....」


俺は言葉を聞いてから目の前の山々を見つめる。

風は常に吹く。

だけどその風はまるで穂高を支える様な感じで吹いていた。

穂高にとっても安らぎの風になるだろう。

晴れているしな。


俺はその事も考えながら穂高をもう一度、見る。

穂高は手を合わせていた。

俺も再度、手を合わせてから。

そのまま祈りを込めた。


貴方が守り切れなかった分を俺が守る。

その様に誓いを立てながら、だ。

そして俺は穂高を見た。


「これでお母さんも喜ぶでしょう。きっと」


「そうだな。それだったら嬉しい」


「ですね」


そして俺達は寄り添いながらお墓を見る。

それから暫く.....その場に居た。

お供え物を見たり、写真を撮ったりして、だ。

それから.....そのまま別れて御供物を持って離れた。



時間も時間という事で俺達は帰って来てから。

俺は穂高と別れ、自宅に帰って来た。

そして自宅の前に誰か居る事に気が付き。

その人物に笑みを浮かべた。


「よお」


「大博.....」


「何をやっているんだ。お前は」


仲だ。

俺の家の前で何かを待っている様な姿をしていた。

その姿に俺は苦笑しながら。

また家に入るか、と聞いて促した。

来栖はこくんと静かに頷いてから俺を見てくる。


「格好良い服装だね。今日はどっかに行って来たの?」


「お墓参りというか.....デート擬きだ」


「何それ?あはは」


来栖はクスクス笑う。

俺はその姿を見ながら家の玄関を開けた。

それから来栖に向く。

入ってくれ、と促しながら、だ。

来栖は、うん、と頷きながら部屋に入る。


「また来てくれたんだな」


「うん。大博に会いたかったから」


「それはつまり俺が好きって事か」


「違うよ。あはは。でも別の意味では好きだよ。だって君、優しいからね」


それはどうかな。

でも優しいと言ってもらえて光栄だ。

考えながら俺は前、来た時の様にお茶を注いでから。

台所から持って来る。


「お構いなくだよ。大博」


「こっちこそ気にすんな。当たり前の事をしているだけだ」


「.....君は相変わらずだね。あはは」


仲はそう言いながらお茶を飲む。

それから俺に向いてきた。

モジモジしながらジッと俺を見てくる。

何だ?


「大博は誰か好きな人いるの?」


「いきなりだな。居ないよ。というか俺は他人を好きにはなれないと思うから」


「またそんな事を。君はもう幸せになって良いんだよって言ったじゃない」


「.....だな。お前の言う通りなんだけど.....怖いんだよ」


全くね.....って言うかそんな事を話したかったんじゃないよ。

と仲は苦笑いする。

それから俺に向いてきた。

一体何の話だ。


「大博を応援しようと思って。出来る事をしたいなって思って」


「.....応援って何だ?」


「君が好きな人と結ばれるようにってね」


「.....何を.....ってかお前らしいな。相変わらず」


私らしいかな?あはは。

と笑顔になる仲。

俺はその笑顔を見ながら笑みを少しだけ浮かべる。

仲は、君には何時も助けられているからね、と柔和になる。


「幸せになるお手伝いだよ。あはは」


「.....そうか」


「好きな人を見極めて。それを応援するから」


「.....」


正直言って。

俺は多分、今でも仲が好きだ。

だけど.....気持ちは揺らいでいる。


でもそれでも今はやはり好きな人は考えられないな。

いい加減にしろって感じだけど。

智明みたいに好きになる人は出るのだろうか。


「仲。有難うな。お前の事、やっぱ好きだ」


「私は君とは釣り合わない。だから駄目。将来も安泰しないしね。でも他の人なら応援するから」


「.....」


そしてその日。

仲は応援してくれると言った。

俺は.....将来どうなるのだろうか。

思いながら外を見て少しだけ穏やかな表情を浮かべた。


「俺は将来が見えない。だけどお前みたいな人が居るから生きていける」


「大げさだね。君はいつもいつも」


「大げさじゃない。本気でそう思っているから」


「.....有難うね。うん。嘘でも嬉しいよ」


嘘じゃねーよ。

と俺達は暫く会話してから。

仲は帰って行った。

俺はそれを見送ってから夕食の準備を始める。

母さんが返って来るまでにと思いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る