第16話 お守り

七水の事を母さんに任せてから。

俺は七水とラインを繋いだ。

それから画面を見る。

画面には(どうでしたか)と表示されている。

その言葉に返事を書く。


(正直言って、かなり無理を聞いてもらった)


(そうなんですね.....ご迷惑をお掛けしています)


(いや、構わない)


でもこの事はお礼を必ずしますね。

と七水は笑みを浮かべた様に文章を送って来た。

俺はその文章を見ながら.....ベッドに寝っ転がる。

そして見つめる。


(もう直ぐ日曜日ですね。デート.....何処でしましょうか)


(やっぱりするのかデート.....)


(やらないとバラしますよ。栗谷先輩とかに)


(お前な.....)


あはは、だから絶対にデートして下さい。

私、先輩に紹介したい人が居ますし、とメッセージ。

俺は頭に?を浮かべながら.....聞く。

誰だそれ。


(誰を紹介したいんだ?)


(私のお母さんです)


(!.....マジか?)


(マジですよ。是非、会って下さい。私のお母さんに)


見開きながら俺はスマホを見る。

そうか.....母親に、か。

だったら色々と準備しないとな。

お供えする物とか。

思いながら俺は起き上がる。


(.....七水。今でもお前は俺の事が好きなのか)


(当たり前ですよ。大好きです)


(こんなヘボをか?)


(これだけ助けられたら女性って惚れますよ。普通は)


本当に有難いよな。

こんな俺を好きって言ってくれて。

考えながら.....画面を見る。

すると.....メッセージがきた。


(先輩。でも本当に感謝してます。お父さんの件)


(.....俺としては何もしてないんだが)


(先輩は何時もそう言いますけど.....本当に周りを救ってますよ)


いつの間にかですけど。

と笑いのスタンプを送ってくる。

俺は溜息を吐きながら.....頭を掻いてから。

時刻を見る。

そんな時刻は既に23時を回っている。


(寝るぞ。七水。お前も疲れているだろ)


(あ、ですね。じゃあお休みなさいです)


(ああ。じゃあな)


それからスマホを閉じて俺は横になる。

そして電気を消してからそのまま眠りにつく。

あっという間に寝れた気がした。

気になる事だらけだったが。



俺は話したと思うけどかつて婆ちゃんと爺ちゃんが居た。

母方の俺達にとっては大切な人達で有り。

だけど二人共.....水害で亡くなった。

溺死したのだ。


だから俺は.....あの日。

死を決意して本気で死のうと思った。

残念ながら死ねなかったけど。


「.....お父さん。良い子に育ちましたよ。本当に.....大博は」


「.....」


日曜日。

今日はデートの日でも有るが大切な日でも有る。

丁度、命日の日だ。

二人が亡くなった時の、だ。


この街を襲った水害の.....事件の日。

手を合わせて母さんを見る。

静かに泣いていた。


それはそうだろうな。

自分の母親と父親が死んでいるのだから。

俺も悲しいが母さんの悲しみは計り知れない。


親父と別れた方が良いと言ったのは婆ちゃんと爺ちゃんだった。

そしてあの男と引き合わせた私達が馬鹿だったと。

その様にも言っていたのを覚えている。


「.....大丈夫か?」


「.....ううん。大丈夫よ。有難う」


「だったら良いけど」


「.....大博」


手を合わせるのを止めて数珠を置く。

それから俺に向いてきた。

俺は母さんを見る。

母さんは何だかモゾモゾしながらも。

意を決した様に顔を上げた。


「何で私があの男と付き合いだしたのか.....話したかしら」


「.....聞いてないな」


「.....私、あの男の事は好きだったのよ。当初は良い人だったの。お互いの両親も納得して.....本当に良い関係だった。でもいつの間にか仕事に追い詰められて変わった。一応、被害者なのよあの人も。ブラック企業の」


「.....!」


本当に変わってしまったの。

あの頃は幸せだったんだけどね。

貴方のお世話も全てやってくれた。

と悲しげに顔を顰める母さん。

でも現実はアイツはアイツだと思う。


「.....母さん。俺は例えそうであってもアイツは絶対に許せない。俺は.....」


「.....そうね。暴力が酷かったから許せないわ。私も」


「アイツの事では殺す気持ちが芽吹いてくるから」


「.....」


俺は立ち上がる。

そして爺ちゃんと婆ちゃんを見た。

手をもう一度合わせてから。


じゃあ行ってくるね、母さんと声を掛けた。

すると母さんが、待って、と棚を漁る。

そして赤いお守りを取り出す。


「.....お守りよ。私のお母さんとお父さんが持っていた。これを持って行きなさい。貸してあげるわ」


「.....でもこれは.....」


「貴方の幸せを願っているからこそ渡すのよ。いい?」


私からのお願いは.....貴方はあの男と同じ道を歩まないでね。

と俺に言葉を発してくる。

俺は頷きながら.....お守りを受け取った。

それから準備して表に出る。

見送られながら、だ。



「先輩」


「.....よお。七水」


カジュアルな感じの服装でそこに彼女は居た。

俺はその姿を見ながら.....笑みを少しだけ浮かべる。

ツバの有る帽子が可愛いと思える。

思いながら.....七水をもう一度見る。


「七水。服装が可愛らしいじゃないか」


「.....そ、そうですか?デートなので張り切りました」


赤くなる七水。

俺はその姿を見ながら苦笑する.....って言うか。

高いんじゃないのか。

こういう服って。


「.....大変だったろ。服揃えるの」


「お小遣いです。それを使いました」


何もそこまでしなくても。

考えながら七水を見る。

七水は、そこまでしなくても、って思っているかも知れませんけど.....大切ですよ。先輩との初デートですから、と柔和な顔になる。


「.....先輩が好きですから」


「.....」


「だから張り切りました」


「.....そうなのか」


ええ、と返事してニコッとする七水。

それから七水は俺の手を優しく握った。

そして駆け出して行く。

家事の手をした手で、だ。


「先輩。行きましょう」


「お、おい」


「.....今日はパーッとしましょう。本当に嫌な事も有りますけど.....です」


「.....まあな」


七水にわざわざ貯金を切り崩してまで申し訳なかったと思いながらも。

元気な七水を見て.....少しだけ元気になった。

それから七水の為に出来る事は何か。

考えながら.....走り出した。


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