第10話 勉強会 2

栗谷の家には昔、行った事が有る。

そして.....栗谷の母親と父親に助けられた事が有る。

どんな感じで助けられたかと言うと。

親父に虐待されて逃げた時に保護してくれたのだ。


栗谷の兄が.....暴力的にも関わらず、だ。


実は栗谷の兄は.....不登校だった。

そして不登校の悩みから家庭内暴力を起こし。

栗谷の両親と栗谷は逃げたのだ。

それから今に至る。


向こうから引っ越して来たのは.....恐らく。

そんな感じで頭に嫌な予感が過るが考えないようにして。

俺達は栗谷の家にやって来た。

栗谷の家は.....一軒の平屋建ての家の様だ。


「入って。みんな」


「「「お邪魔します」」」


それから靴を揃えて中に入る。

すると.....奥から女性がやって来た。

みんなの姿を見ながら、まあまあまあ!、と嬉しそうにして、栗谷雪道(くりたにゆきみち)です、と挨拶した。

そして俺の顔を見て.....涙を浮かべる。


「.....お久しぶりです。雪道さん」


「.....本当にお久しぶりね。.....元気だった?大丈夫?.....大博くん」


この女性は栗谷雪道さんだ。

栗谷の母親にあたる。

俺を.....保護してくれた女性だ。


姿としては白髪混じりの栗毛色の髪の毛に。

美人と言える顔立ちに身長もそこそこ有ってスラッとしている。

だけど相変わらずの.....美人だった。

少しだけ歳を取ったな.....と思える顔だ。

苦労を.....したんだな。


「みんな。入って入って」


「はい」


「おう」


すると.....いきなり俺を雪道さんが抱きしめた。

俺は驚愕しながら雪道さんを見る。

涙を流して.....いた。

そしてギュッと抱きしめてくる。


「.....有難う.....顔を見せてくれて。本当に嬉しい」


「.....雪道さん.....」


そして離してから俺は雪道さんを見る。

少しだけ泣きそうになった。

だけど涙を堪えて。

そして笑みを浮かべた。


「.....本当にご心配をお掛けしています」


「突然抱き締めて御免なさいね。貴方が.....無事なら良かった。.....御幸を宜しくね。同じ学校の生徒として」


「.....はい」


雪道さんは.....柔和な顔をする。

ちょっと恥ずかしいが.....本当に変わらないな。

雪道さんが.....半端じゃ無い程に優しいのは。

嬉しくて仕方が無い。


「さて。皆さん。入って入って」


「「「はい」」」


そして俺達はそのまま雪道さんと栗谷に案内されて。

リビングに通された。

少しだけ段ボールが見えるリビングだ。

引っ越して来たばかりだから.....全てがピカピカに見える。


「みんな何か飲む?」


「お構い無くだ。栗谷ちゃん」


「そうだな」


「ですです」


じゃあジュース入れるね。

とニコッとしながら台所に駆け出して行く栗谷と雪道さん。

俺はその姿を見送ってから。

七水と智明を見る。


「.....良い人だな。雪道さん。.....美人だし」


「.....お前な.....」


「智明さん.....」


美人は関係無いだろ。

思いながら苦笑する俺と七水。

そうしながら勉強道具を取り出す。

そして広げ始めた。


「でも.....お前を助けてくれる人が居たんだな。良かったぜ」


「.....ああ。.....本当にな。かなりお世話になったよ」


「先輩、何だか嬉しそうですね」


「.....そうだな」


ニコッとする七水。

その通りだな。

雪道さんの顔が見れて.....嬉しかった。

ただ.....複雑だ。


「.....」


栗谷の兄。

名前を確か栗谷幸(くりたにさち)と言う名だった。

だけど幸と付いている側。

暴走していた。

口癖でこう言っているのを聞いた事が有る。


『お前らが悪い。俺がこうなったのは』


と、だ。

そしてバットを振り回しながら破壊行動をしていたのだ。

栗谷自身も暴力の被害に遭い病院に運ばれた事が有る。

その為に.....警戒すべき人物だった。


だがこの前のニュースで捕まったと報道が有った。

恐らく.....栗谷家が通報か何かをしたのだろう。

そして栗谷幸は捕まっていた。

そのタイミングで引っ越して来たのだろうと思う。


「.....先輩。大丈夫ですか?」


「.....ん?.....あ、ああ。すまん」


「大博、本当に大丈夫か」


「ああ。気にしないでくれ」


この事は.....栗谷自身が話すまでは、と思う。

じゃ無いと.....失礼に値する。

そして.....栗谷が可哀想だから、だ。

思いながら.....直ぐに表情を変えた。


「さて。何を勉強すっかだな.....」


「ああ。そうだな」


「私、数学したいです。苦手ですから」


そんな話を切り替える様に会話をしながら待っていると。

栗谷がジュースの入ったコップを持って来た。

それから.....笑みを浮かべながらコップを置いていく。

俺は、有難う、と言いながら受け取る。


「何の話をしていたの?」


「.....勉強の話だよ。.....な」


「そうだな。確かに」


「はい」


すると今度は雪道さんが何かを持って来た。

お茶菓子に、と笑顔で、だ。

よく見るとそれは見覚えの有るお菓子だった。

そうか。


「.....懐かしいな。栗谷」


「.....だね」


「何時も小学校時代に一緒に食っていた.....あのお菓子だ」


俺はお菓子の包紙をマジマジ見る。

そして.....少しだけ懐かしい思い出に浸る。

雪道さんは俺に向いてきた。

少しだけ神妙な顔をしている。


「.....気を悪くしちゃったら御免なさいね」


「.....そんな事無いっすよ。有難う御座います。.....みんな。食おうぜ」


「そうだな」


「そうですね。先輩」


相変わらず.....美味しいお菓子だな。

思いながら俺はジュースを飲む。

そして笑みを浮かべた。


この先、何が有るか分からない。

だけど.....俺達なら。

乗り越えられそうな気がする。

今は.....と思った所でポケットを握るとクシャッと音がした。

あ.....。


「.....栗谷。トイレ借りても良いか」


「え?あ、うん。廊下に有るからね」


「.....おう」


俺は席を外す。

それからトイレに駆け込む様に行ってから。

そしてポケットから少しだけしわくちゃになった手紙を取り出す。

広げてから便器に座って読んでみた。


「.....これは.....」


(久しぶりだね。大博。来栖仲(くるすなか)だよ。幼稚園以来かなって思う。私ね実は2月ぐらいに大博の学校に転学して来たの。でも今、不登校になっていてずっと学校に行ってないの。たまに行くぐらいで、ね。クラスのみんなからの転入当初からの陰口が酷くてね。今になってゴメンね。タイミングが合わなかったら。幼稚園の時、楽しかったよね。いっぱい遊んで。私、たまにだけど君の姿を家から見ています。仲間達に囲まれて楽しそうで良かったって思ってる。君のお父さんがあんな人だったからね。今日、たまたま学校に行ったからこの手紙を置きました。挨拶代わりと思ってね。私は何時でも貴方を見守っているから。じゃあね。来栖)


「.....何だよ.....何なんだよ.....!?」


グシャッと紙を握ってしまった。

何だよ挨拶代わりって.....。

お前な.....あの状況下でお前に初恋をしたのを知ってやっているのか。


不登校になっているとか.....知らなかったぞ。

今になってそれは無いだろ。

俺は静かに.....唇を噛んだ。

そして天井の電気を見つめる。


モヤモヤする勉強会に.....なってしまおうとしていた。

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