第8話 飛行機雲と涙
さて。
俺はしぶしぶの七水。
そして智明と栗谷と一緒に飯を食っているのだが。
その中で.....栗谷が智明に質問した。
「幼馴染さんが居たんですよね?智明さん」
「.....ああ。そうだな。.....それがどうしたんだ?」
「いや.....もう幼馴染さんと話す手段は無いのかなって.....思うんです」
「あはは。心配してくれて有難うな。でも大丈夫だぜ。俺は」
俺は栗谷の作った弁当。
そして七水が作った弁当を食べながら。
卵焼きを摘みながら.....その智明と栗谷の様子を見つめる。
智明.....。
「先輩。美味しいですか?」
「.....え?.....ああ。美味いよ。お前本当に料理上手だな」
「良かったです。因みに.....栗谷さんとどっちが美味しいですか」
「.....意地悪すぎないかその質問」
だって.....私、率直な意見が知りたいです。
と俺の目を真っ直ぐに見てくる.....七水。
俺は盛大に溜息を吐きながら.....栗谷を見る。
栗谷も期待する目をしていた。
「.....正直、決められない。俺はどっちも美味しいと思うから。.....決めるぐらいだったら俺は決めない」
「そうですか。まあ先輩らしいですね。答え。あはは」
「.....ああ。御免な」
栗谷は俺の言葉に.....嬉しそうな顔をする。
本当に可愛いもんだな。
思いながら.....俺は弁当を見る。
美味しい料理の弁当を、だ。
「七水。栗谷」
「.....はい?」
「どうしたの?」
「.....智明にも食わせてやって良いか」
その言葉に、良いですよ、と二人は返事をした。
良い奴らだと思いながら智明に少しだけおかずを分ける。
智明は嬉しそうに頭を下げて感謝しながら食べた。
俺はその姿を見つつ空を見上げる。
「.....お。飛行機雲」
「.....あ、本当ですね」
「あ.....凄い」
飛行機雲か。
懐かしいな.....。
あの日.....の事を思い出す。
親父から逃げ出した日の事を。
そして.....母がたの爺ちゃんと婆ちゃんが助けてくれたあの日を。
確かあの日も飛行機雲が有ったのだ。
そうだな.....あの日は。
「せ、先輩!?」
「はーくん!!?」
「.....え.....あれ?」
あれ?
涙が.....止まらない。
何でだ?一体何で.....!?
涙が頬を伝って.....どんどん流れる。
悲しい気持ちでも無いのに、だ。
おかしい.....これは.....。
七水が直ぐにハンカチで涙を拭ってくれて。
そうしていると智明が箸を止めて俺をジッと見つめているのに気が付いた。
「.....大博」
「何だ。智明」
「この2年近く思ってたけどお前、何か隠してないか?」
「.....何を隠しているって言うんだ。俺が」
友人の俺が気付いてないと思っているのか。
お前と仮にも4年近くも一緒に居るんだ。
隠し事ぐらい見抜ける、と俺を見てくる智明。
俺は.....涙を拭ってから.....真剣な顔で見る。
「.....隠している、いないにせよ話せない。御免な」
「そうか。.....栗谷ちゃん。君.....大博と一緒に小学校時代を一緒に過ごしたんだよね?なんか有ったか。変わった事」
「おい。智明.....」
俺は真剣な顔をしている智明を見る。
智明はジッと栗谷を見据えていた。
俺は眉を顰める。
栗谷は困惑していた。
七水も知りたい的な感じをしている。
「え.....変わった事.....」
「.....話すなよ。栗谷。絶対に。.....コイツらに迷惑だけは」
「大博」
「何だよ」
盛大に溜息を吐く智明。
そして眼鏡を掛け直した。
それから俺を見てくる。
俺は.....その目を見る。
「.....話してくれ。お前に.....何が有っているのか」
「.....嫌だと言ったら?」
「.....お前が苦しんでいるのに見過ごせないんだが。.....それなりに調べる。俺も。身辺調査するぞ。俺は.....お前が心配だ」
「.....あのな.....」
それだけお前の事の事を思っている、分かるか?大博。
その様に言い聞かせてくる、智明。
俺は額に手を添えた。
そして諦めた様に.....語っていく。
「.....虐待って言葉を知っているか」
「.....?.....ああ。知ってる。それなりに」
「.....今から見せるのはちょっとエグいぞ。良いか」
「.....?」
そして俺は額の髪の毛を上げる。
それから傷痕を晒した。
その事に.....口を塞ぐ七水。
唖然とした智明。
「.....お前.....それ.....」
凹んでいるのだ。
何故凹んでいるかと言えばバットで殴られたから。
そして傷を縫ったから髪の毛が無い。
そこだけ、だ。
前髪を下ろしているのはそれも有る。
「.....せんぱ.....い.....」
「泣くなよ。大丈夫だ。生きているから」
「.....暴力で虐待されていたって事か?」
「親父にな。まあ太鼓の○人で言うならフルボッコだドンって感じだ」
そんな過去が有るとか知らなかったよ。
何も知らないんだな、俺は。
と智明は悲しげな顔を俺に晒す。
七水は号泣していた。
可哀想で仕方が無い、と。
「.....だけど俺は幸せだよ。お前らに出会って。ようやっと生きる価値を見つけたんだ」
「.....そうなのか.....」
「.....先輩.....」
「俺な、このままお前らを闇に巻き込まずに、って思ってた。今の今まで。だけど違うのかも知れないな」
俺は.....多分もう無理なんだろう。
容量の限界を超えたんだ。
苦しみを保存する頭のCPUが.....だ。
だからあんなに泣いたんだ。
でも正直言って.....俺は。
と思っていると七水が俺の手を握ってきた。
「先輩。この先、どんな苦しみが有っても私達が居ます」
「大博。俺も居るから」
「私もだよ。はーくん」
みんなは笑顔を見せた。
栗谷以外の奴らも.....もし。
虐待されていた小学校時代から居たのなら。
俺の人生は多少は変わったのだろうか。
その様に考えてしまう。
「.....全くな.....」
苦笑しながら.....俺は。
少しだけ涙を浮かべた。
コイツらが俺の周りに居てくれる事。
それは感謝しか無い。
と思いながら校舎の時計を見ると.....。
「それはそうと飯を食う時間が.....」
「「「「あ」」」」
次の授業の時間が迫っていた。
俺達は大慌てで飯を食う。
それから片付ける。
そうしていると.....七水が俺に言葉を発してきた。
「.....先輩。.....自分の過去を話してくれて有難う御座います。私達に」
「本気で俺はお前らを巻き込みたくなかったんだがな」
「.....一人じゃ抱え切れないですよ。その問題は。みんなと共有して.....そうです。赤信号みんなで渡れば怖く無い!ですよ!」
「.....お前な.....」
優しげにニコッとする七水。
周りの奴らも再度、笑みを浮かべた。
その姿を見つつ.....思う。
俺は.....もう良いのだろうか。
一歩を歩み出しても、だ。
横断歩道を渡っても良いのだろうか。
赤信号を破壊して、だ。
明るい未来へ.....。
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