第40話

 でもそんなこと俺はとっくに知っている。


「これから会得する技術は『攻めの為の守り』と『守りの為の攻め』だ」


 どういうことだ?


 攻めながら守って、守って攻める?


「言ってしまえばブロッキングがこのゲームを制する条件の一つになっている」


「弾撃ちでもなければ、超必殺技アルティメットでもなくですか?」


「そうだ。それらは後になるものだ。それが重要なようでみんな気づいていない」


 熊倉さんはゲームを起動して、アーケードコントローラーを俺に渡す。


「ブロッキングと相手の必殺技などのモーションフレームの隙をつけば確実とはいえないまでもここ一番で勝てる」


「つまり俺がこれからやることって?」


「単純な話だ。ヒットする根拠があるなら試してみる。そしてここ一番で躊躇しないことだ」


 そうか、つまり守りながら相手の隙を見て攻撃していくのか!


 それは確かにシンプルだが、難しい。


「まずはコマンド入力の早さの練習だ。私が2Pで乱入して格闘ゲームの残り時間である99カウントまで防御とブロッキングをするから、近接用の必殺技と弾打ちのコマンドの入力を連発するんだ」


 よし、地道だけど基礎の基礎でもある。


 意識が先に行動するよりも、行動が先で意識が後になるくらいやりこもう。


 スーパープレイを偶然や魔法と思わず、冷静に分析して対処すればいいだけなんだ。


 まずは相手より先に攻撃をすることが大事だ。


 特訓は始まった。


 そしてカルロの戦いを思い出し、闘志を燃やした。







 十月に入るまでそう長くはない時期に入った。


 俺は様々な特訓を受けていた。


 無我夢中になりながら、冷静さを少し取り戻しつつ、正確により早く入力し続ける。


「沖田くん、今日はここまでだ」


 特訓が終わるとお腹が空く。


 そんな時にいつも決まって、志穂が焼きビーフンの入ったお弁当を持ってくる。


 途中から集中力が切れていた。


 高校入試の猛勉強の頃を思い出させる疲労だ。


 1日何時間勉強できる?


 昔俺にそういった中学の教師の言葉を思い出す。


 勉強ではないが、ゲームだと1日何時間出来るんだろう?


 24時間の中で人間の集中力は数分くらいのほんのわずかしかないという話を思い出す。


 いつもの志穂のお弁当を食べ終わり、お礼を言って、一緒に途中で別れる家に着く前に俺はそんな昔のことを思い出して歩いていた。


 そんなことを考えていると大槍からスマホで電話が鳴った。


「どうしたんだ?」


「よく聞くじゃんか! あるプレイヤーが相手のキャラクターの中キックを空振りを見てから、強キックで当てることが出来る技術を持っているらしい。そいつが今アドアーズ来ていることを知らせに来たじゃんか!」


「なんだって! よし、今行く! 志穂待たな!」


「うんっ! 頑張って! 沖田君!」


 かなり夜中でアドアーズの閉店30分前に俺はゲームセンターにたどり着いた。


 この熱気は久しぶりで懐かしかった。


 戻ってきた気がした。


 そして大槍を見つけると、すぐに大槍のそばの台にいるプレイヤーに急いで見に行った。


 ちょうど対戦が始まっていたそのプレイヤーはランキング1200位のプレイヤーだった。


 その対戦が始まった時に俺は確かにその技術を見た。


 相手のキャラクターの中キックを空振りを見てから、強キックで当てた瞬間を俺は見た。


(偶然なんかじゃない。確実に意識して当てているっ!)


 周りのギャラリーが騒ぐ。


「おい、見たかよ! 中キックを空振りを見てから、強キックで当てたぜ!」


 何度かその技術を見たが、結果そのプレイヤーは負けた。


「あーあ、見たかよ? やっぱ世の中そんな上手くは行かないよな?」


 ギャラリーの一人がそう言い始めた。


「確かにすごいことだけど、負けたら意味ないっての! あははっ!」


(お前らは何も分かってない。あの技術がどれだけ重要か気づいていない)


「大槍」


「あ、ああ。どうしたじゃんか?」


「今から俺んちまでちょっと付き合え」


「まさか、やるのか? さっきの技術を?」


「同じ人間だ、出来ないはずがない!」


「わ、わかったじゃんか!」


 その日俺と大槍は朝まで練習して、その技術をモノにした。


 意味のある一日だった。


 そしてカルロに近づけた瞬間だった。







 あれから月日は経ち、全国大会の日まで残り1週間の頃だった。


 それは突然だった。


「……というわけで、知っている奴は大槍が話していないということで、いないと思うが……大槍のお父さんが会社で昇進して転勤することになった。家族一緒に明後日の日曜に、大槍は青森の高校に転校することになった」


 全国大会一週間前になった時に、学校のホームルームでフジケンから俺は確かにその言葉を聞いた。


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