第39話
それとも……他の道を行くべきか……をバカなりに考えた。
この日だけは家に帰っても眠れなかった。
※
アルバイトをしながら、ゲームセンターに行かずにゲーム会社で働いて一か月が過ぎた。
この一か月間は志穂は土日のみお昼のお弁当を持ってきてくれて、熊倉さんはとうとう現れなかった。
俺は加々見社長に給料をもらって、握手して『宣伝』のための雑誌などに掲載される写真撮影をされた。
そしてエレベーターで降りて、会社の入り口から出ようとすると真柴さんがいた。
「おつかれさん。熊倉さんに聞いたぜ。お前カルロに負けたんだってな」
「は、はい。負けました」
俺はどれを選べばいい?
ゲームを辞めるのか?
続けるのか?
そんな俺を見て、真柴さんはこう言った。
「お前はこんなところで何やってんだ? まぁ、お前の実力は上位ランカーの中ではたいしたことはない」
そうだ、俺はカルロに敵わない。
「あの時のお前の実力は実績も含めて『まだ』そんなもんだからな。だけどな好き嫌いで辞めるってんならしょうがないかもな」
ゲームを俺は好きなのか?
本当に好きなのか?
なら辞めない方が良い、けどカルロは怖い。
俺から好きなゲームを奪いそうで怖い。
俺は震えていた。
「このまま諦めて、ゲームを続けないのか? すごい奴に一度負けて、それでもコンテニューしないのか?」
そんな俺を見て、真柴さんはそう言う。
そして肩を叩く。
俺は真柴さんの真剣な表情を見た。
真柴さんは言葉を続けた。
「ハイレベルな格闘ゲームのセンス、そう言わば格闘ゲームへのハイセンスをお前が持っているかもしれないのにここでコンテニューせずにゲームオーバーか?」
「真柴さん……俺は……」
その時に志穂が来た。
「沖田君。夢を諦めちゃダメだよっ!」
「志穂? 夢って言っても……俺はもう……」
そして熊倉さんが現れた。
「君はみんなの希望や願いを背負っている。もう一度この『寄り道』から元の場所に戻ろう」
それぞれの言葉で俺は何かから目覚めた気がした。
俺の格闘ゲームに対する『遊び』だったものが『本気』になったと自分自身で気づけた瞬間だった。
ああ、そうだ。
俺はゲームが好きなんだ。
ゲームにはもしかしたら何もないかも知れない。
だけど、それでも俺は『本気』になれるっ!
だってそうだろ?
気づいてたんだ。
今まで俺のやってきた格闘ゲームに、嘘や間違いは一つも無かったんだっ!
対戦したい。
長い、たった一か月だけど、長い『寄り道』だった。
俺はもう後悔しない。
「みんなっ! 俺は全国に行く! そしてカルロに勝つ!」
俺がそう言うと、それを聞いてか聞かないか、大槍が汗ビッショリで走って俺の前に来てくれた。
「俺も何か言おうかと思ったけど、もうお前のその顔見たら言わなくても良い気がしたじゃんか!」
真柴さんは俺を見て、そして熊倉さんに頭を下げて会社に無言で戻った。
「沖田君、これから私の部屋で学校以外の時間全てを費やしてカルロへの特訓を始める。覚悟は良いかね? 私は厳しいぞ!」
「はいっ! 熊倉さん、お願いします!」
これから俺のカルロへのリベンジが始まった。
※
俺は授業が終わると志穂と一緒に熊倉さんの家に行った。
大槍は家の事情とかで来れないらしい。
アルバイトの一か月前といい、最近のあいつは何か隠し事をしている気がする。
何かあるのだろうか?
いや、今は考えるのはよそう。
気にせずに今はカルロに勝つことだけ考えよう。
特訓初日、俺は熊倉さんの家に入った。
志穂はコンビニでご飯を買ってくると言って、部屋を出た。
熊倉さんが座って、俺に話した。
「まず初めに、このウルフォ4で大事なのは何かわかるかね?」
「相手より先に読み合いに勝つことですか?」
「惜しいな、それは間合いだよ」
間合いって、それは確かに重要だけどさ。
熊倉さんは話を続ける。
「間合いが存在しなければただのボタン連打の応酬になる。弱中強によって喰らった相手の硬直時間などが異なる」
「ええ、強攻撃は大きなダメージを与えるがその分相手も大きくのけ反るため間合いが広がってしまいますね。逆に弱攻撃は与えるダメージは小さいが強攻撃ほど相手が大きくのけ反ることながなく間合いはそんなに広がらないです」
「そう、応用すれば間合いが広がっているダメージ中にもう一度必殺技などの攻撃を加えることが出来るキャンセル技というのがある。それはすでに沖田君も知っている」
「はい、基礎の基礎ですね」
「そうウルフォ4に限らず、間合いは格闘ゲームでは駆け引きにもなっている」
確かにその通りだ。
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