第32話
全国大会のルールは地域大会のようなトーナメント制になっている。
(カルロと全国大会のゲーマーたちに俺は果たしてどこまで通じるのか? 俺は知りたい。全国大会に出場しまだ見ぬ未知の強豪達と対戦格闘ゲームをして勝ち進む先に何があるのだろう?)
俺は左手で握りこぶしを作ってスマホを見つめた。
だが不安も同じくらいあった。
それは何故か言葉では言えない初めて感じる未知への奇妙な不安だった。
昼休みがそろそろ終わる時間になってきたので俺はトイレから出た。
(少しでも経験値を上げるために今日アドアーズに放課後一人で行って、誰かと対戦してみるかな)
そう思いながら教室に入った。
※
学校の帰り道でゲームセンターのアドアーズに向かって歩いた。
そして一人でアドアーズにたどり着き、店内に入ると思いもよらぬ人物にであった。
「ヒサシブリ ダナ イチゴタイショウ」
「あっ!」
俺は驚きを隠せずに声が思わず出る。
あのウルフォ4で現時点で世界最強のカルロに出会った。
(俺の全国大会の優勝時の最後の対戦相手。世界最強の格闘ゲーマーのカルロだ)
俺が何か言う前にカルロはアドアーズの下の階段を降りて行った。
「オマエ ノ コトハ マエマエ カラ ミテイタ。ツイテコイ」
「あっ! ちょっと待ってよ!」
俺も続いて階段を降りる。
地下に行くと、カルロはウルフォ4の筐体の前で俺を待っていた。
「ショウブ シロ」
そう一言だけカルロは俺に言った。
カルロは俺と戦いたがっている。
今から対戦したいと思っている。
勝てるかもしれないという自信と、全く通用しないかもしれないと言う不安が混ざっていた。
(知りたいと言う答えが今まさに目の前にある。俺はどこまで通用するのか? 今挑まれたからにはやるしかないっ!)
俺は頷いてウルフォ4の筐体に座って、100円とカードを入れた。
カルロも反対側の筐体に座ったようだ。
メインである主役キャラクターを俺は選択し、ゲームが始まる。
カルロの使用するキャラはテクニカルキャラで上級者向けのキャラクターだった。
(いくぞカルロ、真剣勝負だっ!)
1ラウンド目が始まる。
カルロのテクニカルキャラクターが、信じられない早さで入力された突進系の必殺技を俺のキャラクターに当てる。
(この早さは熊倉さんと互角? いやキャラが違うからわからないが、やっぱりバケモノだっ!)
動揺してたらコンボを喰らう。
中キックでやり返そうとしたが、カルロのキャラが一歩離れて外す。
むこうも中キックを放ち外す。
こういう必殺技以外のパンチやキックなどの通常技をけん制で使いつつ、ゲージを溜めるのも立派な戦術だ。
今お互いやっている動作に意味はある。
カルロのゲージが先に貯まる前に近づいて攻撃しようとしたら、弱パンチでダメージを受ける。
そしてまたカルロのキャラクターは一歩離れる。
ヒットアンドウェイとも言えるべき動作だった。
近づくためにジャンプするとカルロのキャラクターはしゃがむ。
俺のキャラはそのまま飛び蹴りをかますが、ガードされる。
その後に投げ技をしないのか、カルロはジャンプして離れていく。
(自分から攻めていかないのか? ならこっちから近づいて攻めるか)
そうして近づいてみたが、弱キックを喰らい、中キック、強パンチと3段コンボを貰う。
そのままジャンプしてカルロはまた離れる。
「凄いなあの二人、コマンド入力の早さもそうだが、対戦での判断力が凄い」
「あの坊主と外人の女の子どっかで見たことないか?」
「言われてみれば……そうだよな……誰だっけ?」
いつの間にか集まっていたギャラリーの声を後ろから聞きながら、カルロとの対戦であることに気づく。
まだ一度もカルロに大きなダメージを与えていない。
それが恐ろしかった。
まだ負けたわけじゃないが、ここまで実力差があるのか?
しばらく弱パンチのけん制が続き、カルロが突進系の必殺技を出して近づくと、俺は弱パンチ連打で迎撃する。
ここに来て、初めてカルロのキャラクターにダメージを与える。
(やった! よし、ここからだ!)
また近づいて弱キックで攻撃するがガードされ、カルロのキャラはジャンプして空中蹴りを俺のキャラに喰らわせて離れた。
着地と同時にカルロのキャラのゲージが満タンになり、攻撃スピードが一定時間早くなる超必殺技アルティメットが発動された。
その時俺のキャラはカルロのキャラから、近すぎず離れすぎない位置にいた。
カルロのこの超必殺技アルティメットは凶悪な技だ。
なぜなら攻撃スピードが速くなり、隙のないまま連続攻撃を出され、こちらは守りに逃げるしかないから凶悪なのだ。
しばらくカルロの無双が続くだろう。
ゲージ短くてこんな強力な技出すって時点で、ウルフォ4はバランスが少し悪い気がする。
そんなことも言ってられないか。
離れて相手の一定時間が経過して、元通りのスピードにしようとしたが、それは叶わなかった。
カルロのキャラにあっという間に接近されて、中パンチ、強キック、そして一瞬で入力された必殺技を喰らって画面端に俺のキャラが倒れる。
俺のキャラクターが地面に倒れる前にダメージ判定がある一瞬をカルロは必殺技で追撃を与え、その結果また空中に飛ばされる。
こんなダメージが与えられる一瞬の隙を素早くコマンド入力し、ダメージを追撃で当てるなんて化け物じみた強さを持っている。
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