第31話
その明確な答えというか、それらの続きを知るには全国大会で勝ち続けるしかない気がする。
「沖田君の思っていることわかるよ」
俺が何か言う前に、志穂は微笑んでそう言った。
「今日の地域大会を優勝したから、全国でも勝ち続けなければいけないと思っている」
「うん。勝つための俺なりのやり方で対戦して、そして全国でも勝って優勝すると思っているよ」
「勝ちへのパターンが同じことがたまにない? 勝ったからそのやり方だけを安定した戦いと思ってない?」
そういえば同じ勝ちパターンが今までを振り返るとあった気がした。
俺は志穂に言われて、少し動揺していた。
それが間違っているかのように思えたからだ。
「そ、それは勝てたから、その方法で基本は行うと思うよ。そういうやり方を相手にもよって変えるけどさ」
志穂は俺の顔を覗き込むように自分の顔を近づけてきた。
ま、まさかここからキスでもするのだろうか?
しかしそれとは違った真面目な顔で志穂は話を続けた。
「真剣になって勝つために勝つやり方をし続けて、それが安定してきて、試してもいないもう一つの今後も幅広く色んな相手に勝てるはずの行動などを対戦中にしなくなることが怖くないの?」
「幅広く勝てるはずの行動?」
色々試せって事か?
勝敗がわからない中でその未知の行動などをして、そのせいで結果として対戦で負けるかもしれないのに?
「本来あるはずの可能性に気づかずに、その可能性がわかるかもしれない行動を試さずに真剣だからこそ対戦中に遊びと思って、色々試してみることって大事だと思うよ」
真剣だからこその遊び?
「真剣だからこそ遊ぶっていうやり方もあるってことを私は沖田君に言いたかったの」
そう言い終えると志穂は俺から離れた。
俺はしばらく黙って、志穂の言った事と自分の対戦格闘ゲームの考えを混ぜて考える。
そして思った答えを志穂に対して口に出した。
「つまりもっと自由に色々やれってことなのか?」
志穂にそう言うと志穂は笑顔で頷いた。
「伝わったみたいだからもう帰るね。また学校でね」
そう言って志穂は帰って行った。
俺はしばらく椅子に座ったまま、志穂の言葉と今日起きた地域大会の試合での対戦相手の試合内容を思い出して考えていた。
「色々と自由に遊びと思って試す……真剣だからこその……あえての遊び」
考えていることが口にぼそりと出た。
たくさんの猫が集まって来たので、考えるのを止めて、俺は椅子から立ち上がり家に帰った。
※
あれから1週間が経ち、俺は昼休みにトイレに入って洋式便所のある個室に鍵をつけて入る。
スマホからウルフォ4の攻略サイトなどを見て、他のキャラの研究をする。
今まで攻略サイトなどを見ないで対戦していたが、今度は全国大会だ。
対策を立てておかないと次の全国大会への対戦に響く。
今までの経験も大事だが、それと同じくらい知識も必要だ。
ゼルダもとい熊倉さんのネット対戦の時に使っていたパワー系のキャラの弱点は大まかにいえばブロッキングは相手側の攻撃の無効判定時間が長いが、移動や必殺技など動きが他キャラより若干遅いということが書かれていた。
だが、あのコマンドの入力の早さは鈍さを思わせなかった。
もし全国大会で熊倉さんの使っていたキャラがいたら、おそらく熊倉さんほどでもないが遅い点を入力の早さと先読みで弱点を克服しているだろう。
俺が一番得意という理由で真剣勝負の対戦の時に使い、同じく俺と同キャラでゲームセンターで対戦した時の熊倉さんも使っていた主役のキャラは、バランスが良いが特徴がないのが特徴と書いてある。
初心者から上級者まで使われると書いてある。
細かい部分などをスマホでスライドしながら文字列を見た。
ダメージ修正や当たり判定は若干変更されているが、前のシリーズとほぼ同じということが書かれていた。
相手のキャラを使ってどういう性能か知るのが良いとも書かれていたが、ほどほどにして自分のキャラを上手く使いこなそうと考える。
志穂は今日は俺がトイレに行く前には、いつものように女子に囲まれて楽しそうに話していた。
大槍は昼休みでも静かになって、真剣に勉強をしていて話すムードじゃなかった。
仕方ないので居場所を無くした俺はトイレでスマホのネットにつないで、攻略サイトの格闘ゲームの研究をする。
それぞれの地域大会の時の対戦動画も、家に置いてあるデスクトップのパソコンの画面に比べれば小さくて画質は荒くなるがスマホで見ていた。
全国大会の日は夏休みが終わった後の10月初めだ。
俺は今回行われる全国大会で出場するの名だたるゲーマーの名前と情報を大会公式のまとめサイトから眺めた。
中国、四国地区代表、近畿地区代表、北海道地区代表、九州、沖縄地方代表、中部地区代表、北陸地区代表など、そして俺のいる関東地区代表の名前苺大将こと沖田薫がその全国大会エントリー名が載ったサイトに表示されていた。
スコアポイントとランキングも代表者の名前の下に表示されているが、どいつもこいつも上位ランカーの奴らばかりだ。
優勝者には世界一の前大会チャンピオンのメアリー・カルロに挑戦できる。
そしてカルロは俺の参加する全国大会に招待され、それぞれの上位ランカーの戦いを見て分析し、優勝した相手をたぶん倒すだろう。
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