第30話
「私なんか見てて思ったんだけど、そのゲームって弾撃ちが大事なんじゃないかなって」
「えっ? 弾撃ち? なんでそう思うの?」
俺は頻繁にそればかりって訳じゃないが、弾撃ちは確かに対戦の時によく使うな。
でもなんで志穂は弾撃ちが重要だと思ったんだろう?
そんな俺の疑問と動揺に志穂は察したのか、ゆっくり穏やかな声で答える。
「あのゲームたまにプレイ中の沖田君の後ろで見ててね。これって弾撃ちしていれば相手が動いたり、防御したり、ジャンプしたりするでしょ?」
(確かに……するな……)
志穂は話を続ける。
「大槍君とも格闘ゲームの話をたまに聞くんだけど、コンボとか技術的な物? それを見つけることも大事だけど、考え方ひとつで全体が大きく変わるんじゃないかなって私思ったの」
ん?
どういうことだ?
考え方ひとつで大きく変わる?
それって考え方を変えれば強くなるってことか?
戦略のことをいっているのかな?
わからないなぁ。
「……何が言いたいのか……よくわからないけど」
「んーとね。例えば技術とかコンボも出来ること前提で、それでも弾撃ちだけでゲームが動くって言うか、弾撃ちしたら相手が何かしらのアクションを必ず起こすから、それだけ勝つんじゃないかなって言いたいの」
それは極論のようにも思えた。
弾撃ちだけでゲームが勝てるとは限らない。
だが志穂の言うことは素人の意見だが、一理あるかもしれない。
弾撃ちで試合が動くのは確かだ。
しかし実戦では弾撃ちばかりすればジャンプされて、弾撃ちのモーションフレームの隙で攻撃されて負けるだろう。
「志穂。弾撃ちだけするとジャンプされて隙が出来て、相手から空中で攻撃を喰らって結果的に負けてしまうんだよ」
「そうなんだー。負けちゃうんだ」
そうして志穂はこう答えた。
「でもさ。負けて見なくちゃわからないこともあると思うよ」
その言葉がなんか大事なことのように思えて、体がビクッとした。
一瞬だがその時の志穂が真剣な表情に変わった気がした。
だが、勝負の世界の対戦格闘ゲームで負けたら意味がない。
そして、そのことを正直に志穂に話す。
「志穂。負けたらわからないことも、もしかしたらあるとは思うけど……でも……でもさ、対戦で結果的に負けたらダメでしょ?」
それを聞いてしばらく黙った志穂は、負けたらダメという俺の答えの意味を知ってか知らずか志穂は話を再開した。
「確かにここ一番で負けたらダメだよ。でもね、これから言うことを聞いてほしいの」
俺は志穂の中にある理想の対戦格闘ゲームの在り方と、俺の現実での対戦格闘ゲームの在り方を別々にして考えていた。
(どこかに共通している部分がある。弾撃ちのことで理想と現実が同じようで、そうでない気がする。こんなこと今まで考えたことも無かった)
俺は考えるのをいったん止めて、志穂のこれから言うことを聞くことにした。
「勉強でもスポーツでも、もしかしたらゲームでもそうかもしれないけど、沖田君や大槍君の話すゲームで例えて説明するね。どれも共通している部分があると私は思うの。じゃあ、さっきも言ったけどゲームで例えるから聞いてくれる?」
「うん、いいよ」
「ゲームを実戦とかで理解して、あとはキャラ差とか? そういうのも理解して、リスクとか相手の出方を読み合って、最終的には自分が勝つために対戦するんでしょ?」
そう、その通りだ。
勝つために行っている当たり前のことだ。
「そうだよ。それが遊びでなく、真剣なんだからそう考えるよ」。
そう言った後に、俺はあの苦い出来事を思い出して、次にそれを口にした。
「志穂、いつかのあの告白のことだけどさ。あまり思い出したくないけど、中学の頃に言ってたよね? ゲームに熱中する俺が好きって」
「うん。言ったよ」
「そうだね。だから志穂の言っていたさっきの最終的には勝つためにゲームに熱中していて、遊びと真剣も今は混ざっているんだけど、その結果で今の地域大会を優勝した俺がいるんだよ?」
「……うん……続けていいよ」
「これってゲームに熱中してきて、遊びから真剣になったから結果がついてきたんじゃないかな? それが志穂の好きな俺の姿勢とか魅力なんだろ?」
「熱中とは言ったけど、真剣とは言ってないよ」
「えっ?」
わけがわからない。
どっちも同じ意味でしかないはずだ。
熱中するってことは夢中になる。
夢中になるってことは真剣にやっているってことじゃないのか?
俺は真剣というか、最後だけ本気になった真柴の試合のあの瞬間を地域大会で一瞬だが感じた気がした。
真剣と本気は同じ意味じゃないのか?
俺はあの大会で『遊び』だったものが『本気』になりそうな変化を確かに感じた。
あの時の感動は認めてくれた人たちが、俺の真剣な気持ちや本気への変化の結果生まれたものではないのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます