第21話
フランクルトを奢っただけの関係だったが、今のところ過去の大会の映像を見るかぎりカルロに勝てるビジョンが浮かばない。
「沖田君。金曜の地域大会に学校サボっていってみなよ。欠席した分は私のノート写して授業解説するから」
「志穂。なんでそこまでするんだ?」
フラれた理由を思い出して、それがわかっていても俺は質問してしまった。
「なんでって言っても、沖田君のゲームに対しての貪欲さや真剣さは他の人とは違う気がするからかな。沖田君のそういうところは昔から好きだし頑張ってほしいと思うの」
「俺もそう思うじゃんか。ゲームしない沖田なんてただのバカじゃんか。痛えっ!」
俺は大槍の頬をつねる。
「悪かったなバカで……でも全国大会か……未知の世界に行けるものなら行ってみたいかも」
俺がそうぼやくと、昼休み中に中年の男が教室に来て俺の名前を呼ぶ。
その特徴的な声は聞き覚えがある。
「沖田。いるかー?」
その中年の男は俺のクラスの担任の先生だ。
朝叱られたばかりなのに、また説教かよ。
担任には正直叱られてばかりで良いイメージがない。
「おっ! そこにいたか。沖田。ちょっと職員室まで来い」
大槍と志穂が苦笑いをする。
「朝も大変だっただろうけど、昼休み終わるまでネチネチ言うと思うから頑張って我慢してね」
「だよなー。フジケンはネチネチいうしな。あいつが担任だと思うといつもメシマズじゃんか」
「そうだな。じゃあ行ってくる」
俺は2人にそう言って、職員室に行った。
※
「お前遅い時間までゲームセンターに行っているんだってな?」
ジャージを着た七三の髪型のフジケンは椅子に座りながら不機嫌そうな声でそう言う。
俺は立ちっぱなしで聞いていた。
「この前は欠席で親に電話したら、家事に夢中で息子の部屋や玄関を見ていなかったからわからなかったって話があったぞ。どうせ授業態度が普段から悪いお前のことだ。噂になっているぞ。その噂はゲームセンターでお前を見かけるという内容だ。どうせそのゲームセンターに行っていたんだろう?」
俺はしれっとした顔で答えた。
「いいえ。違います。登校中に熱が出て、近くの飲食店で休んで家に戻りました。その後自分の部屋で熱が下がるまで寝てました。母さんは気付かなかったみたいで、病欠の連絡が出来なかったんだと思います」
「ほぉ? まあ信じてやろう。沖田は勉強も普通だが運動は得意だろう? ゲームなんかやってないで部活でもやったらどうだ? 特にうちの学校はスポーツ関係の部でいい成績を残しているからな。特に去年全国大会まで進んだサッカー部とかバスケ部はいいぞ」
フジケンが笑顔でそう言うが、俺は黙ったままだ。
(俺がスポーツの部活動やっているなんて想像できないな。それに勉強や運動は良くて、ゲームは駄目なのかよ。そんなゲームって悪いことなのか?)
疑問を抱いて、その疑問をフジケンに言う。
「ゲームってそんないけないもんですか?」
そのことを言うとフジケンは少し黙った。
ほんのちょっとの数分程度の時間が経過したが、まるで一時間経ったかのような間があった。
それが不気味でこれからまるで悪いことしか起きないような気にさせる。
そしてフジケンは陰のある怖い表情に変わっていた。
ああ、やっぱりだ。
これは不機嫌な時のフジケンだ。
フジケンのこの表情は叱られている時によく見ていたので、慣れていると言えば慣れているが、担任になってまだ一か月だ。
やはり怖さが無いと言えば嘘になるかもしれない。
不機嫌な表情のフジケンはそのまま話を始める。
話し中で内容が疑問に思えても、俺の質問に答える気もないだろう。
どうせ質問してもさらに叱られるだろう。
それが例え正論だったとしてもだ。
俺は質問した答えが返ってくるのを諦めて、フジケンのいつものこっちの話を聞かない一方的な話を聞くことにする。
「お前なぁ……そんなゲームで続けて……将来どうするんだ? 学生の本分は文武両道! 勉強とスポーツだ。大学に進学して将来社会に貢献して役に立つことだ。大人になるって言うのはそういうことだ。それが正しい一人前の社会人という世間のお手本になるものなんだ。それなのにゲームは何があるんだ? 社会に出て貢献できるのか? 世間のお手本になるのか? え? おい?」
(何があるだと? うるせえよ! やってもいないくせに……そこに何があるか辿り着いて……それが実際に役に立つかどうか誰も知らないのに解ったかのように悪いことだとも言いたげに説教しやがって! 俺だってその先を知りたい。でもやらなきゃわかるはずがないだろ!)
そうだ。
わかるものか。
俺は感情が顔に出ないように俯いて、フジケンの説教を聞く。
両手に握りこぶしを作って力を入れて耐えていた。
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